画像素材:maxxasatori /PIXTA
<目次>
1.経営階層に応じた意思決定パターン
経営組織は、さまざまな情報を収集することによって、より合理的な意思決定が求められます。今日のように不確実性が高まるなかで意思決定者は、沢山の選択肢の中から決定によりもたらされる結果を主観的、客観的、総合的に判断し決断をしなければなりません。実際には、日々の企業活動における意思決定は、経営トップだけが行うわけではなく、組織に属する様々な階層によって行われています。
マネジメントの父とよばれたピーター・ドラッガーは、意思決定について以下のように語っています。
「意思決定とはトップが行うものであり、トップが行う意思決定だけが重要であるかのごとき議論がある。大きな間違いである。組織としての意思決定はスペシャリストから現場の経営管理者まであらゆるレベルで行われている」
これらのレベルは大きく「経営レベル」、「管理レベル」、「作業レベル」の3つに分けられ、それぞれの意思決定のパターンは異なります。
経営レベルは戦略を考え、管理レベルは戦術を考え、作業レベルは現状の作業を改善・維持することを考えます。ここで一つ注意が必要な点は、「経営レベルの意思決定が、作業レベルの意思決定よりも重要である」という勘違いです。戦略に基づいて戦術が練られ、戦術に沿って作業が行われることに間違いはありませんが、だからといって戦略が戦術や作業よりも重要であるということではありません。
経営トップが「それは戦術レベルの話だろ!」と下階層の意思決定や議論を軽んじるのは、あってはならないことです。レベルごとの意思決定のパターンは、その処理すべき問題のパターンによって決まります。デジタル時代が本格的に進み経営スピードを上げていかなければならない今日の経営環境においては、これまでの”機能中心の組織”から”問題解決中心の組織”へとマネジメントの重点を移していく必要があります。企業課題そのもの、戦略性の高い課題の割合は増え、経営トップだけではく、管理者、一般社員といえども、何らかの形で全社的な課題の解決に貢献せざるをえない時代なのです。
2.問題解決の3つのパターン
「問題」とは、現状と目標とのギャップです。”問題”と”課題”とはよく混同されがちですが、実は違います。”課題”とは”問題”を解決するためになすべきことです。システム化とは、”問題”が恒常的に発生しないようにシステムを構築することです。つまり、システム化それ自体も”課題”であるということになります。下図は、卸売業の物流センターで問題解決した際の例です。実際はもう少し細かいレベルで整理しましたが、分かりやすく簡潔にしています。「出荷が遅い」というクレーム対策として、ピッカーが「商品のピッキング作業をスピードUPする」ための問題の原因を究明して解決するプロセスになります。
これは”作業レベル”の問題解決の例です。過去の行動の原因を究明して問題を解決できたので、「原因究明型の問題」ということになります。
このように問題解決は、時系列的に過去、現在、未来にパターン化して取り組むことができます(下図)。
・原因究明型の問題
これは先の例のように、現状の実績と過去に立てた目標とに差があるという問題、あるいは、基準に達しないか、標準を逸脱した問題のことです。
その原因を究明することによって問題解決が可能となります。システムに求められる機能としては、目標と実績をいつでも簡単に比較分析できる機能になります。問題は既に見えているので、「問題解決思考」によるアプローチとなります。
・現状探索型の問題
現状はとくに問題はないが、目標を高く設定することによって見えてくる問題です。または現場では特に問題として捉えられていなくても、他社と比較することで見えてくる課題もこれに分類されます。組織の改善問題や、TQC、リエンジニアリングなどはこの問題解決となります。
問題はまだ見えていない状態ですので、多面的な見方で問題を探ることのできる「システム思考※」によるアプローチが適しています。
・未来創造型の問題
未来に影響を与える原因を探索(予測)し、この原因を除去する手段を講じて、未来に目標設定できるようにします。これは、新製品の開発や、新サービスや新事業の創造の問題にアプローチする方法と、将来的なリスクや危険を回避する問題にアプローチする方法とに分かれます。
ビッグデータを活用した未来予測、市場予測といった機能や、データサイエンスといった知識が役に立つ問題です。DXというのは、この問題にデジタル技術でアプローチすう方法であると整理すると、従来のIT化との違いを整理しやすいのではないでしょうか。
ユーザー視点に立ってサービスやプロダクトの本質的な問題・ニーズを発見することになるため、「デザイン思考」によるアプローチが適しています。
3.ROIを高める機能を持ったシステムの設計
物流システムとは、入力(I)が出力(O)に変換する機能をもったものと考えることができます。ここで私が考えるのは、デジタル化時代に必要とされるシステムは”経営支援型”のシステムであって、入力であるデータ(資本)を、出力である利益に変換する機能をもったシステムです。間断なくROI※を高める機能をもったシステムを設計することが、
これからのデジタル化時代を生き残るための”スピード経営”を支えるシステムではないでしょうか。これまでの”業務処理型”の物流システムは、入力(I)と出力(O)を決定すれば、設計は完成しました。しかし、”経営支援型”の物流システムは、問題を解決するためのシステムです。この機能をどのように設計するかが非常に重要となります。
物流システムを構築する際には、自社の問題を明確にし、それぞれどのパターンで解決するのかを見極めて、システムに必要となる機能を整理することは効果性を高める上で大変に有益です。自社が解決した問題は、上に紹介した3つのどのパターンに当てはめることができるのかをまず、チームで議論してみるもの良いでしょう。問題をただ、問題として漠然と眺めるのではなく、このようなフレームワークを用いることでチームの視点が定まることを体感頂くことができると思います。
※ROI・・・Return On Investmentの略称。投資収益率、投資利益率のこと。