画像素材:World Image /PIXTA
<目次>
1.交通・運輸のDX市場は9000億円に!
これからの物流には、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが必要不可欠です。DXによってビジネスの課題をどのように解決していくのかを、経営者は考えなければなりません。企業の大小は関係ありません。人手不足が深刻化する物流業界では、業務効
率化が求められています。そのためには、まず紙や電話、FAXなどをデジタル化し、適切な管理を行えるシステムを導入することです。
こうしたデジタル基盤を活かして自社のビジネスをさらに発展させていくためのアイディアを膨らませます。
弊社は現在多くの企業から物流DXのご相談を頂きます。弊社が物流DXを提案するにあたり、最も大事にしているのが、事業成長です。
クライアント企業のビジネス上の強みにフォーカスして、プロデュース思考で物流DXの実現を目指しています。その為、経営層が積極的に関わることを求めます。経営層が自身の事業をこれまで成長させてきた経験に基づいて、シビアな目で物流DXをレビューすることが必要なのです。
富士キメラ総研は、DXの国内市場を調査し、その結果を「2020 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望」にまとめました。
同調査によると、「DXの国内市場(投資金額)」は2030年度の予測で3兆425億円にものぼります。これは2019年度比で3.8倍にもなります。
これだけでも注目すべきですが、特筆すべきは2019年度では、「交通/運輸」の市場がもっとも大きく、2030年度に向け最大規模を維持しながら拡大していくとみられる点です。つまり物流を取り巻く環境が今後最もDXに対する投資が増え続けていくと予測されているのです。
(出典:「2020 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望」 富士通キメラ総研)
2.不安が潜むデジタル革命
多くの経営者がデジタルで時代に合わせてイノベーションを起こして適応していくということへの不安があるようです。
しかし現状に甘んじていては、レンタルビデオ業界最大手のプロックバスターがデジタルベンチャーのNetflixの台頭によって、
市場から追い出されてしまったように、悲惨な結末を自社も迎えるのではないかという恐れも同時に抱えています。
これは何もデジタル化時代に限った話ではありません。いつの時代も、いつ脅威に直面して、店じまいをするようなことがある
かもしれないと、経営者の皆さんは熱心に自社を磨き上げることに努力をしてきました。ただ1点、これまでと違うのは破壊的
なスピードです。立ち上がったばかりのベンチャーが投資家から莫大な資金を集めて、わずか数年のうちに市場をひっくり返
してしまうようなことが世界中のあらゆる市場において起こっています。今後このスピードは更に速くなることはあっても、遅く
なることはありません。自社のペースに合わせて待ってもらえれば良いのですが・・・。
だからこそ破壊的な脅威に備えることが必要不可欠なのです。私たちが物流業界の経営者の方にデジタル化の必要性を熱心
に説いても、「荷主や取引先はそんなにデジタル化を必要としていない」という声が返ってきます。まるで私たちお決まりのセー
ルストークだと軽くあしらうかのようです。
3.あらためて物流DXとは?
ここであらためて物流DXの本質について考えてみましょう。デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、経済産業省が2018年に
まとめた資料によると、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを
基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上
の優位性を確立すること」。つまり、AIやIoTなどの新しいデジタル技術を使って、物流課題を解決するとともに、新たな価値を生み
だすことが「物流DX」だと言えます。しかし、物流領域にデジタル技術を使って、新たな価値を生みだした事例は昔からありますよ
ね。
Amazonや楽天はデジタル技術を使って小売業態を一変させました。もう少し古い話で言えば、コダックはデジタルカメラによって、
フィルム業界を一変させました。これって、上の定義に照らし合わせるといずれも立派なDXです。つまりDXに定義されていること
自体はこれまでも多くの企業が行ってきたことであり、なにも新しいことではないのです。
だから経営者は混乱します。「DX、DXっていうけれど、これまと何が違うの?」。私も同じ疑問は持っていましたので、色々と情報
を集めましたが、やはり「DXはデジタルの技術を使ってビジネスを抜本的に変える」というところで落ち着きます。従来の課題アプ
ローチ型のIT化との違いはこの説明で明確になりますが、昔からAmazonや楽天などがやってきたことを何故、いま新しい取り組
みであるかのように扱うのでしょうか?
これは私見ですが、「DXとは破壊的なスピードに対する脅威を新たに表現しなおしたもの」と捉えるようにしています。つまり、世界
的な警鐘なのです。デジタルによって社会が変わるスピードが指数関数的に増しているので、企業経営者にその必要性をこれま
で以上に認識頂くために作られた言葉ではないでしょうか。
オーストリアの経済学者であるシュンペーターは、「創造的破壊」について、資本主義はイノベーションの発生過程で必然的に古い
産業と経済システムを破壊するものだと述べています。この偉大な経済学者によって資本主義経済は、発明と破壊が常にサイクル
することで成長発展していくことを多くの人が理解しました。そのサイクルがいま、デジタル化社会の到来によって、驚異的なスピー
ドで起きているのです。
そもそも何故、Netflixのような小さな新参企業が業界最大手のブロックバスターを破壊に追いやるようなことが起きるのでしょうか?
この点については、「イノベーションのジレンマ」の著者で有名なクリステンセンの理論で説明できます。彼の理論によると、破壊者が
買い手に売り始めるのは、常に新市場においてだということです。確かにNetflixも当初はDVDレンタル市場で勝負していましたが、
それをサブスクリプション型にすることで既成企業であるブロックバスターのビジネスモデルを破壊しました。この時、Netflix側の買い
手は必ずしもブロックバスター側の買い手と一致するわけではありませんでした。どちらかというと出不精で店舗に足を運ばないけれ
ど、暇を持て余しているような人たちがNetflix側の顧客となっていきました。これによって、ブロックバスター側は自分たちの顧客が奪
われていないと安心して、「やはり顧客は店舗で選びたいんだ」と自社のビジネスモデルに自信を持ちます。この大きな勘違いによっ
て、ブロックバスターは破壊者であるNetflixを相手にしませんでした。しかし、やがて顧客は大挙して便利でアクセスしやすい代替サー
ビスにシフトしていきます。それに気づいたときには、昔ながらのビジネスモデルから脱却できない既成企業は、急速に衰退を始める
のです。
シュンペーターの創造的破壊、クリステンセンのイノベーションのジレンマがいま、デジタルの力によって、恐ろしいほど急速に、数え
きれないほどの業界で起き始めています。経営者はただ、実践あるのみです。