AI時代の物流の未来を描いた想像力豊かなイラスト。シーンには、自律型ドローン、荷物を仕分けるロボットアーム、リアルタイムデータとAI分析を表示するデジタルダッシュボードを備えたハイテク物流ハブが含まれています。AIフィールドバックサイクルは、すべての要素を結び付けて空に輝く円形フローチャートとして視覚化され、効率性とインテリジェンスを強調しています。設定は未来的でクリーン、そして鮮やかで、青と緑のパレットはテクノロジーと持続可能性を表しています。
デジタル革命は、18世紀後半に始まった産業革命に匹敵する大きな変革をもたらしています。蒸気機関の発明が製造業を一変させ、大量生産を可能にしたように、現代のデジタル
技術とAIは、企業の事業モデルと価値創造の方法を根本から変えつつあります。特に注目すべきは、この変革の速度です。産業革命期の技術革新が数十年かけて社会に浸透していったのに対し、現代のデジタル技術の進化と普及は、はるかに速いスピードで進んでいます。私も生成AIの進化を必死で追いかけていますが、ほぼ毎日のように新しいツールや機能がリリースされていることに驚くとともにワクワクしています。
1946年にENIACが登場してからわずか80年足らずで、私たちはスマートフォンという、かつての大型コンピュータをはるかに上回る処理能力を持つデバイスを、ポケットに入れて持ち歩けるようになりました。このような急速な技術的進化の中で、企業が競争力を維持・向上させていくためには、従来の段階的な改善アプローチだけでは不十分です。今回提示する「AIフィードバック・サイクル・システム」という考え方は、まさにこの課題に対する解答の一つと言えるでしょう。かつての改善活動が、人間の観察と経験に基づく比較的遅いサイクルで行われていたのに対し、デジタル技術とAIを活用することで、より速く、より正確な改善サイクルを回すことが可能になってきています。これを私は「アジリティの獲得」と表現しています。それでは早速詳しく解説していきましょう。
2024年12月22日 執筆:東 聖也(ひがし まさや)
1.驚異的な普及速度を誇る生成AI
ChatGPTの広まり方は驚異的でした。2022年11月に公開されてから、わずか2か月で月間アクティブユーザー数が1億人に達しました。これは、他の主要なSNSアプリと比較しても非常に速いペースです。例えば、TikTokが同じユーザー数に達するのに9か月、Instagramは2年半かかりました。以下のグラフはChatGptが公開されてから、日本のアクセス数の推移を現わしたものです。公開から約3ヶ月で1日のセッション数が500万に達していることが分かります。そこからさらに1ヶ月で200万以上のセッション数を増やしています。まさに驚異的なスピードです。日本の労働人口(約7千万人)のおよそ1割の人がこの短い期間でChatGptを利用している計算になります。
(出典:2023年5月 NRIレポートより)
2.4つの要素で構成されるフィードバック・サイクル
多くの企業では現在、デジタル技術を使って顧客へ新たな価値を提供すべく、「デジタル化の中長期計画」に基づいて様々な施策を推進していることと思います。この潮流の中で、私たちは物流のデジタル化において、独自の視点を持って商品開発を進めています。その核心は、4つの要素で構成される「フィードバック・サイクル」です。「課題・仮説の設定」から始まり、「データ収集・情報化」を経て、「意思決定」に至り、最後に「アクション」へと結実させます。このサイクルを可能な限り高速に循環させることで、物流全体のアジリティを獲得することで、オーダーサイクルタイムの最小化を図るのです。(※オーダーサイクルタイムとは、オーダーから最終ユーザーに商品が届くまでの期間)この取り組みがもたらす効果は、単なる効率化を超えて、組織全体に波及します。内部プロセスの進化が物流システム全体の革新を促し、その成果は最終的に、お客様への価値提供につながります。そして、このビジョンを実現する上で、最も重要な基盤となるのがデータです。特にAIの活用においては、その重要性が一層際立ちます。データソースからAIへの投入に至るまでの一連のプロセスでは、それぞれの用途に最適化されたデータの粒度、項目、取得頻度を慎重に定義し、それらを効果的に加工・蓄積する方法論を確立することが不可欠です。この点は、デジタル時代における企業の競争力を左右する重要な要素となることは間違いないでしょう。
3.デジタル化の本質はアジリティの獲得
私たちが示すデジタル化の本質は、フィードバック・サイクルの高速化を通じた”アジリティの獲得”にあります。目指すべき未来像から逆算すると、高速なフィードバックサイクルによる継続的な進化が、企業の競争力を決定づける重要な要素となることが分かります。このサイクルは「課題設定・改善策の仮説策定」から始まり、「データ収集」「意思決定」「アクション」という4つの段階を経て、再び課題設定に戻るサイクルを形成しています。
特筆すべきは、各段階でAIとデジタル技術を効果的に組み合わせている点です。課題設定では生成AI(ChatGPT)を活用し、情報収集ではデータアーキテクチャやIoT、ERPやWMSを駆使しています。意思決定段階では従来型AI(数理モデルや機械学習)と生成AIを組み合わせ、アクション段階ではAGVやロボットによる自動化、WMSやWCSによる効率化を実現しています。
このアプローチの核心は、データの質と活用にあります。AIの効果的な活用には適切なデータ基盤が不可欠であり、データの粒度、項目、取得頻度を用途に応じて最適化する必要があります。これは単なるデータ収集にとどまらず、将来の活用を見据えた戦略的なデータ設計を意味します。さらに、このデジタル変革を成功させるには、技術面だけでなく組織的な対応も重要です。デジタル人材の育成・確保、部門を超えた協力体制の構築、そして何より変革を受け入れ推進する組織文化の醸成が必要となります。
このような総合的なアプローチにより、物流プロセスの効率化だけでなく、意思決定の質と速度の向上、そして最終的には顧客への価値提供の最大化が実現可能となります。特に注目すべきは、このフィードバックサイクルが単なる業務改善のツールではなく、組織全体の進化を加速させる推進力として機能する点です。結論として、私たちのアプローチは、デジタル化を単なる技術導入ではなく、企業の成長を加速させる手段として捉えている点で先進的です。このアプローチが成功すれば、企業の競争力強化と顧客価値の向上という二つの目標を同時に達成することが可能となるでしょう。
最後に、このような取り組みの成否は、AI時代を見据えてデータ基盤を最重要資産として、再構築することです。 データを全社の資産として活用し、継続的な改善を行うことが重要です。
技術や市場環境の変化に柔軟に対応しながら、フィードバックサイクルを回し続けることが、長期的な成功への鍵となるでしょう。