今回は、報道間もない紀伊國屋書店さんの書籍流通の取り組みについて
ご紹介します。
みなさんもニュース等でこの話題に触れられたと思いますが、大手書店
の紀伊国屋書店さんは、9月10日に刊行された村上春樹さんのエッセイ
「職業としての小説家」の初版100,000部のうち、90,000部を出版元の
スイッチ・パブリッシングさんから直接「買切り」という条件で仕入れました。
通常書籍は、委託販売制により流通取次業者を通じて各書店に卸される
形を取り、一定期間経過すると返品が可能となっています。
今回、紀伊国屋さんは異例ともいえる返品が行えない「買切り」という
条件で在庫を抱える方法を取ったのです。
予測では、3~40,000部を全国にある紀伊国屋さんの店舗で直接販売し、
残りは直接取引や流通取次業者を通じて他の書店に卸します。
これを見越して、4月に丸善さん、ジュンク堂さんを傘下に持つ大日本印刷さんとの合弁会社も設立されており、この会社から販売される書籍については、一定の返品枠を設定するなどして中小書店の負担軽減と町の本屋さんを活性化していこうという思慮もあるようです。
「買切り」のメリットとしては、流通取次業者を通さない分、利幅も大きくなり、欲しいだけの冊数を注文する事ができ、実店舗優先で販売する事で台頭するインターネット書店にも対抗できます。
今回、インターネット書店には約5,000部が卸されたようです。
「買占め」や「独占禁止法に抵触?」などネガティブな話題も出ましたが、問題はないようです。
デメリットとしてもっとも大きいのが「在庫を抱える」というリスクを負う事ではないでしょうか。
委託販売は利幅が少ない分、売れない本は返品し常に最新刊、人気書籍を売場に置く事で売上が作れます。
流通取次業者も返品を受け、売上の高い書籍を卸さなければ売上が作れないといった業界特有のサイクルが出来上がっていました。
そこに今回、紀伊国屋さんが一石を投じた形になりました。
「買切り」については、中小出版社の卸が中抜けとなってしまい、委託販売制の崩壊を危惧する声も聞こえます。
しかし、流通取次業者から見れば、返品が減れば売上も増えるという考え方もあります。
在庫を持つ企業がどうしてもぶつかる「在庫」という困難な壁に紀伊国屋さんも悩まされる覚悟を持たれ「どうすれば売り切れるかを考えている」とのコメントも発表されています。
今の所、結果は好調で今後も出版社からの書籍の「買切り」拡大に乗り出されるようです。
業界の流通が大幅に変わる事は滅多に無いと思います。
地元の書店も含め、今後の動向が気になります。