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<目次>
1.在庫ABC分析とは?
物流センターの運営において、在庫を適切にマネジメントすることについて言い訳はできません。パンデミックや自然災害など未曽有
の事態がもはや当たり前となった現代において、在庫の実態を常に正確に把握する術を持ち、不測の事態に備えておかなければなりま
せん。それが物流センターで在庫を預かる者としての使命です。日々の在庫の実態を正確に把握することができていれば、未曽有の事
態が起きた際も冷静に対処方法を検討することができます。在庫の実態を正確に分析する手法として代表的なのが「在庫ABC分析」です。
在庫ABC分析とは、物流センターに在庫されている商品の金額や出荷数、在庫数などの指標の中から重視する評価軸を決め、商品を累積
構成比の多い順にA・B・Cの3グループに分類し管理する方法です。パレート分析や重点分析と呼ばれることもあります。膨大な量の商
品に対して、在庫管理の重要度や優先度を決めることで、適切な在庫マネジメントを実現することができます。
2.実は現場で上手に使えていないABC分析
このように大変便利な在庫ABC分析ですが、実は意外と物流現場では上手に利用されていません。分析自体は、必要なデータさえ揃えれ
ばエクセルなどでも簡単に作成できます。では一体なぜ、在庫ABC分析を上手に活用できている物流現場が少ないのでしょうか?主な要因は2つあります。1つは広く利用されている一般的な在庫ABC分析では、在庫の実態を正確に把握するために必要な指標が不足しているということ。もう1つはアウトプットから在庫の実態や傾向を読み解く方法があまり知られていないということです。
せっかく苦労してデータを集めて、エクセルで在庫ABC分析表を作成しても、そこから在庫の状況や傾向を正確に読み取り、次に打つべき手が見えてこなければ何の意味もありません。皆さんも作って満足して終わりになっていませんか?在庫管理システムやWMSに搭載されている分析機能も実はあまり使われていないのは同じような理由からです。
そこで、今回は物流現場で実際に使える実用的な在庫ABC分析とは何か、分析方法と運用ポイントもあわせて2回に分けてご紹介します。
3.在庫ABC分析に必要とされるデータとは?
在庫ABC分析を行う上で、最低限必要になるデータは、次の3つです。
1.入荷データ
物流センターに入荷された商品カテゴリ、商品コード、商品名、入荷数量、入荷金額、入荷伝票の行数が必要になります。また出来れば入荷元の名称、発注最小単位数、発注リードタイムなどのデータもあればより詳細なデータ分析が可能になります。
2.出荷データ
物流センターから出荷された商品カテゴリ、商品コード、商品名、出荷数量、出荷金額、出荷伝票の行数が必要になります。また出来れば出荷先の名称やコードがあれば便利です。
3.在庫データ
物流センターに在庫されている商品カテゴリ、商品コード、商品名、単位別の在庫数量(ケース数やバラ数など)、在庫金額が必要になります。
4.活用されないABC分析の例
まずは下の表を見てください。エクセルで簡単に作られた在庫金額を軸としたABC分析表です。在庫金額の多い順にランキングされています。
実際はもっと沢山の商品が並んで、上から累積構成比の多い順に並べてA・B・Cのランク付けがされます。さて、このABC分析を目の前にして皆さんはどのような分析をされるでしょうか?またその分析からどのような次のアクションが思いつくでしょうか?私も思いつく限り考えてみました。
1.商品Oが一番在庫数が多い
2.商品Hが一番在庫金額が多い
3.商品OとCが一番単価が安い
4.商品Xが一番単価が高い
5.商品Cが〇△□※%・・・・
この辺が限界でしょうか。。。さて、ではその分析結果から次のアクションをを考えていましょう。是非、皆さんも一緒に考えてみてください。
1.一番在庫金額の多い商品Hの発注量を減らす・・・?
2.単価の安い商品OとCの在庫が多いので、単価を見直しする・・・?
もはや、何がなんだかよく分かりませんね。それぞれ関連する重要な指標がないため、まったく次のアクションのアイディアが浮かんできません。
これだけ見ても、この数量が多いのか少ないのか、単価が高いのか安いのか、需要に同期しているか、何も分からないので手が打てません。
皆さんに分かりやすいように、ここでは少し極端な例としてご紹介しましたが、実際の物流現場では似たようなことが起きてます。皆さんも似たような経験があるのではないでしょうか?これは出荷金額ABCや売上金額ABCでも同じですね。その分析結果から物流や在庫の実態が見えなければ次に打つ具体的なアクションが見えてきません。この商品は出荷が最も多いとか、この商品が売り上げ金額の全体の〇%を占めているといったことが見えても、全く改善行動が起こせません。データ分析は次のアクションの意思決定をするために行います。その意思決定の判断材料にならなければ全く意味がないのです。私はこれを「アジリティを獲得する」と言っています。
(出典:デジタル技術が生み出すスピード経営 ~真のDNS時代の到来~)
データを活用して、判断し、行動するこのスピードをアジリティ(俊敏性)と言います。データを情報として整理し、知識、知恵にまで昇華させて具体的なアクションに変えなければ意味がありません。
次回は、データ活用によってアジリティを獲得するために、現場で実際に使える「在庫ABC分析」の具体的な手法について解説します。ご期待下さい!