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<目次>
1.物流テーマパーク「アルファリンク相模原」
新型コロナウイルスの感染拡大の終息が見えない中でも、大型物流施設に対する需要は旺盛です。
2020年第2四半期の首都圏の大型物流施設の稼働率は99.4%と高稼働が続いています。
コロナ過でも、どちらかというと荷物量・流通量は増加傾向にあり、引き続きECがその最大の牽引役と
なっています。また不足の事態に備えた在庫量の積み増しも顕著に表れています。10年前の東日本大震災
の時も、サプライチェーンの寸断を受けて在庫量の積み増しが行われました。今回のコロナショックでも
同様の動きが見て取れます。
日本GLPは現在、神奈川県相模原市の協力の下で大規模物流施設の新ブランド「ALFALINK」(アルファリンク)
の第一号施設となる「アルファリンク相模原」を建設中です。日本GLPは不動産という切り口から物流業界に
貢献している国内物流不動産の最大手です。
会場全体をアートにするというコンセプトで設計されたその建築デザインは、従来の物流施設とは一線を画し、
まるで大型商業施設やテーマパークを思わせます。総面積は約684,000㎡で、東京ドーム約15個分の総延床面積
を誇ります。まさに物流テーマパークといっても過言ではありませんね。
■神奈川県相模原市中央区田名に建設中の「アルファリンク相模原」
物流施設内部をオープンにすることで、入居企業の物流クオリティや職場環境を外部にアピールすることができます。
またスタジアムのような形をした共用棟「リング」(上図)には、レストランや託児所、ジムなどを備えて施設内の
従業員や地域にも開放する予定とのこと。
同社の帖佐社長はこの大型で高機能の物流施設「アルファリンク」に対する引き合いは非常に活況だと言います。
アルファリンクが掲げる「OpenHub」「IntegratedChain」「SharedSolution」の3つのコンセプトに多くの荷主
企業が共感をした結果ではないかと胸を張ります。
今や物流機能は企業の広告塔です。自社の製品をどれだけ安全でクオリティの高い物流で消費者に届けることが
出来るかが問われます。物流をサービスにしたり、自社の強みにすることでその企業のプロフィット機能になります。
そうなれば、コストカットの対象ではなく、お金を払ってでもそのサービスが欲しいと言われるようになります。
2.加速する物流不動産の大型化
日本GLPが進めるアルファリンクプロジェクトのような大型物流施設の建設は今後も加速していくと予想されます。
その理由は大きく3つあります。1つ目の理由としては、不動産投資信託による物流ファンドの組成が可能になった
ことです。これによって、投資家から大規模な資金調達を行って、大型物流施設を建設することが容易になりまし
た。底堅い物流施設の需要は、投資家に好まれます。CBREが2020年に実施した不動産投資家対象としたアンケー
ト調査において倉庫は最も魅力的な投資対象として選ばれました。
2つ目の理由は、「自走式物流施設」の誕生です。従来は多層階の物流施設の場合、エレベータや垂直搬送機で荷物
を上げたり下ろしたりする必要があり、待ち時間がボトルネックとなっていました。ところが、自走式物流施設の
場合、最上階までトラックが上がれるスロープが設置されているので、平屋感覚で作業オペレーションを展開するこ
とが可能になります。こうしたイノベーションが大型物流施設の建設を牽引しています。
3つ目の理由は、物流企業や荷主企業が既存の中小規模かつ低機能の倉庫に限界を感じ始めているということです。
これまで以上の在庫削減や物流コスト削減、効率化を進める上で、既存の倉庫に見切りをつけて、こうした大型で
高機能の倉庫に大きな期待が集まっています。
3.強まる物流拠点分散化の傾向
物流拠点政策の最近の傾向としては、拠点分散という流れが加速していることです。従来は在庫削減や在庫管理、
物流の効率化を目的に大規模センターに集約する動きが主流でした。ところが近年は大規模災害や物流クライシ
スの影響で、サスティナブル(持続可能性)やBCP(事業継続性)の観点からサプライチェーン全体のリスク分散や
負荷分散の傾向が強まっています。
とは言っても、今後「拠点分散」1択になっていくというわけではなく、拠点の集約と分散という相反する
二つの流れが同時に進行していくと思われます。また今回の新型コロナウイルスの影響でこの二極化はさらに
進んでいくと思われます。どちらの戦略を取っていくのかは今後企業の事業戦略にとっても最重要課題となり
ます。
リスク分散やスピード配送を優先するのであれば拠点分散に舵を切り、コスト削減を優先するのであれば
拠点集約に舵を切ることになります。いずれにしても今後の物流不動産に求められるのは、こうした二極化
していくニーズや、今後更に多様化していく物流施設の使われ方に柔軟に対応していくことです。
4.DXに向けた物流施設の課題と展望
新型コロナウイルスの影響でSCMに対する様々な再検討が行われています。調達経路や在庫に対する考え方などです。
既存拠点の見直しや先進的物流施設に対する期待は今後さらに高まっていくことでしょう。一方で、こうした大型物流施設
を運営する企業にとって労働力確保は引き続き大きな課題です。雇用に有利な立地の選定を重視する企業はますます
増えていくことでしょう。労働力不足についての対策としては、AIやIoT、ロボティクスの導入による効率化を推進するとと
もに、労働環境の改善や従業員満足度の向上を図る必要があります。
また物流DXの推進に向けて、物流施設が持っている可能性をどうやって広げていくのかが今後の課題ではないで
しょうか。近年は物流施設の存在が地域のランドマークとしての存在感を強めています。冒頭の「アルファリン
ク相模原」もその好例です。社会的にも物流不動産の重要度はますます高まっていくことでしょう。
物流が「効率化」や「最適化」にとどまる時代は終わりました。今までにない価値を創造し、イノベーションを
生みだすための場として物流施設が活用されることで、物流がこれまでの縁の下の力持ちとしてだけではなく、
私たちの社会を明るく照らす存在へと押し上げることが出来るのだと思います。