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<目次>
1.「強くてしなやかな物流」 -(1)有事においても機能する強靭な物流-
3.「強くてしなやかな物流」 -(3)地球環境の持続可能性を確保-
1.「強くてしなやかな物流」 -(1)有事においても機能する強靭な物流-
2020年に発生した新型コロナウイルス感染症は、目の前に突然幕を下ろされたように感じた企業経営者の方も多いのではないかと思います。筆者も小さな会社ではありますが、「これからパンデミックが起こる」と騒がれ始めたときは、この先どのようになるのか全く先が見えない不安から、経営者としてどのように対応していけばよいのか正直戸惑いました。経営者は規模の大小にかかわらず、常に中長期的な計画を持って事業運営に当たっていることと思いますが、さすがにこのような事態は誰も予期することが出来ません。
多くの国や地域で未曽有の被害を及ぼし、わが国においても2020年4月7日に初めての緊急事態宣言が政府より発令され、経済活動が停止しました。その甚大さはリーマンショックに匹敵する、あるいはそれ以上とも言われ、多くの企業経営へ負のインパクトを与えることになりました。リーマンショックの時は、金融危機によりお金の動きが止まってしまいましたが、今回のコロナでは人の動きが止まってしまいました。
物流業界でもこれまで経験したことのない事態に遭遇し、荷動きの乱高下や感染対策に振り回されました。10月から緊急事態宣言が解除され、大混乱が少し落ち着きを見せ始めてはいるものの、当分の間はコロナ過の環境下で、「止めない物流」を維持しなくてはなりません。荷主企業においては、新たな物流BCPの再構築を進め、物流事業者は「止めない物流」の体制構築が急務となります。
また、昨今頻発している豪雨や台風などに起因する大規模災害も物流に甚大な影響を及ぼしています。幹線輸送、物流施設、配送網、そして国際物流も含め、サプライチェーンの途絶がクローズアップされている中で、物流ネットワークの強靭性・持続可能性の確保が喫緊の課題です。
本大綱では、こうした感染症や大規模災害等有事においても機能する、強靱で持続可能な物流ネットワークの構築について、非接触や非対面、デジタル化等に対応した物流インフラ整備の重要性を述べるとともに、以下3つの方針を挙げています。
1.「ヒトを支援する AI ターミナル」の各種取組の推進
従来は対面で確認を行っていたコンテナの出入管理や運送の業務について、コンテナ搬出入情報等をPort Security(PS)カード番号により予約情報と連携させて、セキュリティを確保しつつ非接触で実施できるようにシステムを改修し、ポストコロナにおける感染症対策にも対応した貨物搬出入を実現します。(下図参照)
(出典:『 「AIターミナル」の実現に向けた取り組みの概要 』 国土交通省)
2.スマート貨物ターミナルの推進
貨物駅構内の作業は労働集約型であり、労働力不足に備えるためにも貨物駅の作業の見直しが課題となっています。最新技術の積極的な導入により、貨物駅構内の効率化・省力化、安全性向上を図り、物流全体の効率化を実現する次世代貨物駅構想がスマート貨物ターミナルです。
(下図参照)
■スマート貨物ターミナルのイメージ
(出典:物流PLAZA 21.04.07掲載記事より)
3.老朽化した物流施設の更新・高機能化による生産性向上
物流・産業の拠点である港湾の背後には、上屋、倉庫といった物流施設が多く立地していますが、小規模かつ老朽化・陳腐化した物流施設が多く、地震等の大規模災害時における被害の拡大等が懸念されています。そこで、京浜港周辺などの国際物流の結節地域をはじめ、老朽化した物流施設の更新・大規模化を推進することにより、物流の生産性向上に資する施設の高度化や、災害時にも物流を止めないため
の強靱化を図ります。
また、昨今の高度かつ多様な物流ニーズに対応した高機能な物流施設の重要性も高まっており、複数の事業者が物流施設を共同更新する
際の補助を行うことを国土交通省は発表しています。
2.「強くてしなやかな物流」 -(2)国際競争力強化-
安定した物流を確保するには、重要物流道路の整備と機能強化が欠かせません。国土交通省は、平常時・災害時を問わない安定的な輸送を確保するため、物流上重要な道路輸送網を「重要物流道路」として指定し、機能強化や重点支援を実施しています。また、新型コロナウイルス感染症の流行により、国際航空物流の重要性が改めて認識される中、航空物流の拠点である空港の機能強化に向けて、成田国際空港C滑走路の新設等を進め、首都圏空港全体での年間発着容量約100万回の実現を目指すほか、国際拠点空港である関西国際空港、中部国際空港の機能強化、及び福岡空港の滑走路増設等による一般空港等の機能強化を推進します。
農林水産物・食品の輸出額は、2012年の約4,497億円から2019 年には9,121億円と2倍以上に増加しました。背景には、アジアを中心に海外の消費者の所得が向上し、日本産農林水産物・食品の潜在的購買層が増えるとともに、訪日外国人の増加等を通じて日本産農林水産物・食品の魅力が海外に広まったなどの環境変化があります。この流れは、コロナ過の逆風の中でも、輸出額が大きく減少していないことから、今後も続いていくと予測されています。政府は、平成31年4月農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議を設置し、「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」に基づき政府一体となって輸出先国・地域との規制に係る協議等を行う体制を整備するなど、輸出促進の取組を進めてきました。さらに、これまでの輸出拡大の成果を踏まえ、「食料・農業・農村基本計画」及び「経済財政運営と改革の基本方針2020」・「成長戦略フォローアップ」において、2025年までに2兆円、2030年までに5兆円という輸出額目標を設定しました。
近年のアジア諸国の経済成長等を背景にグローバルサプライチェーンの構築が進展する中、このような成長市場の物流需要を取り込むためには、アジア諸国等における我が国産業の生産拠点及び物流産業の円滑な事業活動を支え、物流のシームレス化を推進することが重要になります。
過去に有事が発生した際にも見られた傾向ですが、これまでの無駄のないサプライチェーンから、バッファを備えたサプライチェーンへのシフトが進みます。国際競争力を強化していくには、多くの企業がサプライチェーン改革に着手するきっかけとなる在庫や物流コストといったところだけでなく、将来に向けた物流全体のグランドデザインの設計を経営者は強く意識する必要があるのではないでしょうか。
3.「強くてしなやかな物流」 -(3)地球環境の持続可能性を確保-
2020年10月、菅総理は臨時国会の所信表明演説において、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。この目標の達成に向け、物流産業においては、サプライチェーン全体での環境負荷の低減の観点から、鉄道や海運へのモーダルシフトの推進など更なる物流の効率化を進める必要があります。国と民間企業が一体となって、低炭素化・脱炭素化に向けた取組が進んでいます。ソニーは、2050年のカーボンゼロに向け、2030年に米国で、2040年には全世界で電力を再生可能エネルギー由来に替えると宣言しています。物流事業者には、グリーン物流を推進し、CO2削減に向けた自主的な取り組みが求められ、国もその支援を強化していく方針です。
■貨物輸送量当たりのCO2排出量
(出典:温室効果ガスインベントリオフィス資料より国土交通省作成)
CNG・LNG・水素等のエネルギーへの転換や、ダブル連携トラックなど、新技術等を活用した物流の低炭素化・脱炭素化も進んでいます。ハイブリット車にとって代わる車両として開発が進む燃料電池トラックは、2019年から三菱ふそう、日野、いすゞといった、トラックメーカーが開発を進めています。当初の計画に比べると普及が遅れている燃料電池車ですが、2020年3月末に、三菱ふそうが、燃料電池トラック「eキャンターF-CELL」を発表し、年内に量産を開始すると発表しました。車格7.5トン、積載荷物4トンで1回の水素充填で300km走行できます。但し、長距離貨物輸送であれば、充電無しで500kmは走らないと厳しいかもしれません。また何より車両価格と、運航経費が課題です。物流事業者は、利益を出すために運ぶのであり、CO2削減のためにトラックを走らせるわけではないので、技術革新と並行してそうした商業利用面での課題解決が普及のカギを握るでしょう。
■地球環境の持続可能性を確保するための物流ネットワークの構築
(出典:『総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)』 国土交通省)