画像素材:くま社長 /PIXTA
<目次>
1.情報活用能力を高め、”勘の経営”から脱却
コンピューターやソフトウェアの世界は、日本より欧米の方が進歩しているというのは、誰もが認めるところです。たしかに世界のデジタル技術のスタンダードはそのほとんどが欧米の企業発によるものです。日本は”標準化が苦手”、”英語圏ではない”といったことがよく理由にあげられます。
しかし、デジタル技術を上手に活用した情報活用については、日本もまだまだ負けてはいません。日本人が世界に誇れる得意技は”創意工夫”や”カイゼン”、そして”協調”です。また決められた作業を確実かつ正確に実行する勤勉さは、クオリティの高いメイドインジャパンを産み出す原資です。
今後は多くの作業はAIやロボットに置き換わっていきます。人口減による労働力の減少を補いながら、これまでと同様の経済力や豊かさを維持するには、こうした技術の力を頼らざるを得ないというのが一般的な考え方です。しかし、AIやロボットに頼るだけでは、どの国も同じになってしまい、芸がありません。最先端のデジタル技術を駆使し、企業の経営に情報を活用するには、日本人が昔から持っている創意工夫やカイゼン力といった強みが力を発揮します。今後必要になるのは、「AIやデジタル技術の力」ではなく、「AIやデジタル技術を上手く活用できる力」です。また日本人の最大の強みである”協調力”も、多様な世代、多様な人種、多様な価値観、多様な立場を持つ人々の間でAIやデジタル技術を活用して問題解決する上で非常に役に立ちます。
今後さらに高速化する通信と、それによって手に入るデータをフルに活用し、全社を取り巻く業務を総合的にシステム化することにより、従来とは全く違った意識革命、組織革命が起きます。そうなれば、新しい創造の世界を如何に構築するかが仕事の中心となり、それに関わる人々が喜び溢れる人生を送れるのではないでしょうか。少々大袈裟かもしれませんが、私はAIやデジタル技術にはそうした明るい次の時代を創る力を感じています。
ですから、弊社はそうした技術に積極的に関わり、全社をあげて自発的に、あらゆる垣根をとりのぞいて、理想的な創造の世界を目指して一歩一歩着実にその推進に励んでいます。
今後はデジタル技術を駆使した情報活用能力の差によって、高業績の企業と低迷する企業の二極化が進んでいきます。経営は意思決定の連続です。
正しい意思決定を連続して行うことによって企業は発展します。経験や勘に頼った経営ではなく、データに基づいた意思決定が求められます。
2.データを集めて、”問題を発見する情報”を創造する
広島に本社を置く中堅の雑貨ネット販売企業(O社)のデータを例に、”勘の経営”がいかに危険かを見てみましょう。O社の取り扱い商品は主に日用雑貨です。扇風機やテレビなどの家電から、ノートや鉛筆などの文房具まで幅広いアイテムをネット上で販売して売り上げを伸ばしています。
O社の社長は、およそ8,000点あるアイテムをカテゴリでグループ分けして、月別に集計された経常利益率上位の商品の一覧表を見せてくれました(下図)。
さて、皆さんはこの表を見て、どの商品グループが最も売上に貢献している考えますか。O社の社長は、利益率が一番高いAグループ商品が最も貢献していると考えていました。そこで、在庫や売上高を加味して、経営に対する貢献度を計算する表を作成してみることにしました。
するとどうでしょうか?一番利益率の低いD商品グループが一番貢献度が高いことがわかります。不思議ですね。その理由は、Aグループの商品は、
Dグループの商品比べて売上高に対して、在庫が多いからです。つまり売上に対して過剰在庫があり、販売効率が低いのです。ちなみに貢献比率の計算は以下です。
貢献比率 = 交叉比率 × 売上構成比
この貢献比率の商品グループ毎の構成比率が自社の売上に対する「貢献度」になります。もし、O社の社長が勘の経営を続けて、Aグループ商品を重点的に売り続けていたとすれば、どれだけの利益を無駄にしていたことでしょうか。毎日頑張って売ってくれている社員の努力が報われないことになっていたかもしれませんね。皆さんの会社でも、社員の頑張りを無駄にすることのないように、データを集め、それをデータベースに大切に保管しておくだけではなく、問題を発見するための情報として創造して頂ければと思います。
3.情報の創造能力を養う
大量生産、大量消費時代であればO社の社長のように、経験や勘に頼っていても正しい意思決定を行うことが出来たかもしれません。
しかし、あらゆるマーケットが成熟した今日、これまでのような意思決定のやり方は通用しなくなっています。このような時代に、正しい意思決定をするにはどうしたらよいのでしょうか?その答えはもうお分かりですね。情報活用能力を養うことです。そして同時に重要なのがデータを情報として創造する能力です。物流システムや通信インフラの進化により、広範なマーケットデータをリアルタイムで収集することは比較的容易になりました。
このマーケットデータや物流データを経営の役に立つ情報に変換するのです。それが出来るのは情報を創造する能力を持った人間の知恵です。
下の図は商品の販売効率向上の仕組みを簡単に示したものです。
このように自社の販売効率を向上させる仕組みを図解にすると、どのようなデータを集めて、そこからどのような情報を創造すれが良いかが見えてきます。
仮に自社がソフトウェア企業であれば、自社の製品パッケージでどのようなデータを集めて、どのような情報をアウトプットすれば、ユーザーの経営に貢献できるかがおのずと見えてきます。
AIはより人間の能力に近づき、より処理能力の大きくなったデジタル技術は社会の隅々に、あらゆる仕事に、利用されるようになるのがこれからの時代の1つの姿です。時進分歩の速度で進歩するデジタル技術について、限られた紙面でこれ以上説明することは難しいですが、データを集め、価値ある情報に創造し、活用することが出来なければ、これからの時代は競争力を失うことをしっかりと認識し、そうした育成や教育の仕組みづくりを急いでほしいと思います。