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私たちは物流DXの実現に向けて、ユーザーが主導権を握る導入スタイルを強く提唱しています。しかしながら、時折、以下のような意見も寄せられます。
「現場が主導することにはデメリットがあるのではないか?」もちろん、ユーザーが主導権を握って物流デジタル化を推進することには、利点ばかりではなく、検討すべき課題も存在します。厳密に言えばデメリットとまでは言い切れませんが、特に留意すべき点として、既存の業務フローやシステムフローに過度に固執しやすいという側面が挙げられます。今回はユーザー主導でシステムデザイン(設計)を行う際に注意が必要なポイントについて解説します。
2023年11月07日 執筆:東 聖也(ひがし まさや)
1.WMS導入時は業務の再構築を最優先する
倉庫管理システム(WMS)や物流システムを新たに導入することは、業務を見直す最適な機会です。普段であれば、業務を見直そうと思っても、現状のシステムがボトルネックとなり、抜本的な改革が行えません。しかし、システムが刷新されるとなると話は別です。現状のシステムの機能に囚われることなく、新たな視点で業務改革を練り直すことができます。
ユーザー主導でシステムデザイン(設計)を行う際に、最も重要な点がこの業務改革です。しかし、残念なことに多くの企業ではWMSを導入することが目的となってしまい、出来るだけパッケージの機能に合わせて導入するといった方法が選択されがちです。本来カスタマイズに善いも悪いもないのですが、カスタマイズすれば費用も増えるし、時間もかかるしで、良い印象がないことが多いためです。まずは自社の業務改革が先で、その後でWMSパッケージをカスタマイズせずにその運用に載せることができれば言うことなしです。しかし、パッケージの機能に合わせて、業務改革を妥協するのは本末転倒ですし、自社の戦略もポリシーも無視して、パッッケージのシステムフローに合わせてしまうのも良い選択とは言えません。
確かにパッケージは導入企業のベストプラクティスを最大公約数として提供出来る点が利点ですが、だからといって、それが自社にとってベストとは言えません。自社のビジョン、戦略、ポリシーを無視して、安易にベストプラクティスに手を出すのは推奨しません。システムを新たに導入するのは、業務を見直す最良の機会なのですから、そこは自社のビジョンや戦略に沿った業務改革を優先すべきでしょう。
2.システムデザインフェーズで留意すべき点
業務改革を優先しても、保守的な意見によって覆される可能性も考慮しておかなければなりません。慣れ親しんだ現状の運用やシステム機能に固執することがあり、これに対処する必要があります。注意を払い、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)の観点で議論を重要視すべきです。また、効果性の高いWMSの導入を保証するために、以下の点にも気を付けましょう。
・”今やっているから” や “今ある機能だから” という理由で機能が充実しすぎる。
・パッケージの基本機能に合わせて業務フローを検討してしまい、本質的な改革を見落としてしまう。
・現場を知らない開発ベンダーが現場のニーズよりも上層部の意見を優先し、仕様を決定してしまう。
・開発ベンダーに現行の運用フローを説明し、あとは仕様を丸投げしてしまう。
・プロジェクトのビジョンや全体のシナリオを描かず、コストと時間の観点から局所的に仕様を最適化してしまう。
また、物流特有とまでは言いませんが、長年人力で課題を解決してきた物流ならではの問題もあり、これを解決する必要があります。
・関係部署との連携不足
・変更を嫌う体質
・みんなが集まって議論する文化の欠如
・ITリテラシーの不足
こうした物流に顕著に見られる点を払拭しつつ、業務改革を進めていかなければなりません。
3.ユーザー主導のシステムデザインのメリット
ユーザー主導でシステムデザイン(設計)をするメリットは、期待したものと、出来上がったものとの差が少ない点です。ですから、現場も納得してシステムを利用してくれます。以下にユーザー主導で進める場合の主なメリットを記します。
・デザインレビューが自分たちでできる
・システムのテストを自分たちでできる
・自分たちで現場教育ができる
・コンセプトを持って説明ができる(プロダクトアウトではない)
・自分たちのシステムなので育てようと思う(エンハンスができる)
これらのメリットにより、ユーザー主導のシステムデザインアプローチは、WMS導入プロジェクトにおいて非常に効果性の高い方法となり、ユーザーの満足度とプロジェクトの成功に寄与するのです。