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<目次>
1.GAFAの株式価値が日本企業全体を超えた日
現在の資本市場をグローバルに一瞥すると、フォーチュン500社に入る企業が世界のGDPの三分の一を独占しています。日本経済新聞は今年8月、「GAFA」と呼ばれる4大テック企業のGoogle、Apple、Facebook、Amazonの時価総額合計が、日本企業全体の株式時価総額を超えたと報じました。
GAFAの時価総額合計は7兆500億ドル(約770兆円)に対して、日本企業全体では6兆8,600億ドル(約750兆円)。彼らは新しい通信テクノロジーや輸送形態がビジネスに与える影響を予め予期していたかのように飛ぶ鳥を落とす勢いで拡大を続けています。彼らの共通点を一つ上げるとするならば、時間やデータのダイナミックな力を新たな方向に向かわせて、より多くを集めて、より複雑な相互依存をシンプルに統合させている点です。
最新のテクノロジーで起こりうる社会の変化を予測し、プラットフォームとなるインフラを早期に形成するとともに、市場や経済がどう構成され管理されるかも彼らがタクトを振り、わずか数年のうちに世界標準を作り上げてしまうのです。巨額の投資をして、コストのかかる中間業者を排除し、取引コストを大幅に減らしつつ、生産性を劇的に向上し、市場の価格決定権を手にしてバリューチェーン全体を一括管理します。結果、各業界において一握りの市場リーダーが出現し、あっという間にそれぞれの分野を独占するのです。
フィジカルインターネットを社会実装するには、高度人材とビジネスモデルがなければなりません。新しい物流モデルによって、経済活動の速度と量が増すと、あらゆる産業において、高度人材を確保しつつ、ビジネスモデルを一から考え直さなければなりません。この新しい物流モデルの最も熱心な推進者となり、タクトを振るのは一体誰なのでしょうか?
2.分散化されたネットワークの相互接続
筆者は、高度人材を集めて高度な情報システムを構築し、新たなビジネスモデルを生み出すことで、フィジカルインターネットが具現化されると考えています。最新のテクノロジーを駆使したシステムと、新たなビジネスモデルがあればこそ、フィジカルインターネットが実現できるのだと思っています。過去の産業革命(第二次、第三次)を見れば、新たな技術とビジネスモデルが不可欠であることは明白です。ビジネスモデルの話については、他の関連文献に譲るとして、ここでは「情報システム」について考察したいと思います。
フィジカルインターネットにおける情報システムは、従来の中央集約型ではなく、分散化したネットワークの相互接続が基本になります。しかし、今日のロジスティクスは地域の事情や特性を反映する形で形作られており、そこから生まれたソリューションは標準化とは程遠く、相互接続を難しくしています。自動車製造業、スーパーやホームセンターなどの流通小売業、医療機器や電子機器製造業などの各業界毎にある程度統一化された規格が存在はしているものの、サプライチェーン間の相互作用を生むには物足りません。相互接続されたネットワークを構築するには、ネットワークを構成する関係者(荷主、物流事業者、ITベンダーなど)によって規約が統一化され(これをプロトコルという)厳格に遵守される必要があります。
グローバルな標準化動向を見てみると、GS1やCRFACT(セファクト)がトータルシステムとして上手く整理されていることが分かります。欧米各国では、それらが前提で物流が動いているのです。日本はどうでしょうか?バラバラですね。ここは極めて重要です。
3.ロジスティクス・フォース・オートメーション(LFA)
本稿で言う高度人材とは、AIやビッグデータなどの最先端テクノロジーと従来の業務システム(JavaやC#やリレーショナルデータベースで構築されたシステム)を融合し、適切にエンジニアリング出来る人材のことを指します。基幹システム(ERP)や倉庫管理システム(WMS)の業務システムと融合し、フィジカルインターネットを実現するには、上流の物流計画を情報システムで高度化させる必要があります。その役割を果たすのが、ロジスティクス・フォース・オートメーション(LFA)と呼ばれるシステムです。物流の上流(発注計画、物流計画)領域においては、AIやビッグデータは非常に相性が良いです。
LFAでは、WMSとの即時データ連携によって、入荷予定の在庫、輸送途上の在庫を引当可能にしたり、複数に分散された在庫(工場在庫、倉庫在庫、店舗在庫)の中から最適な在庫を引当したりすることが出来ます。物流コストとリードタイムを加味して、最適な出荷計画をイベントドリブン型のAIで自動生成することが可能です。またフィジカルインターネットを実現するには、物流をより高いレベルで計画的にオペレーションする必要があります。その為には予め発注量(必要数)を予測し、自動補充や自動発注の仕組みを構築することも重要です。その際には発注ロットをパレット単位にするのか、ケース単位にするのかといったルールを統一することが大切です。
4.情報システムのシェアリング
国内では、トラックや倉庫のマッチングビジネスがいくつかありますが、このようなスポット的な市場では、フィジカルインターネットは生まれません。シェアリングの発想で、より計画的な輸送手配を実現する国内での物流インテグレーターが誕生することが望まれます。また情報システムにおいても同様で、システムを提供するベンダーは、ベンダーロックインのビジネスモデルからいい加減に脱却する必要があります。
※ベンダーロックインとは・・・情報システムがベンダーに依存し、他のベンダーへの切り替えや統合が困難な状態
ユーザー企業がソフトウェアをオープンで利用できるように許可してあげることで、イノベーションの促進、開発のスピードアップ、コストの削減など、テクノロジーを最先端にキープし、有効活用することが出来るようになります。その手助けをベンダーがしなければならないのです。
5.コンポーザブルなエコシステムを構築
ビジネス環境が劇的に変化する中、企業にはその変化への対応力が強く求められています。しかし、硬直化した情報システムがその妨げになっているケースは少なくありません。その解決策として、今注目を集めているのが、「コンポーザビリティ」です。情報システムにおけるコンポーザビリティとは、複数の機能を部品化し、自由に結合や組み立てが可能な状態にするアーキテクチャのことです。一枚岩のように硬直化してしまったシステムをコンポーネントとして適度に分解することで、迅速かつ効率的にシステムのカスタマイズや他システムとの連携が行えるようになります。
フィジカルインターネットを実現するには、こうしたコンポーザブルなエコシステムとして自社の物流システムを構築していく必要があるのです。
6.おわりに
我が国が、フィジカルインターネットの最前線に立つには、ロジスティクスを時間やデータのダイナミックなエネルギーとして捉え、そのエネルギーを新たな方向に向かわせることで、より多くを集め、複雑な相互依存をシンプルに統合させていく方法を模索することです。GAFAの戦略を分析することはその一助になるでしょう。我が国が、フィジカルインターネットの熱心な推進者となり、世界を相手にタクトを振ることを心から願っています。