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経産省が作成したDXレポートにおいて、ユーザー企業とベンダー企業の関係が「低位安定」とされ、この関係が固定的であることが指摘されています。これにより、日本国内において、個社単独でのデジタルトランスフォーメーション(DX)の実施が困難な状況が生まれています。
このレポートで使われている「低位安定」とは、おそらくユーザー企業とベンダー企業の協力関係がある程度の安定性を持ちつつも、革新的な変革やDXの進展に対して適切な柔軟性を欠いている状態を指していると私なりに解釈しています。この両者にとって、案外心地の良い固定的な関係があるため、ユーザー企業単独でのDXプロジェクトを進めることが難しいというのがこのレポートで報告されている内容です。
この問題に対処するためには、ユーザー企業とベンダー企業の間の連携やパートナーシップの再評価が必要になります。物流DXにおいても、柔軟性と協力が不可欠であり、固定的な関係が持つリスクを低減する方法を模索することが求められます。
2023年9月17日 執筆:東 聖也(ひがし まさや)
1.国内のユーザー企業とベンダー企業の関係
日本国内のIT産業は構造的な課題を抱えています。まずはユーザー企業が、依然として業務の効率化だけをIT活用目的としている点です。業務効率化のための仕様をITベンダーに依頼し、ITベンダーを競争させ、ITコストを削減するというやり方が一般的です。業務効率化やコスト削減に焦点を当てすぎると、革新的な発想や新しいテクノロジーの導入がおろそかになる可能性があります。競合他社がより革新的なアプローチを採用している間に、遅れる可能性があります。
また顧客体験の向上がDXの一部であるため、業務効率化のみに焦点を当てると、顧客満足度が低下する可能性があります。顧客が新たなテクノロジーやサービスを求める中で、適切な革新が行われないかもしれません。人材のモチベーション低下も危惧されます。ユーザー企業内の従業員は、単なるコスト削減のためのプロジェクトに取り組むことにモチベーションを感じにくいものです。顧客や社員の満足を向上させるための、革新的なプロジェクトや目標を設定することで、従業員のモチベーションを高めることができます。
一方でベンダー企業は、労働量に対する対価として人月計算で値付けを行い、低リスクのビジネスを享受しているにとどまっています。こうした「低位安定」の関係は、ベンダー側だけではなく、ユーザー側にも原因があり、様々なDXの弊害を生み出しています(下図参照)
(出典:DXレポート 経済産業省)
2.DX成功の鍵!それはユーザーが主役ということ
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、単なるコスト削減の道具ではなく、新たな価値の創出を志向すべきです。そのために、当社は「ユーザーが主役の開発」を積極的に提唱しています。ユーザーが主役とは、システムを活用する個人や企業が主導権を握り、システムの設計、開発、運用に参加することを意味します。
今日、私たちが目にする世界は大きく変化し、社会や職場、テクノロジーのトレンドも大きく変動しています。この変化に対応するために、企業や組織は自身のあり方を再評価し、システムの設計と開発において大胆なアプローチを取り、デジタル技術を駆使して新たな未来を築く覚悟が必要です。
システムの構築において、開発作業を完全にベンダーに委託するか、あるいは自社のオペレーションを真に理解せずに要件定義を進めることは、しばしばユーザが求めるシステムの実現を妨げることがあります。この際に重要なのは、内製化対外部委託の選択そのものではなく、自社のビジネスオペレーションを深く理解し、その基盤上で必要なシステムを洞察的に構築することです。ビジネスを真に理解し、主導権を握って適切なベンダーを選択できるならば、内製化に拘る必要性はありません。真摯な理解と的確な戦略に基づくアプローチは、システム開発において成功への道を切り拓きます。
当社は、クラウドサービスやオフショア化の普及というトレンドの中で、積極的にユーザー企業が主導するデジタル内製化をサポートしています。デジタル化において、
業務効率化やコスト削減は重要な目標である一方、DXの成功にはバランスが欠かせません。DXは革新的なアプローチと競争力の向上を推進し、将来の成長を支えるべきものです。業務効率化とコスト削減を追求しながらも、創造的な発想と長期的なビジョンを持つことが肝要です。そのために、ユーザーが主導権を握り、デジタル化の道筋を示すべきだというのが私の信念です。
3.ユーザーが主役になれる「セミスクラッチ型」とは
「セミスクラッチ型」とは、新しいアプローチで、ユーザーを主役に据えるシステム開発手法です。この手法は、内製と外製の要素を統合し、システム開発の資源を適切に配分することを特徴としています。私たちの会社は、この手法を使用して、倉庫管理システム(WMS)のソースコードとデータベースを完全に公開し、ユーザーと協力してカスタマイズしながら導入する方法を開発しました。このアプローチを使用して、多くの企業のWMS導入を成功させています。
この成功の背後には、一貫して「ユーザーが主役」であるというコンセプトがあります。私たちは、ユーザー企業がベンダーロックインから解放され、主導権を取り戻し、
デジタル自走できる企業を増やすことを使命としています。この使命を達成するために、私たちの会社では、通常のITベンダーがためらうであろう4つの重要な取り組みを実践しています。
1.WMSパッケージのソースコードとデータベースを完全にオープンにし、ユーザーに積極的なカスタマイズの機会を提供しています。
2.内製化支援サービスを提供し、ユーザーと協力して開発をサポートしています。
3.開発パートナーとリソースを共有し、OneTeam体制で支援しています。
4.導入フェーズにおける仕様変更については、追加費用を請求せずに対応しています。
さらには、お客様の内製化レベルに合わせて、3つの導入方法を提供しています。
1.ユーザーがセルフカスタマイズできるCustomWiz Pro(カスタムウィズ・プロ)
2.開発パートナーがカスタマイズするPartnerTech Innovation(パートナーテック・イノベーション)
3.開発パートナーとユーザーが一緒にカスタマイズするCollaboDev Solutions(コラボデブ・ソリューションズ)
ソースの公開や仕様変更の無償提供は、通常のITベンダーにとっては非効率で自社に不利益をもたらすことがあります。しかし、これらの取り組みを成功させるために、弊社は明確なビジョンと戦略を持っています。このビジョンを基に、適切なルールと仕組みを構築することで、これらの取り組みが自社と顧客の両方にとって有益なものになると確信しています。
そのビジョンとは、「ユーザーが主役のデータドリブン物流の実現」です。詳しくは、以下の動画をご覧ください。
4.おわりに
「見返りを求めず、人の役に立つ」―これは私の祖父からの至言であり、この教えを自身の事業にどう実践するかについて、多くの葛藤がありました。事業は一般的に見返りを期待し、他者のニーズに応えるものです。しかし、「見返りを求めない」とは一体何を意味するのか、特に営利活動の中でその理念を具現化する方法について深く考え込みました。
ある日、気づいたのです。見返りを求めないことは、単に金銭を受け取らないことだけではないのだと。それはむしろ、「提供する価値が受け取る対価を超える」という考え方に基づいているのだと。この洞察により、自らの事業を再評価し、顧客に対してより高い価値を提供する方法について熟考しました。そして、その答えが「ユーザーが主役のセミスクラッチ型」アプローチであると確信しました。
弊社のミッションとビジョンへの共感が、国内有名企業の中でも京セラドキュトソリューション様、KADOKAWA様、島村楽器様などの大手企業から数多くのご支援依頼を頂いていることを誇りに思います。これらの企業からの信頼は、我々の優れた専門知識と卓越したサービスの証しであり、それによって私たちは更なる自信を持つことができます。これからもお客様の期待に応え、卓越性を追求し続け、産業界でのリーダーシップを確立していく覚悟でいます。