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<目次>
1.RFIDの導入は0か1では語れない
本稿は「ユナイテッドアローズ基幹物流センターに潜入!RFID活用最前線を探る(前編)」に続く後編になります。前編では、千葉県流山市の物流施設「DPL 流山I」内にある株式会社ユナイテッドアローズ(代表取締役社長: 松崎 善則 以下「ユナイテッドアローズ」)の「流山ロジスティクスセンター」に訪問し、SCM本部物流推進部の藤嶋 秀典氏にRFID活用の仕組みや取り組みについて詳しくお伺いをしました。後編では同社がRFIDを利用し続けている理由や、他の企業がRFIDを導入する上で注意が必要な点等について詳しくお伺いしました。
RFIDの導入を語る時、「なぜバーコードでは駄目なのか?」というRFID or バーコードかの二者択一の議論が必ず繰り広げられます。ユナイテッドアローズでも同様にRFIDを導入する際に、こうした議論はなかったのかを藤嶋氏に聞いてみました。
「RFIDの導入は0か1かではないんです。RFIDを導入となると、他所はバーコードを全てRFIDに変えるといったところから議論がスタートします。だからなかなか進みません。弊社の物流センターでは、入荷検品は基本RFIDを利用しています。但し、アクセサリーや香水はRFIDだと読み取り精度が低いので、バーコードをスキャンします。またピッキングや棚卸については、基本はバーコードをスキャンしています。まずはRFIDでやってみて、ダメならバーコードの運用に切り替えて臨機応変に対応しています。つまり、RFIDとバーコードを上手に融合して利用しているわけです。」
RFIDの導入検討を進めていくと、どうしてもRFIDだと読取りが難しい商品や運用パターンが発生し、検討が行き詰ります。だったらRFIDは難しいねということになって、結局最後はバーコードで落ち着いてしまいます。そうしたRFIDかバーコードかの0、1の検討ではなかなか新しい技術を取り入れるのは難しいということですね。
2.日本企業特有のゼロリスク信仰の弊害
「多くの企業が10のうち9しか正確に読み取り出来なかったら、バーコードに戻してしまいます。でも人間がバーコードを読む場合でもミスは起きますよね?私たちはRFIDは一括でデータを作るだけの技術だと割り切って活用しています。だからICタグが壊れていて読取りができなければ、数量を手で打てばいいという発想でやっています。100枚タグがあるはずなのに、ゲート通して99枚しか読まなければ手で100に変えればいいんです。多くの企業がこうしたレアケースをリスクとして、足踏みしてしまうんですよね。」
ある程度のリスクを許容しながら、良い技術をこれまでの技術と上手く融合して活用していく。そうした創意工夫にこそイノベーションの源泉があるということですね。
筆者も藤嶋氏の意見には完全に同意です。RFIDのような新しい技術を採用する際、ゼロリスクで物事を考えるのが日本人の特徴です。「リスクはゼロであるべきだ」、「リスクが少しでもあるならば見直そう」というゼロリスク信仰が弊害となります。実用性のあるリスク管理とは、決してリスクをゼロにするものではありません。メリットとリスクの両方を検討し、リスクを補える形でメリットを最大化する方法を模索する必要があります。リスクゼロを目指した途端に費用も時間も膨大にかかってしまい、プロジェクトは暗礁に乗り上げてしまうのです。同社のように、ある程度のリスクを始めから許容した上で、問題が起こったあとでどのように対応するのかという考え方に発想を切り替えて、RFIDの導入を進めることが大切です。
3.RFIDの費用対効果の考え方
藤嶋氏は、「物流センター単体ではRFIDのコストメリットは出せない」と断言します。例えば入荷検品をバーコードスキャンで行った場合で考えてみましょう。1時間に300枚のバーコードがスキャンできるとして、時給1800円であれば、1枚当たりの入荷検品コストは6円になります。かたやRFIDだと入荷検品の効率が10倍になるとして、1枚当たり0.6円です。1枚あたり5.4円のコストメリットがだせる計算です。しかし、ICタグが1枚10円は最低でもしますので、ここですでに採算が取れないことが分かります。今後ICタグが1枚あたり5円を切るようになってくれば話は別ですので、RFIDの現在地として理解ください。ここで、入荷検品だけでなく、1枚10円のICタグのコストを出荷や棚卸、返品に細分化してそれぞれでコストメリットを積み上げすれば、回収できるのではないかという考えに至ります。しかし、RFIDの最大のメリットは一括読み取りです。返品や出荷のような少量多品種の物流オペレーションではコストメリットが出ません。また棚卸は前編の話の通り、大きな物流センター規模になると棚卸での利用も難しいといことになります。物流だけでRFIDのコストメリットを考えるとこのような理屈で難しくなってしまうのです。
そこで、同社では「店舗+物流」としてRFIDの導入を進めました。店舗ではコストメリットというよりも、RFIDの無人レジによって、空いた時間を接客に使えるという発想です。店舗では、レジと棚卸でRFIDを活用しています。このように店舗の接客時間を増やすことで顧客満足度を向上するのがRFIDの第一目的で、せっかくRFIDが付いているのであれば、物流でも使おうという発想です。接客による顧客満足度向上はプライスレスです。これが土台としてあって、プラスアルファでコスト削減というのが同社のRFIDに対する考え方です。同社の接客時間はRFIDの導入によって、事実増えているといいます。このように何を目的とするかによって、RFIDのコストメリットの考え方も変わってくるのです。
■入荷用のRFIDゲート(ケーウェイズ社製)
4.RFIDの導入を進める上でのポイント
最後に、同社の現地視察を終えて、私なりにこれからRFIDを導入検討している企業様が誤った選択をされないように、ポイントを整理します。藤嶋氏は、RFIDについてこう言います。「RFIDについて、沢山デメリットも話しましたが、私は完全にRFID推進派です。今後もより多くの企業が導入することを期待しています。」私も同じくRFIDはより多くの企業で導入が進めば良いと考えています。しかし、ICタグのコストや非接触の読取りによるリスク等を考えると、導入を控えた方が良い場合もあるということをここでは、はっきりと説明しておきたいと思います。
まず一つ言えるのは、物流センターの活用だけで、”コスト削減”を目的にRFIDを導入するのではれば、止めた方が良いということ。物流センターの入荷や棚卸だけでコストメリットを回収できるほど、ICタグはまだ安くはないという理由からです。ユナイテッドアローズの事例では、入荷検品の工数は10分の1になったそうです。もし、導入の目的が人材不足に対応するための作業効率化であれば、これだけでも十分に導入効果は期待できます。同社でもRFIDがなければ、現状の物量(日に7万点の入荷と6万点の出荷)を捌くことは不可能だといいます。
■入荷検品の工数が10分の1に削減され、日に6万点の入荷を可能にしている
また同社のように店舗を持っている場合は、まずは店舗の無人レジ化と棚卸、商品探索機能で導入を初めて、その後に物流に展開するのがお勧めです。製造業で言えば、拠点間の製品の移動が多い業態では、RFIDの活用が見込めます。また扱う商材が高額商材の場合もRFIDとの相性はよいでしょう。もう1つ、例外として顧客へのパフォーマンスとしてRFIDを導入するというレアケースもあります。RFIDによって、個体識別管理を自動化しているという物流機能を顧客にPRすることで広告宣伝費として考えることもできるでしょう。以下にRFID導入のポイントについて分かりやすく整理した図を載せておきますので、1社でも多くの企業がRFIDの恩恵を授かることを願います。