画像素材:metamorworks/PIXTA
「ユーザーが主役」の倉庫管理システム(WMS)導入を成功させるカギは、システムのデザイン(設計)にあります。物流の改革を検討し、物流業務とWMSの要件を決め、使いやすいユーザーインターフェース(UI)や機能を実装します。また、実装される機能に用いられる技術も最適なものを選ばなければなりません。設計をあえてデザインと言ったのは、物流改革のビジョンや全体像を描き、業務とシステムのかかわりを把握することの重要性を強調するためです。つまり、「ユーザーが主役」のWMS導入でもっとも重要なのはこのデザインフェーズです。単なる机上の要件整理だけでは、実務で活用できないシステムや、機能はあるが業務改革に寄与しないシステムを導入することになりかねません。そのため、ベンダーに頼るのではなく、ユーザーが中心となりWMSをデザインすることが重要です。
本稿では、ユーザー主導のデザイン戦略について解説をします。
2023年10月8日 執筆:東 聖也(ひがし まさや)
1.企業にとっての物流DXの本質とは?
「今後、物流を取り巻く環境がいっそう厳しくなるのは必至。顧客の満足度を向上させることは難しくなっていく。」と多くの企業の物流現場が危機感を抱いていると思います。
しかし、物流現場の人手不足も、「2024年問題」もデジタル化に一気にシフトする絶好のチャンスです。いつだって、ピンチにしかチャンスはありません。企業を成長させるために物流が貢献できることは、顧客が欲しい時に欲しいタイミングで商品を届けることで満足度を高め、リピート率を高めることです。それを全て属人的な作業でどうにかこうにか頑張ってやってきたのが物流です。そこをもっとデジタル技術に頼れば、現状よりも半分、もしくはそれ以下で現状のサービスレベルを維持することは十分に可能なのです。
多くの企業が今後、ますます厳しい物流環境に直面することは疑いの余地がありません。「顧客満足度の向上」はますます難しくなるでしょう。しかし、物流業界が抱える人手不足や「2024年問題」は、デジタル化への転換にとって絶好の機会と言えます。ビジネスにおいて、ピンチこそチャンスが潜んでいるもの。企業の成長において、物流の役割は重要であり、商品を顧客が望むタイミングに届け、満足度を高め、リピート率を増加させることが鍵です。これまで、これらの目標を達成するために物流業務は手作業で努力してきましたが、デジタル技術を活用することで、現在のサービス水準を維持しながら、コストを大幅に削減できる可能性があります。
その結果、企業の収益が増加し、従業員への給与支給も向上させることができるでしょう。ただし、物流に関連する組織は通常、縦割りの構造を持ち、組織間の連携が不十分なことがあります。このままでは、単にWMS(倉庫管理システム)を開発して導入しても、人手不足を解消し、業績向上につなげることは難しいでしょう。WMSを効果的に活用するためには、適切な業務フローの設計が不可欠です。残念なことに、多くの企業がこの重要性を理解せず、ベンダーに完全に依存したり、業務フローに適切な時間を割かずに、現行の業務フローをそのまま維持したまま、低価格のASPパッケージを導入してしまっています。
したがって、物流デジタルトランスフォーメーション(DX)がとりわけ重要です。これにおいて、ベンダーにすべてを委ねるのか、できる限り手間や費用を削減する方法を選ぶのか、
企業にとっての物流DXの本質は何かを考えるべきです。
2.デザイン戦略で重要な点は、ビジョンを明確にすること
物流DXプロジェクトにおいて、成功の鍵はユーザー中心のアプローチです。これは、WMS(倉庫管理システム)導入を計画する際に、極めて重要なステップです。
まず、物流に関連する多様な業務フローを見直す作業が必要です。これがプロジェクトのデザインフェーズにおいて極めて重要な役割を果たします。また、プロジェクトが行き詰まった場合、プロジェクトのビジョンを明確にすることが非常に有効です。始めは壮大なビジョンでプロジェクトをスタートさせることが多いですが、徐々に納期や予算への焦点が高まり、視野が狭くなることがあります。このような状況で、プロジェクトの本来の目的を振り返ることは、プロジェクトを再び活性化させる手段となります。
業務フローが明確になれば、それに合ったWMSの仕様を決定する段階に移ります。ビジョンの策定、業務の改善、業務フローの設計、機能の設計など、これらの作業はデザインと呼んでいます。こうした作業をユーザーが主導して行うことを強くお勧めします。一方、システムの開発に関しては、ITの専門家に依頼することもできます。ただし、企業の規模に応じて情報システム部門を持っている場合もありますので、自社のエンジニアで開発することも考慮すべきです。自社だけでの開発が不安な場合、ベンダー企業との協力による開発方法も選択肢として検討する価値があります。ITのプロの専門知識とスキルを活用することで、より効果的なシステム構築が迅速に実現できるでしょう。
3.カスタマイズそのものに”善”も”悪”もない
WMS(倉庫管理システム)の導入に際して、常に議論の的となるのが、パッケージ機能にどの程度カスタマイズを加えるべきかという問題です。私たちが現在進行中のWMS導入プロジェクトでも、ユーザー企業、開発パートナーとの間でこの議論が頻繁に行われています。通常、カスタマイズに対する意見は二つに割れます。カスタマイズはできるだけしない方が良いという意見、できるだけ運用に合わせてカスタマイズをした方が良いという意見です。一方はカスタマイズを”悪”とみなし、もう一方は”善”とする意見です。
私たちのスタンスは、カスタマイズ自体が「善」または「悪」ではなく、その必要性に応じて柔軟に対応するべきだということです。ただし、カスタマイズを実施するかどうかの意思決定プロセスには、一定のステップが存在し、これが重要です。例えば、「現在の帳票のレイアウトに合わせたカスタマイズを希望する」という要望がよく寄せられます。この要望が本当に必要かどうかを判断する際に、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)の視点を加えることが重要です。BPRは、既存のプロセスや業務を根本的に見直し、目的に合致するよう改善することを指します。私たちのアプローチは、BPRに貢献するカスタマイズであれば積極的に取り入れ、逆にBPRに寄与しないカスタマイズは避けるべきだというものです。つまり、カスタマイズそのものに肯定的・否定的な価値観を持ち込むのではなく、そのカスタマイズがもたらす影響と効果を評価するスタンスです。
私たちは、ユーザーが中心となり、デジタル化を推進できる企業を増やすことを目指しています。ユーザーからの相談が、「BPRの観点から新しい業務フローを提案しました。
操作画面のデザインも考慮しましたので、ご意見をお聞きしたい」という形で増えることを期待しています。
※以下に私たちのユーザーが主役のWMS導入の成功事例をご紹介します。