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<目次>
1.車内から消えゆく配車係の無線指示
「AIテクノロジーによる今までにないタクシードライバーの働き方」。DiDiのサイトを訪れるとこのようなメッセージが日本列島の上にゆっくりと表示されます。中国の世界最大級の交通プラットフォーマーDiDiとソフトバンクの出資により、すべてのタクシー会社が利用可能な最先端のタクシー配車プラットフォーム「DiDiモビリティジャパン」。AIを活用した予測分析の配車プラットフォームで世界5億5千万人のユーザーが利用するまでに成長しました。筆者の地元広島でもすでにカープタクシーグループ、中国タクシー、ニコニコ観光がこのDiDiのサービスを利用して事業を行っています。
乗客はDiDiのサービスを利用すると、いつでもどこでも手元でタクシーの配車が可能になります。目的地、支払方法、乗車する場所をスマフォで選ぶと、最先端のAIエンジンが乗客と最寄りのタクシーを瞬時にマッチングします。一方、タクシードライバーは車に搭載されたタブレットでかんたんな操作で最寄りのユーザーから配車注文を受け付け可能です。お互いにどこにいるのかかが確認できて、タクシーの車種や距離もリアルタイムでスマフォで確認できます。また目的地までのルートも乗客と運転手で共有できる点も大きなメリットです。支払いはもちろんスマート決済によるキャッシュレス。
小さい頃、タクシーの無線から聞こえてくるよく意味の分からない配車係の渋い声が大好きでした。何故だかよく分かりませんが、すごくカッコよく聞こえたのを思い出します。実は筆者は創業当初、タクシー会社の運行管理システムを作っていたことがあります。どこのタクシー会社にもベテランの配車係の人がいて、巧みにタクシーと乗客をマッチングしている司令塔のような働きぶりを見て感心したものです。
そうした配車係の仕事がいずれこうしたAIに変わっていくのかと思うと、正直少し寂しい気持ちもあります。
2.AI時代に経営者に求められる決断とは?
DiDiのようにすでに社会インフラとしてAIを取り込んだビジネスモデルは、今後益々増えていくことは確実です。物流や交通に関わる経営者としては、こうしたプラットフォーマーを目指すのか、もしくはDiDiのようなプラットフォームと上手く連携して自社のビジネスを成長させるのか判断が迫られます。自社単独でAIのような最先端テクノロジーを駆使してサービス構築することも可能ですが、ネット全盛の現代において、いくつものプラットフォーマーが共存共栄するのは難しいのが実状です。フリマプラットフォームで「メルカリ」以外にすぐに思い浮かぶサービスがあるでしょうか?スマフォのチャットプラットフォームで「LINE」の他にいくつサービスがあげられますか?トップ3くらいが市場を独占し、その他大勢は沙汰されていくのがプラットフォーム市場の掟です。しかし、「どうしても自社でやってみたい!」という気概のある経営者の方もいらっしゃることと思います。
プラットフォームのビジネスモデルは「規模の経済」ですので、大きな市場で沢山のユーザーを獲得した者が生き残れる狭き門なのですが、あえて狭いニッチな市場を選び、その狭い市場で占有率を最大化してサービスさせていくことも可能です。物流に関わる経営者の皆様にここでお伝えしたいのは、AIを導入するか、しないかという判断ではなく、AIをどのような市場に投入するのか、自社のどのプロセスにどのような方法で組み込むのかといったデジタル前提で自社がとる戦略を判断していく必要があるということです。「AIはまだまだ我が社には関係のない話」というわけにはいきません。インターネットが今ではビジネスの必需品であるのと同じように、AIもビジネスの必需品となる時代が必ずやってくるのですから。
カープタクシーグループのように自社の事業を成長させてくれそうなプラットフォーマーを見つけて、いち早く連携することでデジタル化を推進するのか、またはAIを組み込んだ自社独自のサービスを構築して大きくチャレンジするのか。どちらにしても、決めるのは経営者の皆さんです。
3.AI物流最初の一歩は需要予測
国がDXレポートで警鐘を鳴らしているように、「企業が保有している既存システムのブラックボックス化が進み、膨大なデータ活用できない」といったことが、物流業界でも課題としてあります。物流業界はアナログで属人的な作業が未だ多く残っており、企業間のデータも連結されておらず、ビッグデータとして扱うにはまだまだ解決しなけれならない課題が山積みです。それでも、物流業界でAIの活用が急速に進んでいる領域があります。それが「需要予測」による販売予測、在庫管理です。AIを搭載した需要予測を行うことで、欠品や品切れ、または過剰在庫による返品や廃棄ロスなどを削減できるようになります。比較的少ないデータで精度の高い信頼性ある予測結果が簡単に得られることが普及の要因です。
需要予測のアルゴリズムには沢山の種類があり、日々進化しているため自社にあった適切なアルゴリズムを採用することが重要になります。
営業部門や生産部門のような川上では、通常半年から1年先までの需要を週別に予測して、販売計画や生産計画の最適化を図ります。
それに対して、川下の物流部門では、在庫水準や配送を最適化するのに日別・週別の予測が必要になります。
国内の食品卸最大手の三菱食品では、約1万点の商品データを活用した実証実験を行いました。同社の物流センターで蓄積された入出荷実績データと小売店舗の販売情報を用いて、商品ごとにAIによる需要予測を実施しました。その結果を基に物流センターの発注量をコントロールすることで、同社の主要カテゴリーである加工食品、菓子、酒類、冷凍冷蔵食品などの在庫を3割以上削減、また在庫削減とはトレードオフの関係にある欠品率も低下させることができました。
AIによる需要予測は今後益々高度化し、物流システムや在庫管理システム、生産管理システムに標準で装備されるようになると予想されます。
企業は在庫を減らしつつ、欠品も減らし、在庫回転率を上げることでキャッシュフローを改善することが可能になります。経営者は、中長期的な視点でAI導入を経営戦略に組み込み、その上でまずは需要予測からAIの活用を始めれば、目に見える効果を得やすいと思います。AIを活用して自社の物流デジタル化をデザインされる企業が1社でも多く増えることを期待します。