今回は、看板商品がそのまま社名というユニークな企業、
味の素株式会社さんのご紹介です。
同社は1909年創業で、100年以上の長い歴史を持たれており、
グループで130を超える国と地域で製品を販売されています。
今回は、味の素さんのロジスティクス戦略に注目したいと思います。
◆非効率な在庫管理
かつて、味の素さんの在庫管理は工場で生産した製品を得意先に直送するか、支店倉庫に移動。
得意先からの受注や支店倉庫への補充業務などの在庫管理は、各拠点で行っていました。
そのため、支店倉庫の在庫が品薄になると各拠点で奪い合いが起きていました。
一方工場では、作ったものを支店倉庫に発送すれば「売れた」という感覚に陥っていたそうです。
適切な在庫管理ができていなかった結果、在庫過多が発生するなど大変効率の悪いオペレーションでした。
◆物流ネットワークの再構築
在庫管理の見直しを行い、これまでの「各拠点在庫」という概念を払拭し「全社在庫管理」という考え方を導入しました。
工場で生産された製品は、補充元拠点(兼配送拠点)を経て各配送拠点に、そこから得意先に直送するか中継協業会社を通じ、協業会社貨物と共配するなどの物流ネットワーク再構築を行い、現在の物流ネットワークができ上がりました。
物流ネットワークの再構築と共に受注についても東京に集約されました。
しかし、その当時「リスクマネジメント」という言葉が囁かれるようになり、東京で大地震が来ると対処できなくなる事を懸念して東京と群馬に分散。
その後年には三重と佐賀の2ヵ所体制に移行しました。
◆震災時の混乱
そして、3.11 東日本大震災が起きました。
人的被害はありませんでしたが、仙台物流センターが被災、津波による浸水により在庫は全損、配送拠点としての機能も完全に麻痺してしまい、
大きな混乱はなかったものの、完全復帰は7月に入ってからでした。
社内に大混乱を巻き起こしたのは、同じく被災した川崎物流センターでした。
地震の揺れで在庫が落下し、スプリンクラーの破損で倉庫全体が水浸しになりました。
当時、生産とロジスティクスを一元的に見る組織がなかったため、入庫できない川崎物流センターの在庫を、工場でフル生産してしまうという事態が発生しました。
周辺倉庫を借りて何とかその場は凌ぎましたが、在庫が分散してしまい、出荷の際にその在庫を集めて来なければならず対応が複雑化し、対策が後手に回りました。
さらに、在庫の汚損状態を1つずつ検品し、他の倉庫に移動するという非効率な作業が混乱に拍車をかけ、在庫の出荷に優先順位がつかず、
トラックや在庫の奪い合いが起きました。
中には出荷倉庫に無断で、工場から直接在庫を持ち出す営業員がおり、あるはずの在庫がなくなるという混乱も発生しました。
◆BCPからECPへ
震災後からBCP(事業継続計画)という言葉が急速に広がり、拠点や業務の分散化、共同化が様々な企業で取組まれてきました。
重要なデータやサーバについても社内に置かず、クラウドやデータセンターに預けるという企業も増えているといいます。
味の素さんでも東日本大震災発生後、従来のBCPを全社的に見直して
①人命最優先
②社会
③事業責任
とした基本方針を掲げ、従業員と家族の安全、人名救済基本とした支援、事業再開を防災の基本方針として防災に取組まれています。
物流についても、1つのルートが寸断されてもそれをカバーする配送拠点やルートも確保し、在庫の分散化と物流ネットワークの複線化のため、全国に9拠点あった生産入庫基地を東西2拠点に集約されました。
加えて、被災時でもメールを早急に復旧させる事で従業員の安全確認と業務が継続できるよう、メールのクラウド対応も行われました。
これらの取組みはBCPをもっと広義で捉えたECP(企業継続計画)というのだそうです。
最近、火山活動の活発化や地震の発生が数多く報道されていますが、企業としての防災意識も高めていければと思います。