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<目次>
3.デジタル化社会に向けて、物流・ロジスティクスの統合を探る
1.期待される共同物流の進展
ネット通販(EC)の急伸に伴う物流危機は今や日本だけではなく世界共通の課題となっています。物流共同化があらためて重要な経営テーマとして掲げられ、物流運営の目的が差別化による競争から、共創による持続可能性に移りつつあります。リソースの利用方法は所有からシェアリングにシフトし、物流が新たな視点で見直されています。ドライバーや倉庫などのリソースを社会的にシェアリングすることで物流の処理能力向上を図ろうとする取り組みは世界的に研究が進んでいます。日本の物流市場でも、ガラパゴス的ではありつつも、大手日用品メーカーや飲料メーカーによる共同物流による効率化が一定の成果を上げています。
共同物流のロジックを改めて見てみましょう。積載率50%でトラックを走らせている2つの企業があるとすると、その企業の荷物を1台のトラックで100%の積載率で運べば、コストも環境負荷もリソースも全て半減するという実にシンプルなものです。しかし、これをいざ実施しようとするとそう簡単ではありません。企業が違えば、取引先のルールも、ルートも、文化も何から何まで違います。どのようにトラックを公平にシェアして、お互いの物流ニーズを満たしながら、共同物流スキームを組み立てるのか、ここが肝になるわけです。しかし、互いのニーズを整理して、調整してこのスキームを上手に組み立てることができる人も企業もほとんどいないというのが実状です。
共同物流については、誰がタクトを振るのかが常に議論されてきました。「荷主主導の方が上手くいく」という意見もあれば、「物流事業者主導の方が上手くいく」という意見もあります。または第三者が主導する方が上手くいくという意見も当然あります。もう一つの議論としては、異業種をパートナーに選ぶか、同業種をパートナーに選ぶかというもの。異業種では、競合する関係にないことや繁忙期が異なることから共同物流のハードルは低くなります。しかし、異業種の場合は横のつながりもないため、適切なパートナーを見つけるのに苦労します。また一旦スタートしても長続きしない場合が多いのが難点です。
一方、同業種の場合は納品先が重複している確率が高いので、異業種と比べて効率化がしやすく、扱い品目の種類も似通っているので臭い移りや衛生上の理由から混載できないといったケースが少ないので、適切なパートナーを見つけ易いという利点があります。ただし、同じ市場で競合関係にあるので、お互いのニーズを主張し合って、スタートする前に破談となってしまうケースが少なくないようです。
2.物流シェアリングのためのプラットフォーム
実際に異なる企業同士で共同物流を行っていくに当たっては、必ず物流システムをどうするのかといった問題が浮上します。各社の物流データの相互互換が求められるので、いずれかの企業のフォーマットに合わせるのか、もしくは新たなフォーマットを作成してそれに各社が合わせるのか、それとも物流システム側で各社のフォーマットを変換するミドルウェアを開発してミスマッチを吸収させるのかといったいずれかの方法がとられます。
物流データの大部分においてオープンにすることが求められるのですが、この点についてはまだまだ慎重な企業も多く、共同物流の大きなハードルの1つとなっています。物流リソースをシェアリングためのプラットフォームを構築するという考え方は、このハードルを下げるための方法の一つです。
プラットフォームという言葉の最も一般的な意味は、「その上に構築することのできる何か」という曖昧なものです。したがって、さまざまな意味合いで使われており、定義が難しいのです。ちなみにシステム業界でプラットフォームというと、新しいプログラムをその上に構築できる基幹的ソフトウェアを指します。物流リソースをシェアリングするためのプラットフォームも大体の意味ではシステムを指す場合が多いようです。ただしこの場合はいくつかのプロブラムを載せるための基盤としてではなく、各社の物流データを一元管理し、そのデータを共有して登録、閲覧が可能なデータ基盤として扱われます。
一方で、ビジネス・モデルとしてのプラットフォームという考え方もあります。この考え方は、ノーベル経済学賞受賞者のジャン・ティロールなどの学者が発展させた市場の両面性という経済理論を起源としています。この場合におけるプラットフォームの定義は、「2つまたはそれ以上の異なるタイプの顧客の直接的な相互作用を促進することで勝ちを作り出す事業のこと」となります。例として分かり易いのが、宿提供者と宿泊客を結びつけるAirbnbや、フリーランスのドライバーと乗客を結びつけるUberなどでしょう。YouTubeも動画作成者と動画視聴者と広告主を対象としたビジネス・モデルとしてのプラットフォームといえるでしょう。物流では、ドライバー、倉庫事業者、荷主といった異なるタイプの顧客の直接的な相互作用を促進させることで勝ちを作り出す事業を考えることができます。プラットフォームは二社間の決済や取引を促進する機能も有します。
今日の物流ビジネスは、水平展開型のプラットフォームモデルで行くのか、それとも従来のビジネルモデルに近い垂直統合型でいくのか、企業経営者はその選択に迫られています。それは単なる黒か白かの選択ではありません。何故なら正しいビジネスモデルの選択が水平展開型と垂直統合型の間のどこかにある場合が少なくないからです。Amazonなどの事例を考察すれば、この両極端のビジネスモデルを組み合わせて使うことで成功していることが分かります。プラットフォームモデルで盤石なビジネスを構築しながら、もう一方では従来型の非プラットフォームモデルで競合をブロックするような組み合わせはもはや芸術的です。
3.デジタル化社会に向けて、物流・ロジスティクスの統合を探る
この度のパンデミックによって、リモート化、自動化、省力化、デジタル化、分散化といった”新たな生活様式”が企業や教育現場、私たちの生活の様々な場面において一気に浸透しました。従来の当たり前は、あっという間に非常識となり、多くのパラダイムシフトが同時に起こりました。従来であれば、相当の時間と議論が重ねられた上で実行されたであろうことが一瞬にして実行され多くの成果を上げたことについては、恐らく多くの企業経営者の皆さんにとって驚きと発見だったのではないでしょうか。デジタル化社会が急に目の前にやってきました。行政、経済、教育などのあらゆる場面でリモート対応が求められ、オフィスや学校への出社や登校は最小限に制限されました。会社組織そのものもリモート体制と分散化に向かい、製造や物流現場では、徹底した自動化、省人化、効率化がこれまで以上に求められるようになりました。
これから私たちは本格的に「デジタルによる社会変革」を迎えることになります。生活様式や産業の変化はそのまま物流・ロジスティクスの変化につながることは明らかであり、物流産業のデジタル化の遅れは、そのまま日本経済のボトルネックとなるはずです。物流においても、デジタル化社会に向けた次の商品、サービスの行方を探ることが最重要であり、この緊急事態をNEW NORMALへの準備期間として前向きに捉えなければなりません。
特に国内の主力産業である自動車業界は今回のコロナ過で大幅な減産を余儀なくされました。自動車産業のサプライチェーンは大打撃を受けて、この産業の物流は存亡が危惧される事態にまでなりました。このように物流・ロジスティクスは今後も世界中で起こるパンデミックや災害によって、大幅な物量低下の危険にさらされることでしょう。今は安定的に物量があったとしても、2年後、3年後は分からないのです。
シェアリング発想による物流・ロジスティクスの統合は、こうしたリスク評価の重要な指針となるでしょう。物流停止や中断のリスクを読めなくなっていく不安定な経済情勢において、物流は互いに手を取り合い、持続可能性を追求し続けていかなければならないのです。