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<目次>
1.荷主が評価するのは定量ではなく定性評価
皆さんは荷主企業が物流センターを訪問する際、どのような点を評価・診断されるか知っていますか?「分析・設計能力?」、「アセット調達能力?」、「IT活用能力?」。外資系のコンサルタントが傍にいれば、そういった点を評価するかも知れませんね。。。
物流センターを荷主が視察や診断する際には、「定性」「定量」双方の側面からチェックします。「定性評価」とは、数値で表せない情報をもとに評価することです。一方で「定量評価」とは、管理データ等の数値を分析して評価することです。荷主が物流センターを視察する際は、「定性評価」に重きが置かれます。その理由としては、物流センターは人に依存する職場だからです(Amazonのような完全自動化センターは別です)。人の特性にあふれていることを前提に、改善や合理化策を検討する必要がある職場だからこそ、定量評価よりも定性評価が重要な診断指標となります。
まず一番最初に見るのは物流センターで働く作業員の挨拶や身だしなみです。お客様が来訪しているのに、誰も挨拶をしないような現場であれば、荷主はたちまち不信感を抱きます。また帽子やヘルメットを被っていない、服装が乱れているといった点もしっかりとチェックしています。
つづいて職場環境のチェックです。いわゆる5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)です。企業の顔である正門からチェックは始まっています。その他に、照度が適正か、温度やマテハン機器のメンテナンス状況、通路幅なども見ていきます。物流センターの責任者であれば、この辺までは荷主が視察に来る前に気を付けていると思いますが、以外に見落としがちなのが、休憩所や、トイレ、喫煙所、駐車場などのオフタイム環境です。
そして、職場環境で一番重要な点が安全面です。「防火シャッターの下」は最重要項目ですよ。この下にパレットやダンボールが置かれている職場は、直ちに改善してください。私の知っている荷主企業の社長さんは、防火シャッターの下に物を置いている倉庫とは絶対に契約しないと断言されていました。防火シャッターの下に物が置いてあれば、万が一火災が発生した際に、シャッターが最後まで閉まらず、煙や熱が遮断されずに倉庫に充満し、火災が拡大します。ニュースになるような倉庫の大規模火災の多くは防火シャッターの下に荷物が置いてありました。これは従業員の命を軽視していると捉えられても仕方がない状況であり、言い訳は通用しません。今すぐに、自センターの防火シャッターの下や消火器の周りに荷物が置かれていないか現場確認してくださいね。5Sと安全対策は良い物流センターの必須条件なので、しっかりとチェックしましょう。
2.最も重要なのは挨拶と身だしなみ
仕事柄、毎週のように物流現場に行きますが、現場によっては、帽子を逆に被ったり、ズボンを腰で履いたり、靴のお尻を踏んで履いたりするなど、だらしない格好で働いている人を見かけることがあります。そうした人が物流センター長の前を横切っても、物流センター長も見て見ぬふりか、一言も注意しません。昔と違って物流は今やサービス業です。現場視察に訪れる荷主企業もそうした厳しい目で現場をチェックしていることを忘れてはいけません。
挨拶は管理職だけではなく、現場の社員やパート従業員も含めて全員がしっかり出来ているかをチェックします。最近では大きな物流センターが沢山増えて多階層構造が一般的となりました。このような場合、階によって挨拶のレベルが違うということもあります。挨拶や身だしなみをチェックする際は、全ての役職、全ての階層で行うようにしましょう。先に述べたように物流センターは人に依存する職場ですので、その現場がちゃんと管理されているか否かを測る一番重要な指針になります。先ほどのように、身だしなみが乱れている作業者がいても、注意をしない管理者がいると、管理者に課題認識力や統率力が欠けているという評価が下されてしまいます。挨拶や身だしなみは「物流はサービス業である」という自覚が表れるのです。
3.働きやすい職場環境
職場環境は働く人のモチベーションに直結します。きれいな現場、トイレ、休憩所であれば作業者も気持ちよく安心して働くことができます。ここで皆さんに一つ質問です。「皆さんの物流センターでは、いつ掃除を行っていますか?」回答は大きく以下の3つのいずれかだと思います。
回答1:「汚れたときにやっています」
回答2:「毎朝やっています」
回答3:「朝の8時30分、昼の12時50分、夕方の17時50分に10分間やっています」
この回答によって、物流センターの5Sの徹底度が分かります。回答3~1の下から順に5Sのレベルが高いです。掃除に対する意識の違いが、5Sのレベルに見事に反映されます。掃除を業務の片手間に行っているか、掃除を業務の最重要任務として行っているかの違いがこの質問一つで分かります。もし読者の中に荷主さんがいらっしゃれば、物流センターを視察する際に、物流センター長にこの質問をぶつけてみてください。現場の見た目は視察前に慌てて取り繕うことはできても、日ごろの意識は簡単に変えることはできません。
「働きやすい職場」とは、作業者の疲労を軽減するような対策がとられている職場です。また作業者が安全に働けるような対策がとられていることも重要です。
働き方改革の推進や人手不足などの影響で、以前に比べると大分この辺りの改善は進んでいるようです。最近ではホテルのロビーのようなエントランスを構えた物流センターも珍しくなくなってきました。これは非常に喜ばしいことだと思います。働きやすい職場環境で最も重要になるのが、温度です。物流センターは気温の影響をもろに受ける職場です。冬は凍えるように寒く、夏は蒸し風呂のように熱い物流センターもまだ沢山存在しています。私事ですが、嫁の母親がアパレルECの物流センターでパートタイマーで働いていた時、夏は体中塩を吹くといっていました。冬は靴下を3枚履き、中にはヒートテック、セーター、そして防寒服を着て、「まるで宇宙服のようだ」と言っていました。このような環境で、50代、60代の身体の弱いお年寄りが、足腰を痛めながら、暑さや寒さに耐えながら、物流作業に従事してくれています。このような劣悪な環境でミスをするなと言われても、無理な話です。作業者はアスリートではありません。私の会社のクライアント企業では、倉庫の2階がピッキングエリアで、夏は蒸し風呂のようでした。そこの作業者は「空調を付けてくれなければ私たちは辞める」と全員が会社に訴えたそうです。
今は昔とは暑さのレベルが違います。倉庫の温度管理が徹底されていかなければ、物流は非常に危険な仕事になってしまいます。ちなみに、私の嫁の母は、体力的に続けることが厳しく、辞めてしまいました。温度管理は非常にコストがかかるのは事実あり、簡単な投資でないことはよく分かります。しかし、そのコストが、働く作業者の安全確保に直結するのであれば、そこにしっかりとお金をかけるのがトップの仕事だと思います。