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<目次>
1.2020年度売上高物流コスト比率が大幅に上昇
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会が昨年12月に発表した「2020年度物流コスト調査報告書【速報版】」
によると、売上高物流コスト比率は5.38%(全業種平均。速報値)となりました。前年比で0.47ポイントの増加と
なり、大幅に上昇する結果となりました。
近年続いているドライバー不足などによって物流事業者からの値上げ要請が強まっていることもあり、直近20年間
の調査結果と比較しても、過去2番目に高い値です。
(出典:「2020年度物流コスト調査報告書【速報版】」公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会)
物流事業者からの値上げ要請については、回答企業171社のうち83%が要請を受けたと回答しました。また値上げ要請
があったと回答した企業142社のうち、95.8%の企業が値上げに応じたと回答しています。今後も引き続き物流事業者
から荷主企業へ対しての値上げ要請は続くことが予想されます。
(出典:「2020年度物流コスト調査報告書【速報版】」公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会)
今後の見通しとしては、製造業と卸売業においては、新型コロナウィルスの影響で売上高の減少が見込まれる一方で、
物流コストの減少はわずかに留まり、売上高物流コスト比率はさらに上昇するのではないかと予測されます。コロナ
過でも比較的好調なECや日用品、ドラッグなど一部の小売業では、売上高も物流コストも同じ程度で上昇し、売上高
物流コスト比率は横ばいの見通しです。
2.ビジネスモデル改革は終わりのないタスク
我々、物流テック企業にご相談頂く定番かつ、最も多い相談が「デジタルを活用した物流コスト削減」です。物流コス
ト削減は企業経営において最重要テーマであり、改善インパクトも大きいです。仮に売上高が100億円規模の企業が物流
コストを20%削減出来れば、1億円の利益を生み出すことが可能になります。物流領域のアナログ作業をデジタル化する
ことに成功すれば、このくらいの数字は2~3年で十分に達成可能です。
多くの企業がこの物流コストをターゲットにした「変革」を夢見ています。しかし、あまりにも多くの企業が「変革」
を何十年に1度の革命か何かのように捉えています。かつてゼネラル・エレクトリック社の最高経営責任者を務め、
「伝説の経営者」と呼ばれたジャック・ウェルチはこう言っています。「変化する能力そのものが一つの競争優位性で
ある」
「変革」は一度きりのものではなく、経営者にとって最も重要で、かつ終わりのないタスクです。デジタルを活用した
ビジネスモデルの変革もどこか、遠い先の夢物語のように語られがちですが、こうした考え方は企業が変革を成し遂げ
るうえで妨げになります。
※ここで言うビジネスモデルとは収益を上げる仕組み、顧客に価値を提供する方法を意味します。
いま、多くの既存産業がデジタル破壊の渦の中心に猛スピードで吸い寄せられています。全く想像もしていなかった
小さなスタートアップがわずか数年で既存産業の常識を覆し、あっという間に顧客をさらっていってしまいます。
デジタル破壊によって小売業界が脅威にさらされ始めた2000年代、物流業界では自分たちは大丈夫だろうと安心してい
ました。何故なら倉庫やトラックが何よりの参入障壁であり、最大のアセットだと認識していたからです。
この認識は正しかったのです。つい数年前までは。しかし、今では物流事業者の経営者は誰もがこの認識が誤りである
ことに気付いています。「この転換期をどう乗り切るか」「次の市場リーダーは誰か」といった考えを常に頭に巡らせて
いることと思いいます。
絶えず押し寄せてくる変化の波を乗り切るためには、単に自社の変革について語るだけでは十分ではありません。
成功する企業は変革を理念として重んじ、それを絶えず継続しているのです。
3.デジタル技術を用いて企業を変化させ、業績を改善する
デジタルによるビジネス変革は、本格的に取り組むべき経営テーマであるという理解は世界中で広がっています。当然、日本企業
においても急速にその方向に向かっています。
「デジタルを土台にした変革によって、企業は業績を改善できると思いますか?」仮にこのようなアンケートを経営者に実施したと
すれば、恐らく全員がYESと回答するでしょう。企業は絶えず変化していますが、デジタル技術が大きな影響を及ぼす頻度は年々
増えています。しかし、実際はデジタル技術そのものが企業を変えるわけではありません。デジタルによって、プロセスや戦略が
変化することによって、企業が変化します。
デジタル技術そのものが企業を変化させるのであれば、もっと多くの企業がデジタルによるビジネスモデルの変革に成功している
はずです。組織はその規模や特徴によって、様々なもつれが内部に存在し、それがプロセスや戦略の変化を妨げることによって、
デジタル技術を無力化してしまうのです。
企業がある目標を達成するには、必要なリソースを確保し、上手く機能させることが必要条件です。この原則はどんなに最先端の
デジタル技術であっても不変です。
4.カスタマーバリューの創出が最優先事項
物流領域でカスタマーバリューが語られ始めたのはごく最近です。どれだけ完璧にプログラムが動いたとしても、それがカスタマー
バリューの創出につながっていなければ、効果は期待できません。どのような場合も、企業全体の取り組みを活性化させるには、
カスタマーバリュー創出を最優先事項としたときのみです。そうでなければ膨大なリソースが消費され、少しも前進していないといっ
たことになります。
企業のIT導入は75%が当初想定していた効果を発揮できずに失敗に終わるといった昔からの研究報告があります。
失敗する理由は色々とあると思いますが、私が考える一番大きな要因は「デジタル化に対する間違った思い込み」です。
この間違った思い込みはあまりにも多くの人が抱えている厄介な課題です。企業は常に競争力を求め、収益向上に努め、そのため
に何をすべきかという”実行力”を最重要視します。
そのため、性急な決定が下されることもしばしばで、取り組むことが見当違いな方向に向かうことも少なくありません。
デジタルはあくまで企業の戦略を支える技術であって、デジタルそのものが戦略になるわけではありません。「デジタル戦略」という
経営者にとって都合の良い言葉が常に競争力を求め、収益向上を急ぐ経営者の判断を誤らせます。
戦略の最優先要素はカスタマーバリュー創出のためのアプローチです。経営者は何よりもまずこれを念頭におき、「顧客にどうやって貢献
するか」を明確に定義しなければなりません。
戦略のないまま、戦術的、あるいは機会追求的な考え方でデジタル化を進める「戦略なきデジタル実行」は誤った方向へ進むスピードを
速めてしまうことになりかねません。
物流領域におけるデジタル活用は、何よりも顧客に対するイノベーションを優先し、そこに企業のリソースと時間を割くことを経営者が
許可しなければらないのです。
デジタルの力を借りて、数年前には不可能だったサクセスストーリーを描き、顧客が繁栄できるように支援することが出来れば、それが
皆さんの企業の成長の原動力になるでしょう。ですから、すぐにできる最低限の改善で済ませたい気持ちを抑えて、あらゆる活動の中心
に顧客を置いて戦略を練り、顧客の成功が自社の成功と密接に関連していることを示さなければなりません。