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先日、とある物流会社様にお伺いしたい際に、倉庫管理システム(WMS)をすごく作り込まれていました。一切の無駄を省くというのが、その物流システムのコンセプトです。もちろんシステムは全て自作です。コーディングは外部に委託はしていますが、要件定義から設計などは全て自社で行っており、常にシステムをバージョンアップさせていると社長は自信たっぷりでした。Amazonも庫内オペレーションの数分の手作業を撤廃するために、数千万円のデジタル投資をしたという話は有名な話です。※若干都市伝説化している可能性も否めませんが・・・。いずれにしても、パッケージシステムを導入して、標準化を図る方が良いというのが、物流システムにおける一般的な潮流?のように思われています。WMSやWCSなどの物流システムは、パッケージをノンカスタマイズで導入することで、物流業務が標準化され合理化、効率化につながるという考え方です。
本稿では、倉庫管理システム(WMS)を導入する際にパッケージを導入するか、内製するかといったことで悩まれている方向けに、意思決定の参考になる知識とポイントを具体的に解説したいと思います。
執筆:東 聖也(ひがし まさや)
<目次>
1.標準化を求めてパッケージを選定するのはちょっと待った!
結論から先に申し上げると、WMSを導入する際にパッケージか、内製か、どちらを選択すべきかということについての、私の考えは、「どちらでも良い」ということになります。ただし、自社がWMSに何を求めるかによって、その選択は変わってきます。つまり、単純にWMSはパッケージを選択した方が業務が標準化されて、後々のメンテナンスも楽なので・・・という短絡的な理由で判断すると、失敗します。
物流領域で明確な競争力を持つ企業はどこもシステムを内製化しています。つまり、ベンダーに丸投げするのではなく、自分たちで要件定義から設計、開発、導入、サポートまで一貫して行っているのです。またパッケージシステムを導入しても物流業務が標準化されるどころか、WMS導入後の方が現場がシステムやベンダーに振り回されてしまい、失敗しているケースも少なくありません。(ちなみに、これは決してベンダー側の責任ということだけではありません)
では、どのような基準で選定をすれば間違わないのでしょうか?そのポイントを詳しくご紹介しましょう。
2.戦略によって、パッケージかスクラッチかを検討する
WMSを導入する際に、パッケージシステムにするべきか、内製にするべきかを判断する上で、重要な視点が2つあります。一つ目はWMSを自社の業務のどこに位置させたいのかという戦略要素です。システムには、大きく勤怠や人事や会計などの「バックオフィス系」、ECサイトやクラウドサービスなどの「フロントエンド系」、販売管理や生産管理などの「基幹業務系」に大別されます。この大別よって、それぞれシステムに求められることが変わってきます。例えば、バックオフィス系の会計システムを導入するとした際に、求められるのは業務の標準化や経費削減です。一方、ECサイトのようなフロントエンド系のシステムを導入する際は、独自性や柔軟性による競合他社との差別化が求められます。
標準化や経費削減が目的であれば、パッケージシステムを選び、独自性や柔軟性が目的であればスクラッチというのが、私が重要視している一つ目のものさしになります。ただし、これらはあくまで一般的な考え方で私が勝手に3つに大別しているだけですので、企業の戦略によっては、その位置付けは変わるというのがとても重要なポイントです。もしかすると、「わが社は独自の会計システムで経営を見える化して他社と差別化を図るんだ」というトップの戦略であれば、会計システムもフロントエンドの方に寄っていくことになり、パッケージよりもスクラッチの方がいいよねということになります。
京セラの稲盛さんが独自開発したアメーバ経営も当時の管理会計パッケージでは実現が難しいので、システムをスクラッチ開発されています。つまり、会計システムだからバックオフィスだよね、という単純な発想ではなく、自社がそのシステムや機能を戦略的に前と後ろのどこに位置付けるのか、というのがとても重要なのです。
先日、ある美容品のECをされている社長さんにこのようなお話をさせて頂いたところ、「じゃ、うちはECやってるから、ECサイトはフロントだね」と言われました。外れてはいませんが、少し違います。例えば、この会社が商品の独自性で勝負する企業で、ECサイトで差別化する戦略ではない場合は、ECサイトはパッケージシステムでも十分でしょう。最近は誰でも簡単にECを始めることができる便利なパッケージが沢山あります。
一方、Amazonは「顧客の購買の意思決定を支援する」というのが基本戦略であったので、ECサイトをスクラッチで開発して顧客の意思決定を支援する機能で一杯にしました。レビュー機能や古本と新書を同時に並べる機能、レコメンド機能などは全て”顧客の意思決定を支援する”というAmazonの基本戦略をベースに実装された機能です。
基幹業務系は販売管理や生産管理など、自社の業務において根幹をなす機能のことです。例えば、製造業であれば生産管理システムは必須の基幹系システムとなります。このような基幹を担うシステムはパッケージをカスタマイズして導入するというセミスクラッチの導入が一般的です。ただし、これも一概にはそうとは言えません。その理由が二つ目の視点である企業規模(成長性)です。
■パッケージかスクラッチかを選択する際の基準
3.規模と成長性によって検討する
二つ目の視点は企業の規模、もしくは成長性です。事業規模が小さければ、たとえフロントエンドや基幹系のシステムであっても、パッケージシステムで十分といったことがあります。今は小さくても、急成長中の企業であれば、せっかく導入したシステムがすぐに使えなくなるので、スクラッチの方がよいかもしれません。以下の図は、システムの位置付けと企業規模の2つの視点でパッケージがよいのか、スクラッチがよいのかを整理したものです。
そして、ベンダーにすべて外注するのか、または自社で内製するのかについても同じ2つの視点を用います。以下の図は2つの軸は先ほどと同じで、ベンダーに外注するか、自社で内製するかを分かりやすく表したものになります。WMSも顧客サービスの差別化のためのシステムという風に位置付けるのであれば、フロントエンド寄りになりますので内製化が良いということになります。
経済産業大臣が発表した「DXレポート2.2」には、デジタル産業宣言が含まれています。この宣言では、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、単なる業務改善や効率化に留まらず、収益の増加や次世代の価値観を伝えるための行動指針として推進されるべきであると述べられています。
また、システムの内製化も、単に業務改善や効率化を目指すだけでなく、収益の向上や企業の成長につながる手段の一つとして位置づけられています。
現在、国内の企業や自治体では、DXの推進と同時にシステムの内製化に関心が高まっており、実際にDXとの組み合わせで成果を上げている企業も増えています。ただし、人材の確保や完全な内製化への不安などの課題も存在します。しかし、内製化に適した開発手法やツールを導入することで、不安要素を軽減することも可能です。もし、あなたがいま、WMSを選定する立場にいらっしゃるのであれば、今回の視点を稟議書に盛り込んでみるのも良いでしょう。あなたの会社のWMSを導入する際のお役に立てれば嬉しいです。