総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)の振り返りと今後の展望|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)の振り返りと今後の展望

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「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」は、日本の物流業界が直面する多岐にわたる課題に対応し、持続可能かつ強靭な物流体制を構築するための包括的な計画です。
本大綱では、物流が社会インフラとして果たす役割を再確認するとともに、社会環境の変化に対応した物流の改革と発展の方向性が提示されています。
日本の物流政策は、令和3年6月に閣議決定されたこの「総合物流施策大綱」に沿って行われています。2025年を迎えた今、これまでの取り組みを振り返ることは、今後の物流政策の方向性を定める上で大変重要な意味を持ちます。本大綱が掲げた「簡素で滑らかな物流」「担い手にやさしい物流」「強くてしなやかな物流」という三つの目標に向けて、デジタルトランスフォーメーション(DX)を基軸とした様々な施策が展開されました。特に、新型コロナウイルス感染症がもたらした社会変革は、非接触型物流の普及を加速させ、デジタル化の重要性を一層際立たせることとなりました。

労働力不足という構造的な課題に対しては、自動化技術の導入や業務プロセスの標準化が進められ、一定の成果を上げています。また、頻発する自然災害や気候変動への対応として進められた物流ネットワークの強靭化は、日本の産業競争力の維持・向上に貢献してきました。しかしながら、グローバルなサプライチェーンの変容や新たな技術革新の波は、さらなる変革を私たちに求めています。

本稿では、物流大綱の歴史を振り返りながら第7次大綱で注目される物流DXと標準化に焦点を当て、今日までの成果と課題を詳細に分析し、次期大綱策定に向けた示唆を提供します。

2025年1月3日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)


<目次>

1.物流大綱の変遷と残された課題

2.物流DXを柱とした物流の最適化と標準化

3.物流大綱の3つの目標を実現するためのステップ

4.第8次物流大綱に向けて

5.おわりに

1.物流大綱の変遷と残された課題

総合物流政策大綱(以下「物流大綱」)は、1997年に閣議決定された後、4年ごとに更新されています。我が国における物流政策の基本方針であり、現在は2021年度から2025年度を対象とした第7次物流大綱が適用されています。1997年の第1次物流大綱では、物流サービスの向上、物流コスト削減、環境問題対応を目標に掲げ、産業競争力を高めることを目指しました。
その後の改定では、物流効率化、環境負荷軽減、安全確保が共通の目標として設定されました。第6次(2017-2020年度)では、「繋がる」「見える」「支える」「備える」「革命的に変化する」「育てる」の6つの方法論を提唱し、現在の第7次大綱(2021-2025年度)は、以下の3つの目標に掲げています。

1.物流DXや標準化による最適化(簡素で滑らかな物流)
2.労働力不足への対応と物流構造改革(担い手にやさしい物流)
3.強靭で持続可能な物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流)

今日までの物流施策大綱の取り組みにおいて、特に物流DXと労働力不足対策の分野で多くの課題が残されていることが明らかになっています。物流DXについては、政府がデジタル化推進のためのガイドラインを整備したものの、現場での実装は依然として進んでいない状況です。その背景には、物流業界特有の構造的な課題があります。多数の運送会社が関与する業界構造において、各社が専門チームを持てないという人材面での制約、さらにはシステム上の理論的な最適解と現場での実務的な最適解との間にギャップが存在するという技術的な課題が浮き彫りになっています。

また、荷主と物流事業者間のデジタル連携についても、両者の目的の不一致が障壁となっています。荷主は確実な配送を重視する一方、運送業者は効率性を追求するという異なる視点から、データ共有や標準化が進まない状況が続いています。特に、配車情報や荷物情報といった重要データの共有が十分でないため、輸送の効率化が妨げられている実態が明らかになりました。労働力不足への対策については、待遇改善が思うように進んでいないことが大きな課題として挙げられます。特に日本特有の丁寧なサービス文化が、かえって生産性を低下させる要因となっており、付加的な作業に対する適切な対価が支払われていない現状も浮き彫りになっています。

さらには、情報化が進む現代、リードタイム短縮の課題が浮き彫りになっています。ネット通販を例に見ると、商流はインターネットの普及により劇的に短縮されました。しかし、物流は自動化が進んだとはいえ、物理的な作業や移動が伴うため、短縮には限界があります。情報化の恩恵は商流に大きく偏り、物流の効率化は依然として課題を抱えたままと言えるでしょう。
このギャップが、荷主(商流)と配送(物流)の間で認識のずれを生じさせており、荷主は情報化の進展により、迅速な受発注、すなわちリードタイムの短縮を当然と考えるようになりました。
しかし、配送側は物理的な制約、例えばトラックの移動時間や倉庫での作業時間など、情報化だけでは解消できない課題を抱えています。この認識のずれが、納期遅延やクレームといった問題を引き起こす要因となっています。

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2.物流DXを柱とした物流の最適化と標準化

日本の物流は、人口減少と労働力不足、災害の激甚化など、重大な課題に直面しています。特に労働力不足は物流業界全体に深刻な影響を与えており、効率化と省人化が喫緊の課題とされています。また、気候変動や災害リスクの増大に対応するため、強靭な物流ネットワークの構築が求められています。これらの課題を解決するため、本大綱では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を柱とした物流の最適化や標準化を強力に推進する以下の3つの方針が示されています。

1.物流DXによる最適化(データ活用とプロセス最適化)
2.労働力不足への対応(ロボット、AI、IoTへの投資)
3.強靱な物流ネットワークの構築(災害や緊急時における柔軟性の確保)

先に述べた本大綱の「簡素で滑らかな物流」「担い手にやさしい物流」「強くてしなやかな物流」の3つの目標を実現するため、物流現場のデジタル化を推進し、業務プロセスの電子化やデータの共有を促進します。また、非接触型物流の普及や自動化技術の導入を通じて効率性を高め、労働環境の改善にも取り組む方針です。さらに、災害や緊急事態に対応できる強靭な物流ネットワークを構築することが、地球環境の持続可能性を確保するための重要なステップとされています。

本大綱の計画は、産官学の連携を強化し、多様なステークホルダーが一丸となって推進することを前提としています。この計画の実行を通じて、日本は物流を新たな競争力の源泉とし、国際的な地位を強化することを目指しています。


3.物流大綱の3つの目標を実現するためのステップ

私の考える物流大綱の3つの目標を達成するための実現ステップを以下に要約します。まずは対策を大きく4つの要素に分解する必要があると考えます。

1.物流の第一原理の再構築
物流の非効率性の根本原因は、手続の複雑性とデータ共有の欠如の大きく2つの要因だと分析します。まずはAPIによるシステム間連携の標準化を進めることで、リアルタイムデータ共有による意思決定の迅速化を図らなければなりません。その先の理想的なソリューションは、完全デジタル化されたスマートサプライチェーン以外に考えられません。例えば、ブロックチェーン技術を利用した透明性の高い取引システムなどが理想のイメージに近いでしょう。

2.分野横断的アプローチによる設計
芸術的なシステムデザイン思考と科学的手法を組み合わせた「物流ネットワーク」、「物流施設」、「ユーザー体験(UX)を重視した物流システム」の設計です。ビッグデータ分析による需要予測の高度化、AIによる配送ルート最適化と資源配分、これらを組み合わせたデジタルシミュレーションによる事前検証を行うことで、作業効率とエコフレンドリーな環境を両立する物流を設計可能だと考えます。

3.パラドックスの超越
長い間、物流の世界では、コスト削減と配送速度の向上は相反する目標と考えられてきました。つまり、コストを削減するとサービスの質が低下し、逆にサービスの質を向上させるとコストが増加するというパラドックスが存在していたのです。しかし、ドローンや自動配送ロボットなどの最新技術を活用することで、コストを削減しながらも配送速度を向上させることが可能な時代となりました。ドローンは空路を利用するため、地上の交通渋滞を回避し、迅速な配送が可能です。また、自動配送ロボットはAIによるルート最適化を行い、最短ルートで配送を行います。
ドローンや自動配送ロボットの導入により、コスト削減と配送速度向上の両立を実現することが可能になります。従来のパラドックスを超越し、物流業界は新たな次元へと進化していくことでしょう。

4.エネルギー効率と未来社会への貢献
再生可能エネルギーを活用した物流施設や電動車両の普及が急務です。物流施設への太陽光発電システム導入、電動車両の充電インフラ整備、エネルギーマネジメントシステムの導入、循環型物流システムの構築によって、エネルギー効率の向上と温室効果ガス排出量削減しなければなりません。

それぞれの対策については、以下のステップで推進します。

1.基盤の整備:デジタル化とデータプラットフォームの導入。
2.規制改革と標準化:物流業界全体での標準化を推進。
3.パイロットプロジェクトの実施:選定地域での技術実証を進め、段階的にスケールアップ。

これらを進める上での課題と対策は、以下の通りです。

<課題と対策>
課題:導入コスト、技術的ハードル。
対策:官民連携による補助金制度、教育プログラムの提供。


4.第8次物流大綱に向けて

これまでの物流大綱の変遷を見ると、各時代の課題に対応しながら、「発展」→「進化」→「継承・発展」という流れで新たな価値を創造してきたといえるのではないでしょうか。第8次に求められ
るのは「創造的革新(Creative Innovation)」ではないでしょうか。私の考えるその具体的な方向性を以下に要約します。

1.中小事業者の物流DXの推進
物流DXのさらなる推進においては、何よりも中小事業者向けDX支援策の強化が重要です。 多くの中小物流事業者は、DX導入に必要な資金や技術ノウハウが不足しているためです。
中小事業者専用の補助金や融資枠の設置、 廉価な物流管理システムの標準提供、 地域単位でのデジタル教育プログラムの提供などが急務となります。

2.サプライチェーン全体でのデータ共有基盤の構築
データ共有が進むことで、物流全体の最適化が可能となります。具体的には データ連携基盤(データエクスチェンジ)の標準規格化、 利害関係者間でのプライバシー保護を考慮した契約・運用ルールの策定、 データ共有を通じたAI活用による予測モデルの開発が必要になります。

3.標準化の加速とグローバル連携
物流標準化を加速するためには、「標準化ロードマップ」の策定が急務です。業界横断的な協議体を設置し、統一基準を定めた長期計画を策定します。 また法規制の整備も必要です。特定の標準規格を採用する企業に対する税制優遇や助成金制度の導入を進めます。

グローバル標準との整合性確保については、日本国内の物流標準を国際規格(ISO)と整合させ、輸出入の効率化を図ることで対策します。また、アジア地域における物流基盤の整備にも積極的に関与すべきです。

4.サステナブル物流の促進
環境負荷軽減のためのインセンティブの設計が肝になります。脱炭素化支援においては、EVトラックや燃料電池車の導入促進のための助成金拡大が期待されます。 共同配送の促進においては、荷主間での配送共有を推進するための仕組み作りが重要です。とくにコスト配分の明確化が共配の成否を分けると考えます。参加する企業間での公平なコスト分担を実現するため、貨物量、配送距離、時間帯などの要素を考慮した透明性の高い料金算定モデルを構築します。季節変動や特殊な配送要件に対応できる柔軟な料金体系を設定し、参加企業の納得性を確保することが重要になります。また、物流の中で重要性が増す廃棄物物流において、廃棄物回収・再利用プロセスの効率化を支援するための制度設計も必要になります。

5.労働力不足への対応策強化
労働時間の適正化については、AIを活用した配送計画の最適化で運転手の負担軽減を図ります。 福利厚生の充実については、物流従事者向けに住宅支援や教育支援を拡大できると良いでしょう。
自動化技術の普及については、無人化技術の実装のため、ドローン配送や自動運転技術の社会実装を推進するための取り組みや、ロボット技術を用いた自動倉庫管理の導入支援を拡充していくことが求められます。

6.地域物流と都市物流の再設計
地方部の物流拠点を整備し、災害時でも持続可能な物流ネットワークを構築することで地域物流の強靭化を図ります。地域内での循環型物流システムの設計です。 都市型の物流効率化については、ラストマイル配送の最適化のため、モビリティハブの設置や自転車配送の普及を促進しつつ、都市内の夜間物流の活用を進めるための規制緩和を検討します。
■第7次物流施策大綱実践マップ
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5.おわりに

物流政策の新たな指針となる次期大綱の策定には、従来の枠組みを超えた包括的なアプローチが不可欠だと思います。その核心となるのが、多様なステークホルダーの知見を結集することです。
荷主、物流事業者、行政、学界、そして市民社会からの幅広い意見を集め、真に実効性のある政策の立案を期待します。また物流政策と他の重要政策との戦略的連携も必要です。少子高齢化がもたらす労働力の構造的変化や、地方創生という国家的課題との整合性を図りながら、統合的な政策設計を進めることが求められます。

政策の実効性を担保する上で、客観的な評価システムの確立も重要な要素となります。具体的な数値目標を設定し、その達成度を定期的に測定・評価する仕組みを組み込むことで、PDCAサイクルの実質的な運用が可能となります。次期大綱の成否を左右する鍵は、デジタルトランスフォーメーション(DX)と業務標準化の徹底的な推進にあります。これらを基軸としながら、環境負荷の軽減や深刻化する労働力不足といった社会的課題への対応を加速させることが重要です。だだし、こうした技術革新の推進は、現場の実態や要望を十分に考慮した上で進められるべきです。

理想と現実のバランスを取りながら、着実な変革を実現することが肝要です。このような創造的革新を通じて、物流は単なる物資の移動という従来の枠組みを超え、社会全体の価値創造を担う基盤インフラへと進化することが期待されます。

第8次物流大綱には、こうした変革を統合的に推進する明確な指針と、具体的な実行計画の提示が求められるのではないでしょうか。物流は、経済活動の血流であると同時に、社会の持続可能性を支える重要な基盤でもあります。次期大綱の策定プロセスを通じて、この認識を社会全体で共有し、新たな時代にふさわしい物流システムの構築に向けて、官民一体となった取り組みを加速させていきましょう。


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