データ標準化でニッポンの物流は生まれ変わる ~物流の未来を示す~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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データ標準化でニッポンの物流は生まれ変わる ~物流の未来を示す~

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明治維新から始まった日本の近代化は、まさに「和魂洋才」の精神で進められてきました。西洋の技術を取り入れながらも、日本固有の文化や価値観を守り続けてきたのです。
しかし、物流業界におけるデジタル化と標準化の現状を見ると、この「和魂洋才」の精神が、皮肉にも発展の足かせとなっているようにも見えます。かつて、江戸時代の五街道や中山道では、驛(えき)制度による効率的な物流システムが確立されていました。各宿場町が標準化された役割を担い、全体として円滑な物流網を形成していたのです。現代の物流業界は、この統一された仕組みとは対照的に、各社が独自の最適化を追求するあまり、全体としての効率性を失ってしまっているのではないでしょうか。

それは、まるで明治時代初期の私鉄の乱立期のようです。各社が独自の規格で線路を敷設し、結果として非効率な鉄道網が形成されていった時期があったように、現代の物流業界も、各社の独自システムの乱立により、業界全体としての効率性が損なわれています。しかし、鉄道が最終的に規格の統一を実現し、現在の効率的な鉄道網を築き上げたように、物流業界もまた、デジタル時代における新たな標準化への道を模索する時期に来ているのではないでしょうか。

本稿では、この歴史的な転換点における物流データ標準化の課題と展望について考察していきます。

2025年1月18日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)


<目次>

1.なぜ日本の物流は標準化が遅れているのか?

2.海外の成功事例から学ぶ標準化

3.日本の物流データ標準化に向けた最適解

4.実行可能性と戦略性

5.物流データ標準化の未来へ向けて

1.なぜ日本の物流は標準化が遅れているのか?

日本の物流データ標準化の未来について考えるとき、まず直面するのは、なぜこれほどまでに日本の物流業界で標準化が進まなかったのかという疑問です。この問いに答えることが、将来の戦略を描くうえで不可欠です。日本人の勤勉さ、技術力、そして細やかさを考えると、もっと先に進んでいても良さそうなものです。その答えの一つは、日本人の「カイゼン精神」にあるのかもしれません。常に改善を求めるあまり、創意工夫が個別最適に拘る結果となってしまったという説です。業界全体で共通の基準を作り、それを守るというよりも、それぞれの企
業が独自の最適解を追求してきた結果、多様なシステムやプロセスが生まれ、標準化の足枷となったと考えられます。もう一つの要因は、過去の成功体験です。日本の物流業界は、高度な顧客対応能力や効率的な現場運用によって、独自の発展を遂げてきました。しかし、この成功が既存システムへの固執を生み、変革への意欲を鈍らせる結果となっています。

欧米では、業界の巨大企業が主導して標準化を進めるケースが多く見られます。しかし、日本の物流業界は、中小企業が多数を占めており、業界全体を束ねるような強力なリーダーシップが欠如していたことも、標準化の遅れの一因と言えるでしょう。特に注目すべきは、業界VANの状況です。欧米では既に統合が進んでいる一方、日本では数百以上のVANが乱立している状態です。これは、各企業が独自の効率化を追求した結果であり、日本企業の緻密さと完璧を求める姿勢の表れとも言えます。

2.海外の成功事例から学ぶ標準化

この状況を打破するためには、海外の成功例から学ぶことが重要です。たとえば、欧州では、Cofinity-xのようなプラットフォームが、製造業界のデジタル化を加速させています。Cofinity-Xは、欧州の自動車業界が設立した新しい組織で、データの安全かつ効率的な交換を促進することを目的としています。BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンなどの主要企業が参加しており、Catena-Xデータスペースの運用を担当しています。これにより、企業間でのデータ共有が容易になり、サプライチェーン全体のトレーサビリティやカーボンフットプリントの追跡が可能になります。

※カーボンフットプリントとは?・・・商品やサービスがライフサイクル全体を通じて排出する温室効果ガスの総量を示す指標。具体的には、原材料の調達から製造、流通、消費、廃棄に至るまでの各工程で排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの量を計算し、CO2量に換算して表示します。

国内でも、DATA-EXのような取り組みが注目されています。DATA-EXは、日本の各業界におけるデータ標準化を推進するためのプラットフォームであり、異なるシステム間でのデータ連携を可能にし、サプライチェーン全体の効率化に貢献しています。しかし、これらのプラットフォームの普及には、まだまだ時間がかかるでしょう。


3.日本の物流データ標準化に向けた最適解

日本の物流データ標準化は、決して不可能な夢ではありません。むしろ、今こそ抜本的な改革が必要な時期に来ていると言えるでしょう。以下に、日本の物流データ標準化に向けた最高の解を示します。

ステップ1:共通の言語を創出する

まず、物流に関わるすべてのステークホルダーが共通して理解できる、シンプルな言語を創出する必要があります。これは、物流業界における「共通言語」のようなもので、すべてのデータがこの言語に基づいて表現されるようにします。業界全体で統一されたデータ規格を策定することです。これには、政府や業界団体が主導して標準化の枠組みを構築する必要があります。具体的には、ISOのような国際規格を参考にしつつ、日本独自のニーズを反映させた規格を設計します。具体的には、EDIフォーマットの統一と、基本的な物流データ項目(配送情報、在庫情報など)の標準化です。この際、既存のシステムとの互換性を確保しながら、段階的な移行を可能にする設計が重要です。

ステップ2:コアシステムを標準化する

次に、すべての物流企業が共通して利用できるコアシステムを開発・導入します。このコアシステムは、受発注、在庫管理、輸送管理など、物流業務の基礎となる機能を備えており、すべての企業が同じルールで業務を行うことを可能にします。標準化されたデータ形式を基に、異なるシステム間の連携を実現します。このフェーズでは、API連携の標準化と、セキュリティプロトコルの確立が重要になります。
特に、中小企業でも導入しやすい低コストのソリューションの提供に注力します。

ステップ3:データプラットフォームを構築する

このプラットフォームは、荷主、運送業者、倉庫業者など、すべての関係者がシームレスにデータを共有できる環境を提供します。
コアシステムで生成されたデータを一元管理するための、大規模なデータプラットフォームを構築します。このプラットフォームは、AIや機械学習を活用し、データを分析することで、物流の効率化に貢献します。
クラウド技術やブロックチェーン技術を活用することで、データの信頼性とセキュリティを確保しながら、効率的なデータ共有を実現します。この技術基盤は、物流企業が簡単に導入できるものである必要があります。

ステップ4:規制緩和とインセンティブの創出

標準化を進めるには、企業にとってのメリットを明確に示す必要があります。たとえば、標準化によって得られるコスト削減や業務効率化の具体的な事例を提示し、参加企業にインセンティブを提供します。
また、政府が補助金や税制優遇を通じて支援することも効果的です。

ステップ5: パイロットプロジェクトの実施

小規模なパイロットプロジェクトを実施し、その成果を示すことで、業界全体の関心を引きつけます。たとえば、特定の地域や輸送ルートで標準化を試験的に導入し、その結果を詳細に分析・公表します。

ステップ6:人材育成と意識改革

新しいシステムの導入に伴い、物流業界で働く人々のスキルアップが不可欠です。政府や業界団体は、人材育成のためのプログラムを開発し、物流業界全体のデジタル化を支援する必要があります。
現場レベルでの意識改革も不可欠です。従業員や管理職に対する教育プログラムを通じて、標準化の重要性とその利点を周知します。また、顧客とのコミュニケーションを改善し、電話やFAXからデジタルツールへの移行を促進します。


4.実行可能性と戦略性

この戦略は、一見難しく思えるかもしれませんが、実は非常にシンプルで、実行可能なものです。共通の言語、コアシステム、データプラットフォームという3つの要素を軸に、物流業界全体をデジタル化していくという考え方です。この戦略において重要な点は、大企業から中小企業まで、すべての企業が参加できるスーケラビリティ、新しい技術やサービスの導入に対応しやすい柔軟性、一度構築されたシステムは、長期的に利用できる持続性の3点です。

一度にすべてを変えるのは不可能なので、段階的に標準化を進めます。まずは最も影響が大きい部分から着手し、徐々に範囲を拡大します。標準化の推進には、多様な利害関係者を巻き込むことが必要です。物流企業だけでなく、荷主やITベンダー、政府機関も含めた包括的な協力体制を構築します。また成功事例を積極的に共有し、他企業が参考にできるようにします。これにより、標準化への関心を高め、参加者を増やすことができます。

ただし、日本の物流データ標準化を推進するうえで、各企業が使用しているシステムやデータ形式が異なる、競争意識が強く、データを共有することへの心理的抵抗が根強い、日本特有の現場主義や顧客第一主義が、標準化の妨げとなるといった課題があります。データ共有に関連する法規制やセキュリティの問題も解決が必要です。

これらの課題を克服し、日本の物流データ標準化が実現すれば、手作業による転記やデータ入力が削減され、作業時間が30%以上削減され、システム運用コストが20%以上削減、データ連携による新たなビジネスモデルの創出、効率的な配送計画による CO2 排出量の削減などが期待できます。


5.物流データ標準化の未来へ向けて

日本の物流データ標準化は、決して簡単な道のりではありません。しかし、政府、業界、そして企業が一体となって取り組むことで、必ず実現できる目標です。むしろ、日本の物流業界が持つ高い現場力と、デジタル技術を組み合わせることで、世界をリードする新たな標準を作り出せる可能性を秘めています。重要なのは、「完璧を求めすぎない」という姿勢です。段階的なアプローチを取りながら、実現可能
な部分から着実に進めていくことで、持続可能な標準化を実現できます。また、この過程で得られる知識と経験は、他の産業分野のデジタル化にも活かせる貴重な資産となるでしょう。この戦略を実行することで、日本の物流業界は、世界でもトップクラスの効率性と生産性を誇る産業へと生まれ変わることができるのです。変化を恐れず、新しい技術やアイデアを受け入れ、すべてのステークホルダーが協力し、共通の目標に向かって進みましょう。

日本の物流業界は、いま大きな転換点に立っています。データ標準化という課題に真摯に向き合い、解決していくことで、より効率的で持続可能な物流システムを構築することができます。それは、単なる業務効率化にとどまらず、日本の産業競争力の強化にもつながる重要な取り組みとなるはずです。物流業界の未来は、私たちの手に委ねられています。


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