成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~CLO設置編~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~CLO設置編~

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 画像素材:PIXTA(ピクスタ)

物流革命の波が日本の製造業に押し寄せています。2024年4月、一定規模以上の荷主企業に「物流統括管理者(Chief Logistics Officer:CLO)」の設置が義務づけられ、2026年度までの任命が求められます。これは単なる法令遵守の問題ではありません。CLOというのは物流部ということではなく、取締役として企業の物流全般の責任を負うことになります。グローバル競争の激化、サプライチェーンの複雑化、そして持続可能性への要求が高まる中、CLOの存在は製造業の未来を左右する重要な戦略的ポジションとなりつつあるのです。

しかし、日本企業にとってCLOは新しい概念であり、その役割や重要性について十分な理解が進んでいないのが現状です。(※現在CLOを設置している日本の荷主企業の割合はたったの2%)。多くの製造業の経営者は、CLOをどのように位置づけ、どのような人材を任命し、どのように活用すべきか、明確なビジョンを持てていないのではないでしょうか。

本稿では、製造業がCLOを設置する上での注意点とその戦略的意義を深く掘り下げます。物流を単なるコストセンターから、イノベーションと競争優位性の源泉へと転換させるCLOの可能性、そして日本の製造業が直面する課題と機会について、具体的な事例や最新の知見を交えながら考察していきます。CLOの設置は、製造業にとって単なる義務ではなく、事業モデルの変革と持続的成長のための絶好の機会となり得るはずです。本稿を通じて、読者の皆様がCLOの真の価値を理解し、自社の競争力強化に向けた新たな一歩を踏み出すための指針となれば幸いです。

 

2024年7月28日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

<目次>

1.製造業におけるCLO設置の戦略的意義

2.CLOの役割と設置に向けた課題

3.業界団体や教育機関の反応

4.物流を戦略的な取り組みとして捉えるチャンス


1.製造業におけるCLO設置の戦略的意義

物流業界に激震をもたらした「2024年問題」。その余波は、業界の枠を超えて荷主企業にまで及びました。かつて陰に潜んでいた物流の課題が、今や経営の表舞台に躍り出た格好です。
荷主の理解と積極的な取り組みなくして、この難題に立ち向かうことはできない。そんな共通認識が、静かに、しかし確実に広がりを見せています。そして2024年、物流改革の新たな幕開けとなる法改正が施行されました。その目玉となったのが、物流統括管理者(CLO)の選任義務化です。この一手は、荷主企業に対する明確なメッセージとなりました。もはや物流は「お任せ」では済まされなくなったのです。より強い当事者意識を持ち、能動的に物流改善に取り組むことが求められています。

この新たな制度は、日本の物流業界に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。製造業にとっても、これは単なる法令遵守以上の意味を持つ可能性があります。フィジカルインターネットセンターによるCLOの定義は、その役割の重要性を明確に示しています。CLOは単なる物流の管理者ではなく、企業価値向上と持続可能な社会の実現を両立させる戦略的な立場にあります。
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2.CLOの役割と設置に向けた課題

CLOの責務は、単なる戦略の立案にとどまりません。それは、物流の未来を形作る総合的なアーキテクトとしての役割を担うことを意味します。まず、CLOには物流DXの司令塔としての役割が求められます。散在する知識や技術を有機的に結びつけ、体系化された知恵へと昇華させます。そして、その構想を青写真から現実へと具現化し、最終的には組織の血肉となるまで実装を推し進めるのです。この任務は、デジタルとフィジカル、二つの領域を跨ぐ広範な知見を要します。一方には、デジタル実装やAI活用といった最先端技術の世界があります。他方には、拠点の統廃合、倉庫設備の設計、さらにはサプライチェーンネットワークの大胆な再編といった、物理的な変革の領域が広がります。

CLOは、この二つの世界を自在に行き来し、融合させる術を心得ていなければならないのです。デジタルの論理と、フィジカルの現実。この一見相反する二つの要素を巧みに調和させ、新たな物流の姿を描き出す。それこそが、真のCLOに課せられた使命なのです。(なんだか大変そう。。。)

このようにCLOの役割は多岐に渡りますが、簡単に整理すると以下の4つです。

1. コスト最適化とサービス品質向上の両立
CLOは、物流コストの削減だけでなく、顧客満足度の向上も視野に入れた全体最適化を図ることが求められます。

2. サプライチェーンの可視化と強靭化
不確実性の高まる国際情勢の中、CLOはサプライチェーンの脆弱性を把握し、リスク管理を強化します。

3. 環境負荷低減への貢献
持続可能な社会の実現に向け、CLOは物流における環境負荷低減策を戦略的に推進します。

4. デジタル化とイノベーションの推進
CLOは、IoTやAIなどの先端技術を活用し、物流プロセスの効率化と革新を主導します。

続いて、CLO設置に向けた準備と課題についても簡単に整理してみましょう。

1. 人材の確保と育成
CLOに適した人材の発掘や育成が急務です。社内外から幅広い視点を持つ人材を登用し、必要なスキルを習得させることが重要です。

2. 組織体制の整備
CLOが効果的に機能するためには、部門横断的な権限と責任を持たせる組織改革が必要です。

3. データ活用基盤の構築
CLOが的確な意思決定を行うためには、物流に関する正確かつリアルタイムのデータ収集・分析体制が不可欠です。

4. 経営層の理解と支援
CLOの役割を経営戦略の一環として位置づけ、経営層の積極的な支援が必要です。


3.業界団体や教育機関の反応

物流革命の波は、業界団体をも揺り動かしています。その中心的存在である日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が、新時代の幕開けに呼応するかのように、大胆な一手を打ちました。
JILSは、大橋徹二会長のリーダーシップのもと、2024年度の重点施策にCLO(物流統括管理者)に関する包括的な取り組みを掲げました。この動きは、単なる対応策ではなく、業界全体の底上げを図る戦略的なアプローチです。協会の構想は多岐にわたります。まず、CLOに求められる能力要件の精緻な整理に着手します。これは、曖昧だったCLOの役割を明確化し、企業が適切な人材を登用・育成するための羅針盤となるでしょう。

さらに、CLOを取り巻く環境や課題を多角的に分析するため、綿密な調査・研究活動を展開します。この知的探求は、CLOの機能強化と、ひいては日本の物流システムの高度化に寄与するはずです。JILSの取り組みはこれにとどまらず、CLOと物流事業者、行政担当者らが定期的に集い、忌憚なく意見を交わせる場の創設も計画しています。この構想が実現すれば、セクターを超えた協働と創発の舞台が整うこととなります。JILSのこの一連の取り組みは、CLOという新たな職能を単なる制度上の存在から、日本の物流革新を牽引する実質的な推進力へと昇華させる試みと言えるのではないでしょうか。

CLOの台頭は、物流業界の人材育成にも新たな道を開く可能性があります。役員クラスに物流責任者を置くこと自体が、現場のモチベーションを一変させる触媒となるはずです。CLOの経験が経営トップへの登竜門となれば、物流への志望者が増加し、大学教育の活性化にまで及ぶ好循環を生み出すかもしれません。その潜在的な影響力の大きさを私は期待しています。
物流の視座が経営の要諦として広く認知されれば、その波紋はサプライチェーン全体に及ぶでしょうし、各社が競って改善に乗り出せば、運送事業者にとっても助けとなり、チャンス到来の兆しが見えるかもしれません。


4.物流を戦略的な取り組みとして捉えるチャンス

現在、多くの製造業は、主に本業をベースとした物流機能を有していますが、これだけでは将来的なCLOの要求に応えることは難しいと考えられます。多くの場合、調達、生産、販売の各部門で物流は部分最適化され、常に対立が生まれていました。CLOには、物流全般の要望に応えるための深い知識、提案力、そして実行力が求めらるので、その要求に応えるためには、物流コストの可視化、改善実行の可視化、情報システムの刷新といった企業側のバックアップも不可欠です。コスト基準だけでなく、物流戦略を支えるための情報システムを基盤とした優秀なネットワークを形成する必要があります。目的を共有し、フラットなネットワークルールで繋がり、お互いの役割を明確に実行できる事業者が勝者となるのです。
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CLOの設置義務化は、製造業にとっても大きな変革の機会です。単なるコンプライアンス対応ではなく、企業の競争力強化と持続可能な成長のための戦略的な取り組みとして捉えるべきでしょう。2026年の期限に向けて、今から準備を始めることで、他社に先んじて物流革命の波に乗ることができるはずです。CLOを中心とした物流戦略の刷新は、製造業の未来を左右する重要な課題です。経営者の皆様には、この機会を積極的に活用し、企業価値の向上と持続可能な社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出していただきたいと思います。やる気のある製造業や物流事業者にとって千載一遇のチャンスです。変革の時期である今こそが行動の時です。

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