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ヤマト運輸といえば、宅急便という新しいビジネスモデルを創出し、それを支える情報システムに積極投資してきたことで知られています。サービスの品質を維持するために、膨大な額を情報システムに投資し、競合がついてこれないようなサービスを追加してきました。
2000年ころまでは業務の効率化のための投資でしたが、近年ではデジタル戦略投資に方針が切り替わっています。
つまり、ヤマト運輸の商品やサービスを利用するユーザーの満足度向上や品質向上といった新たな付加価値を創造する方向に
IT投資を行っていくという明確な意志がそこにあるのです。
2023年12月03日 執筆:東 聖也(ひがし まさや)
<目次>
1.ヤマト運輸を支えるNEKOシステム
ヤマト運輸の第一次NEKOシステムが開発されたのは、1974年です。ヤマト運輸は、1973年にヤマトシステム開発株式会社を設立し、同年中に第一次NEKOシステムを稼働させました。
このシステムは、宅急便のオンライン情報網の構築を目的としたもので、集荷・配達・支払いなどの業務をオンラインで処理できるようになりました。NEKOシステムの開発は、当時の日本の物流業界において画期的な出来事でした。
それまで、物流業務は紙の伝票や電話で行われており、非効率で人手がかかっていました。第1次 NEKOシステムの導入により、ヤマト運輸は物流業務の効率化とコスト削減を実現し、宅急便事業の拡大に大きく貢献しました。
ヤマト運輸のNEKOシステムは、2023年現在、第八次開発まで進んでいます。NEKOシステムがどのような進化を遂げてきたのか、その歴史を少し辿ってみましょう。
2.NEKOシステムの進化の歴史
■第一次NEKOシステム(1975年~)
既存の路線・通運事業の運賃計算用オンラインシステムとして誕生し、各営業所の端末とヤマトシステム開発本社のホストコンピュータをオンラインで繋ぎました。その後、運賃の自動計算、貨物追跡・問い合わせなどの機能が組み込まれました。
このシステム開発によって、宅急便のオンライン情報網を構築し、集荷・配達・支払いなどの業務をオンラインで処理できるようになりました。
■第二次NEKOシステム(1980年~)
第二次NEKOシステムでは、バーコード付き宅急便伝票とNEKO-POSと呼ばれる専用端末機が採用されました。
NEKO-POSはペン型バーコードリーダーを備えており、日本全国に広がる宅急便オンライン情報網の基盤が完成しました。
NEKO-POSは、情報入力を売上、持出、持戻の3回行うことができ、これによりお客様からの問い合わせに対応するだけでなく、サービスレベルや品質管理においても情報を有効活用することが可能となりました。異常報告もNEKO-POSを通じて行えるようになり、効率的な作業が実現されました。この時代にNEKOシステムは、宅急便のシステムを築き上げ、NEKO-POSの導入により送付情報や異常報告などがバーコードによって読み取れるようになり、これが作業効率向上に寄与しました。
■第三次NEKOシステム(1985年~)
第三次NEKOシステムでは、軒先情報入力が導入されました。全員が携帯端末機「ポータブルポス(PP)」を携帯し、集荷時には軒先で付属のライトペン(ペン型バーコードリーダー)を用いて送り状情報を入力しました。この際、売上・持出・持戻の入力機能が強化され、印刷機能も充実し、商品開発に伴うシステム書き換えが簡易化されました。この進化により、運賃の自動計算
や着店の自動検索が可能になりました。さらに、各営業所にはワークステーション(WS)も導入され、より効率的な業務が実現されました。移動中や現場での作業をより効果的にサポートし、物流プロセスの円滑な遂行を可能にしました。
■第四次NEKOシステム(1993年~)
第四次NEKOシステムでは、コンピュータに不慣れなセールスドライバーでも容易に操作できるよう、システムが改良され、タッチパネル式が導入されました。この改良により、訪問先での領収書発行が可能になり、また、セールスドライバー、取扱店、お客さま向けに3種類のICカードが導入されました。これにより、軒先で完結できる業務が拡大しました。さらに、12台のPPのデータを一度にワークステーション(WS)に転送できるPPステーションも新たに導入されました。この進化により、顧客即時登録システム、取扱店即時登録システム、全量配完システム、作業帳票保存システムなどが実現され、NEKOシステムはより包括的で効率的な業務遂行をサポートする体制が整いました。
■第五次NEKOシステム(1999年~)
第五次NEKOシステムでは、シールを出力するプリンタとポータブルポス(PP)が別の端末として独立し、同時に小型化が実現されました。この進化により、バーコードがレーザーで瞬時に読み取れるようになり、業務効率が飛躍的に向上しました。システムはオープン化され、データセンターのシステムがUNIXベースのリアルタイムシステムへと移行しました。PPは小型かつ軽量で、大容量なものとなり、PPからWSへのデータ転送には接続機器クレードルが使用されるようになりました。これにより、NEKOシステムはより柔軟で効率的な運用が可能になり、無線通信とバーコードの瞬時読み取りが組み合わさり、物流プロセスの迅速かつ正確な管理が実現されました。
■第六次NEKOシステム(2005年~)
第六次NEKOシステムは、「お客さまの生活を便利にすること」を目的に開発されました。このシステムでは、携帯電話を利用したデータの自動アップロードが導入され、これによりリアルタイムでの配達情報確認が可能となりました。
同時に、クレジットカードによる決済も可能になりました。ポータブルポス(PP)、プリンタ、携帯電話、およびカード決済端末がそれぞれ独立した端末となり、Bluetoothを使用して連動します。このシステムは、現金、クレジットカード、デビットカードなど複数の支払い方法に対応しています。不在連絡票における再配達指示も2次元コードシールにより出力され、手続きが簡略化されました。この進化により、NEKOシステムは顧客へのサービス提供を一層向上させ、配達プロセスの効率化と便利さの追求が具現化されました。
■第七次NEKOシステム(2010年~)
第七次NEKOシステムでは、配送情報がデジタル化され、それが「クロネコメンバーズ」のサービスと連動されました。
この進化により、電子マネー決済(フェリカ技術)も可能になりました。ポータブルポス(PP)には非接触ICカードリーダーが搭載され、これによりカード決済機能が一体化。クレジットカード、デビットカード、電子マネーに対応し、複数の交通系電子マネーも利用可能となりました。また、リアルタイムの情報処理を実現するためにWeb通信機能が搭載され、WSへのデータ転送は無線LANを使用します。このような進化により、NEKOシステムはよりユーザーフレンドリーかつ多様な決済手段に対応し、配送業務の効率と便利さが向上しました。
■第八次NEKOシステム(2017年~)
第八次NEKOシステムでは、タブレット端末が導入され、電子住宅地図や集配状況、集配ルートなどが可視化できるようになりました。通信のリアルタイム化により、集配依頼データの即時配信も可能となりました。
携帯端末は、タブレット(スキャナ一体型)、プリンタ、携帯電話、カード決済端末の4種類が採用されています。特に、PPの機能を果たすタブレットは、電子住宅地図や集配状況、集配ルートなどの情報を可視化することができます。この進化により、集配作業がタブレットを用いた可視化によってより効率的に行えるようになり、通信のリアルタイム化が集配依頼データの迅速な伝達を可能にしました。NEKOシステムは、最新のテクノロジーを駆使して、物流プロセスをより透明かつ迅速に管理することができるようになりました。
3.今後も攻めのIT投資を継続
今回ご紹介したヤマト運輸の事例のように、情報システムを利用者や利用企業が自ら設計、開発することは以前からあった取り組みであり、新しいことではありません。しかし、情報システムをより戦略的に使いこなそうとした時、こうしたユーザーが主体となった開発の姿勢は戦略的な意味を持つようになります。
それを読者のみなさんにご理解頂きたくて、今回ヤマト運輸の事例をこのような形でご紹介しました。
ヤマト運輸は今後も、ユーザーフレンドリーな高付加価値物流に向けた攻めのIT投資を継続していく予定です。
最新の技術であるAIやIoTを活用し、荷物の状態をリアルタイムで把握できる「見える化」を実現します。
また、顧客のニーズに合わせた最適な配送ルートや時間帯の提案、そして自動運転車やドローンなどの新たな配送手段の活用を通じて、より高度な物流システムの構築を目指しています。
この取り組みにより、ヤマト運輸は顧客に対して迅速かつ正確なサービスを提供し、同時に環境への負荷を軽減するとともに、物流の効率性を向上させることが期待されます。