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<目次>
1.経営と現場の距離が物流共同化を阻む
流通業の寡占化とメーカーの上位集中が極端に進んだ欧米では、巨大小売業と大手メーカーとの直接取引をベースとするサプライチェーンが当たり前となっています。日本市場も卸不要論が以前から叫ばれていますが、卸売業を介した取引が今後も続いていく模様です。しかし、主要メーカーがそれぞれ自社系列の供給網を敷く縦割りの物流が限界を迎えています。国内マーケットの縮小でインフラの稼働率は低下し、トラック運賃の高騰によってコスト効率は急速に悪化しています。効率的かつ持続可能な物流の構築に向け、ライバル企業とも手を組むのが当たり前の時代になりました。国内を代表する小売業、卸売業、メーカーが集まって、日本型サプライチェーンの効率化に向けた取り組みが進められています。狙いは製配販が情報を共有し、在庫の流れを日常的に把握することで、共同物流を実現し流通全体を効率化することにあります。
そこでは主に返品の削減、取引条件の改善、情報連携が具体的なテーマとして上がっていますが、現状を見る限り着地させるのはなかなか難しそうです。例えば、3分の1ルール(製造から賞味期限までの期間の3分の1を過ぎた商品は店舗に納品できないとする取り決め)の見直しについても、これを緩和しようという方針が表面的には各所で打ち出されていますが、水面下では小売りがそれを認める代わりに、メーカーに値引きを要請しているといった綱引きも行われているようです。このような話を聞くと、地球環境のためにお互いの利害を超えて連携しようという、大きな視点に立った取り組みというよりも、小さなところに入り込みすぎているような印象を受けるのは筆者だけでしょうか。
共同物流のように大きく仕組みを変えようという発想は現場からはなかなか出てきません。そうした権限もありません。よって共同物流のような改革は、現場レベルの非常に細かい情報と、最高レベルの経営判断の距離をどうやって埋めるかということが非常に問題になってきます。物流の現場には実に多くの制約条件があります。まずはやれるところからやろうというのは分かるのですが、そうした制約条件からいきなり交渉に入ってしまうと、視点が低くなってしまい、お互いの利害を超えた連携は難しいでしょう。他社とのコラボレーションによる共同物流を進めるときの課題として、よく「総論賛成・各論反対」なんていわれますが、実際はそうではなくて、経営判断できる人には各論が分からない、逆に現場は大きな経営判断が出来ない、物流共同化がなかなか進まないのは結局そこなんだと思います。
そこはやはり経営のトップが強くこの点を意識して、現場とのルートをつくっていくしかないでしょう。経営と現場の距離が縮まない限り物流共同化のような取り組みは成功しません。
2.異業種、異業態との提携がキーワード
物流リエンジニアリングの一つのキーワードは異業種、異業態提携による「集約配送・共同配送」です。物流共同化は、同業種による事例の方が多 いのですが、その理由としては商習慣や納品ルールなどが似ているので取り組み易い、また提携相手を見つけやすいといったことが上げられます。しかし、効率化という点においては、出荷波動や「容積勝ち・重量勝ち」等の物流特性が似ているため、効果が限定されてしまいます。波動が激しいアイテムで集約してしまうと逆に運べなくなるといった新たな問題も生じます。これからの物流リエンジニアリングは劇的で革命的な効率化を目指して、グリーン・ロジスティクスへ挑戦することが要請されます。よって、物流共同化の基本は異業種、異業態との提携になっていきます。
ここで目指されるべき効率化とは、従来の規模の経済性を追求した効率化とは異なります。大量生産、大量販売をして規模の経済性を追求するという過去の日本型経営システムは既に通用しません。物流には、徹底的にグリーン・ロジスティクスの倫理にたった仕組みに再構築することが求められます。同じ効率性を追求するにしても、ここの部分をしっかりと認識して変革していくセンスがものをいうのです。
3.経営トップが物流エンジニアリングをどう考えるか
「ヒト・モノ・カネを情報でトータル管理して、これを販売の第一線に注ぐこと」これがロジスティクスに求められ時代です。モノを管理、運ぶだけがロジスティクスの役割だという認識ではいつまでたっても変革は起こせません。「情報でトータルに管理する」という点が肝です。ここをしっかりと理解することによって、最先端の物流システムを構築することが可能となり、物流のリエンジニアリングが可能になります。
これからの経営において、ロジスティクスが最大の経営戦略の課題であり、ロジスティクスで差別化する時代である点については、すでに理解が得られました。しかし、ロジスティクスが情報管理である点については、まだまだ理解が進んでいません。誰に何を売るかというターゲットを創造する知恵をマーケティングと言いますが、このマーケティングと結合したロジスティクスの企業格差が極端にではじめていると感じます。
企業格差と言いましたが、本音としては経営トップがこの点を理解しているかどうかの差だと思っています。未だに物流をモノの管理として位置付け、マーケティングとは別物として認識している経営トップが実に多いのです。これでは正しい対応が出来ません。基本的に経営者はマーケティングが好きです。マーケティング関連の会議には参加しますが、物流会議には参加しません。情報システムの打ち合わせの場にも姿を見せません。しかし、物流は情報管理であり、マーケティングであり、顧客ニーズを満たして付加価値を生みだす最重要な経営戦略です。これが物流リエンジニアリングの根本概念です。
この認識に立たない経営トップの決め台詞は「物流コストを減らせ」です。損益計算書の”運賃”という科目のみに注目して、そこを減らせと命令します。競争戦略として位置付けながらも、自社の利益だけでなく、地球環境、持続可能性についても考えていかなければならないのがこれからのロジスティクスです。常に最高の経営判断が求められる領域です。「顧客ニーズを満たす配送」だけでは合格点をもらえません。「自社の利益の最大化」を目指す物流では、荷主の場合は物流会社から敬遠され、物流会社の場合は荷主に選ばれなくなります。
物流コストの削減についても、自社の運賃や梱包材料費等の削減はごく一部に過ぎません。真の物流コスト削減は、もっと広い範囲の合理化の中から生み出されるもので、サプライチェーンを巻き込んだ物流システム全体の改善や再構築によって達成されます。運賃や梱包費を一時的に削減したと思っても、ガソリン代や材料費の値上げによってすぐにもとに戻ってしまいます。このような経費削減によるコスト削減の効果は、高い視点により達成される物流リエンジニアリングの効果に比べると非常に少ないです。