画像素材:freeangle /PIXTA
<目次>
1.物流事業者による誤った思い込みが弊害?
産業インフラとしての物流を共同で行うということができれば、トラックの台数が減ることによって温室効果ガス排出量の削減に貢献することができます。積載効率が向上すれば、それだけ空で走るトラックの台数を減らすことが出来ます。中長距離トラックが荷物を届けた後、空のまま戻る空車回送は30%を超えると言われており、社会問題になっています。物流を共同化することによって、積載効率を向上させることがサスティナブルの観点からも非常に重要な取り組みであるということは誰もが認識しているところだと思います。
共同物流の歴史は古く、これまで多くの企業が取り組んできました。しかし、その多くがメーカーなどの荷主企業が主導となって取り組むものであり、物流事業者同士が自ら率先して手を取り合って共同物流を構築するケースはほとんど見られませんでした。メーカーやその物流子会社などが率先して共同物流が行われてきたのが実状です。物流業界は1990年の物流2法の施行によって規制緩和が始まり、新規参入が相次いだ結果、運賃競争が激化しました。お互いが協力してビジネスを行うという考えになかなかたどり着けないといったことがあるのかもしれません。物流事業者の経営者の心の奥底に、共同物流は荷主にとっての利益になるかもしれないが、自分たちはリスクしかないという誤った思い込みがあるのだと思います。共同物流というのは、なかなかうまくいく姿をイメージしにくいという声も聞きます。異なる荷主、異なる物流事業者が一緒に物流を行うとなると、沢山のルールや制約条件に頭を悩ませることになり、果たして本当に上手くいくのかといった不安も多いようです。
けれども、共同物流の仕組みが上手く構築されれば、荷主にとっても物流事業者にとっても、地球環境にとっても全方位に良いことしかないのは明らかです。しかしながら、複雑で多岐に渡るルールや制約条件をどのようにして整理し、解決しながら共同物流システムを構築すれば良いか、多くの物流事業者はその解を持ち合わせていません。またそれを現場で着実にエンジニアリングできる人材も皆無です。これでは、いくら国や業界団体が物流共同化の重要性を説いても、いつまでたっても絵に書いた餅のままです。現にいまから30年以上も前に、共同物流によるグリーンロジスティクスの重要性は多くの専門家が説いていました。
2.共同物流システムにはメタヒューリスティクス
弊社はJailoというプロジェクトを立ち上げて、物流事業者と一緒になってデジタルの力で物流の最適化問題に取り組んでいます。このプロジェクトでは、メタヒューリスティクスというAI技術を採用して、水平統合による分散型の共同物流の実現に挑戦しています。
■Jailoのサービスモデル図
日本のソフトウェア業界は、もう30年以上も技術的な進歩がありません。規模の大小問わず、多くのソフトウェア企業が受託開発や派遣型のビジネスであり、技術的な研究や自社独自のソリューション開発に投資を行ってきませんでした。勘定系や業務支援系のソフトウェアの開発以外はほとんど何もやってこなかったので、この業界で世界に通用する国内製品は皆無です。かくいう弊社も実は10年ほど前は全く同じでした。完全請負型の受託開発が売り上げの7割を占めており、顧客に言われ通りのものを作って似たような業務ロジックのソースを量産していました。結果として、構造化されたデータ且つ、手順化された業務をシステム化する開発しかできないようになってしまいました。物流システムを専門に手掛けるようになり、こうしたシステム化のアプローチだけでは、物流の抜本的な効率化を支援するデジタル化は不可能だという結論に至ったのです。
受託開発や派遣を否定しているわけでは決してありません。ただソフトウェア業界全体が同じことをしていても世界に通用する国内製品がいつまでたっても生まれてきません。少々偉そうかもしれませんが、私はそれを危惧しています。
世界を見渡してみてください。GoogleやNetflixは非構造化された大量のデータを「ディープラーニング」で自由自在にマーケティング活用し、Amazonやウォルマートは手順化出来ない不完全な最適化問題を「メタヒューリスティクス」で解決し、物流や流通を手足のように操っています。
物流で皆さんが日々直面する問題について考えてみましょう。「Aの運送会社とBの運送会社、どちらが運賃が安いか?」という問題で頭を悩ませることは少ないと思います。タリフを比較すれば一発で解決ですね。しかし、「Aの運送会社とBの運送会社のどちらで運ぶのが最適か?」という問題ではどうでしょうか?”最適”ということは、単に運賃が安いだけでは最適とは言えません。顧客の希望納期が守られなければなりませんし、運送会社の配送キャパシティも考慮しなければなりません。このようなヒトの判断や意思決定に関わるプログラムは、勘定系や業務支援系のソフトウェアの開発アプローチでは解決不可能なのです。そもそも一番最初の要件定義の段階でつまずいてしまいます。
最新テクノロジーと言えば、ロボットやディープラーニングがもてはやされています。しかし、物流にはディープラーニングよりも、メタヒューリスティクスの方が適していると私は考えています。ディープラーニングを活用するには膨大な実績データが必要です。しかし、物流領域にそこまでのデータはありません。必要なデータが貯まるのを待っていたら何年かかるか分かりません。そのため、弊社が独自開発している
輸快通快でも、メタヒューリスティクスという古くからあるAI技術を採用して物流の最適化問題に取り組んでいます。
メタヒューリスティクスを用いると、様々な制約を満たす中で最も適切なものを見つけ出すことができます。さらに、ディープラーニングで予測した結果にメタヒューリスティクスを用いることで、在庫やカテゴリ間のバランスを考慮した、最適な配送手段をレコメンドすることが可能になるのです。
共同物流をシステム化するには、大きく4つの領域で最適化問題に取り組むことが必要だというのが私の考えです。その4つとは、「引当処理」、「発注処理」、「グローバルな標準化」、「より計画的なシェアリング」です(下図)。
■共同物流で取り組むべき4つの最適化問題
この4つの領域の最適化をメタヒューリスティクスを用いて解決します。ここで重要なポイントは、それぞれを部品化(Composable)することでシステム全体として機敏性(Agility)を確保するということです。このような複雑なシステムを統一化して組み立てるとシステム硬直化につながり、これからのデジタル化(DX)に求められる機敏性(Agility)を失ってしまいます。それは絶対に避けなければなりません。
3.共同物流システム成功のカギは「組み合わせ最適化問題」
ITの歴史を遡ってみると、かつてはデータ活用のためのインフラの整備が行われ、現在はデータの分析・解析が主流となっています。そして、今後は最適な計画の立案、効率的な運用がITの重要課題となります。物流領域においても、実世界に存在する多くの制約条件に基づく多様な「組み合わせ最適化問題」を効率よく解くことが求めらるようになるでしょう。
弊社は今、「物流DXの核心はデータ活用にある」という考えのもと、クライアントのDX推進の支援に取り組んでいます。DXとは「デジタルでアジリティを獲得すること」というのが私の考えです。そのため、データからどのようなアクションを起こすかが重要になり、データをアクションにつなげる技術が必要です。その点においてはメタヒューリスティクスは、今のところディープラーニングほど注目を浴びているわけではありませんが、DXを語る上ではどうしてもはずせない技術であると考えています。
ディープラーニングがデータドリブンであれば、メタヒューリスティクスはルールドリブンと言えます。複雑な制約条件を専門のデータサイエンティストチームが最適化モデルに落とし込み、PoCと呼ばれる概念実証を繰り返しながら90点の最適解を自動的に導き出します。人間だと50点~60点、優秀なベテランで80点の最適化が限界ではないでしょうか。物流コストの削減・効率化に限界を感じていらっしゃれば、是非私たちと一緒に最適化問題にチャレンジしてみませんか?データサイエンスの専門家の視点で貴社の課題、問題にアプローチすることで、次なる物流効率化の道が開けてくることをお約束いたします。