画像素材:freeangle/PIXTA
<目次>
1.上昇が続く売上高物流コスト比率
物流領域の今日的課題の一つに売上高物流コスト比率の上昇が挙げられます。公益社団法人日本ロジスティクスシステム
協会(JILS)が毎年行っている物流コスト調査によれば、企業の売上高に対する物流コストの割合は直近10年で最大値を
記録しました。
売上高物流コスト比率は、トラックドライバーの賃金水準やトラック事業者数と強い相関関係があります。
平成2年以降、トラッ ク運送事業の規制緩和によって新規参入事業者が急増 しました。しかし、事業者間の競争が激化し、
直近10年は、事 業者数の増加率は鈍化しほぼ横ばい状態にあります(下グラフ参照)
■トラック運送事業者数の推移(単位:者)
(出典:公益社団法人全日本トラック協会 日本のトラック輸送産業現状と課題より抜粋)
トラックドライバーの賃金水準が今後も上昇していくことを考えると荷主企業は物流コストマネジメントのアプローチ
を転換する必要があります。これまでのような単眼的な物流コスト管理から複眼的なロジスティクスKPI管理へとシフト
する必要があります。
今回は荷主企業が物流DXに取り組む前に、自社の物流コストを簡単にシュミレーションする方法について解説します。
初心者向けの簡易バージョンになりますので物流コストシュミレーションのイメージを掴んで頂ければ嬉しいです。
2.運賃値上げによるコストシュミレーション
ヤマトが法人顧客に対して一斉に値上げを行った「ヤマトショック」(2017年3月)からもうすぐ3年になります。
今までの1.5倍から2倍近い価格で運賃の値上げを打診された荷主企業はどこも頭を抱えました。
運賃値上げは企業の財務へどのようなインパクトを与えるのでしょうか。早速シュミレーションしてみましょう。
まずは自社の経営数値を科目毎に算出します。
■経営数値
続いて自社の物流コストをカテゴリー毎に算出します。
■物流コスト内訳
この企業財務状況において、運賃が15%値上げになった場合の影響度についてシュミレーションしてみます。
運賃は物流コスト内訳の「輸配送費用」に該当しますので、現状の6億円の運賃が6億9千万円に増加します。
9千万円の輸配送費用増加になりますので、これは物流コスト全体の5.3%を占め、売上高全体の0.3%を占めるこ
とになります。
これにより営業利益が6.0%引き下がることになりますので、運賃15%値上げが企業財務へ与える影響は以下に
なります。
とても単純で簡単な計算ですが、ここで重要なのは同じ運賃値上げ率でも、企業の財務状態によってその影響度
は大きく異なるという視点です。荷主企業においては、運賃が上がることで物流コスト比率、営業利益率にどの
ような影響度合いがあるかを正確に知っておくことが何よりも重要です。
そして物流事業者側の視点からすれば、近視眼的に複数の荷主に対して同一の値上げ率で値上げ要請するのでは
なく、顧客である荷主企業の財務影響度を把握した上で、お互いにとって最適な価格を提案する努力が望まれます。
3.拠点分散によるコストシュミレーション
物流拠点戦略として、古くからマザータイプ(一元管理)戦略とリージョナルタイプ(分散管理)戦略のどちら
を選択するか企業の判断は分かれてきました。今日の物流拠点戦略でもこのいずれかを選択するかについては意
見は分かれますが、BCPや物流コスト対策として、リージョナルタイプを選択する企業が増えています。
皆さまの企業ではどちらを選択されているでしょうか?
拠点を分散することで一番最初に懸念されるのが在庫量が増えることです。自社の経営数値を用いて、拠点
分散することが企業財務にどのようなインパクトがあるか簡単にシュミレーションしてみましょう。
物流センターを2拠点から4拠点に拡大する施策をとった場合の例で計算してみます。
経営数値と物流コストの算出については、先の運賃値上げシュミレーションと同様です。
■経営数値
■物流コスト内訳
まず拠点を2拠点増やすことによって、自社の在庫がどの程度増加するか仮説を立てます。今回は120%在庫が
増加する想定で検証を進めます。在庫が120%増加すると、物流コスト内訳の「保管料」5億円が6億円になる
計算です。
拠点が2拠点増えることで、納入先までの輸配送距離が短くなり、kg単価が20円から15円に下がると仮定しま
した。これらを踏まえて、物流拠点が2拠点増えることによって企業財務へ与える影響は以下になると想定
できます。
このシュミレーションでは物流コスト比率を2%引き下げることが出来る計算になりました。在庫の管理方法を
システムで一元管理することで増加率を抑えたり、4拠点を想定した物流網の再構築によってさらに物流コスト
を削減することが可能になれば、さらに物流コスト比率を下げることも可能でしょう。
4.おわりに
社内に物流デジタル化を推進する専門チームを設置する企業が増えてきました。RPA(ロボティック・プロセス・
オートメーション)やAI(人工知能)を活用して受発注業務を効率化するなどこれまでアナログで処理して
いたことをデジタルで自動化することに取り組んでいます。
しかし、物流DXとはこうした活動とはまた次元が異なります。従来の商流から物流を組み立てる発想を逆転し、
物流から商流を組み立てることで、ビジネスを抜本的に変革するダイナミズムが求められるのです。