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<目次>
1.コロナ過とDXで変化する顧客ニーズの変化
コロナ過とDXで弊社に寄せられる顧客の相談の内容が変化しています。これまではWMSの導入や在庫管理システムの
導入という明確な目的があって寄せられる相談が多かったのですが、最近は物流を改善したい、物流をデジタル化し
たいという漠然とした相談の内容が増えてきました。
1つにはコロナ過という先の見えない不安の中で何か打てる手はないかと模索しているのではないかと予測されます。
またDXについて経営層から検討を要求され、自社ではどういったことに取り組めるのかという手探り状態での模索が
増えてきていることが要因として考えられます。
また製造業でいえば、SCMの要件も変化しています。在庫削減や業務効率化といった従来からのテーマに加えて、
輸配送最適化や在庫をモノとしてではなく金額として管理したいという新たな要素が求められるようになってきました。
経営層や経営管理部門は、日々の業務が財務諸表のボトムラインとどうリンクしているのかを知りたがっています。
またSCM部門や現場も、自分たちの活動がどう業績に反映されるのかを強く意識するようになってきていると感じます。
経験と勘に頼った”どんぶり勘定”から抜け出し、合理的な物流管理、在庫管理の必要性が高まっています。
2.在庫の役割と影響
中国最大級のEコマース企業である京東集団「JD.com」が2020年第2四半期の決算を発表しました。純利益は前年同期比
33.8%増加して3兆2176億円に達し、過去10四半期で最高となりました。大幅に純利益を向上させた要因の一つとして、
同社は在庫最適化を挙げています。在庫回転日数を34.8日まで改善させ、これは同社の過去5年間におけるもっとも良い
数字を記録したことになります。
京東集団の例が示すように、在庫が企業の利益にあたえる影響は決して小さくはありません。製造業であれば資金を調達
し、材料を仕入れ、製造して販売し、再び資金へと循環されます。資本の調達はインプット、資本の運用はアウトプット
で、財務の定義は”資本の調達と運用”ということになります。
バランスシートは資産と資本の部に分かれ、在庫は資産の部に位置づけられます。その資産もまた流動資産と固定資産に
分けられ、在庫は流動資産の中の、一番流動性の悪い所に位置付けられます。このような財務活動、つまり資本のサイク
ルにおいて在庫はとても重要な役割を担ってるのです。
企業を運営していると、いろいろな所に在庫がたまります。生産変更に対するバッファ在庫、発注ロットまとめによる
在庫、まとめ生産による在庫、需要のズレに対するバッファ在庫、物流平準化、輸送ロットによる在庫などさまざま
です。売上が伸びている場合でも、こうした在庫がたまれば資本コストはどんどん増大します。
在庫がたまればたまるほど、回転は鈍くなり、在庫が少なくなればなるほどその回転はシャープになり、京東集団のよう
に同じ資本でも利益率が一段と向上します。
しかし、一方で製造業においては、在庫はさまざまな役割を持っています。以下にその一例を示します。
役割以上の在庫はムダとなりますが、役割を果たしている在庫は必要な在庫です。この在庫が果たす役割が流通業に比べ
て多岐に渡る点が製造業の在庫管理の難しさを物語っています。
3.役割以上の在庫が発生する理由
役割以上の在庫が発生する最も大きな理由はずばり”人間の心理”です。生産管理部門の担当者が以前に一部の部品を欠品
させたことで生産ラインを止めてしまってものすごく怒られた場合、その部品の在庫は役割以上に増えることになるでしょ
う。購買部門の担当者が依頼されていた部品の納期が1日遅れたことで生産ラインを止めてしまった場合も同様です。
在庫は多い場合にはそれほど担当者が責められることはありません。しかし、在庫が少なくなると、サプライチェーン上の
隣の部署ともめごとが起きます。企業と顧客の関係が分かり易いでしょう。企業が在庫を多く持っていても顧客は無関心
ですが、在庫が少なくて欠品するとクレームになることもあります。
つまり、揉め事を起こしたくないので、在庫は少し多めにするという心理が自然に働くのです。在庫が多少過剰になっても、
「必要な在庫です」という言い訳も簡単につきますが、欠品させてしまった場合はなかなか言い訳も難しいものです。
4.在庫は企業内の問題を見えなくする
在庫を多めに抱えると企業内のプロセス上の問題が見えなくなってしまいます。以下に一例を示します。
1.計画精度の悪さが見えなくなる
例えば、販売計画の精度が悪くても在庫を多めに持っておけば、販売実績が大幅に計画とずれていても顧客に迷惑が
かかることがないので、発見や対策が遅れてしまうことになります。
2.業務精度の悪さが見えなくなる
生産が計画通りに進まないことが多くても、在庫が余分にあればその先の工程に迷惑をかけることがないため、生産
計画や生産方法の見直しのきっかけを掴みにくくなります。また歩留まりが悪くても余分な在庫で簡単に賄えてしま
うため、歩留まりの改善にもつながりません。
3.コミュニケーションの悪さが見えなくなる
営業部門、生産部門、物流部門の間で情報連携がタイムリーに行われていなくても、在庫が余分にあることでそうした
コミュニケーションの問題が隠れてしまって、改善がされにくくなってしまいます。
5.まとめ
在庫は企業内の狭間が大好きです。そこが在庫にとってもっとも居心地の良い場所なのでしょう。購買と製造の波間、
製造の中の工程と工程のすき間、生産と販売の谷間といった具合に様々な狭間に在庫はたまります。
また在庫は人間の心理に反応します。人は不安を解消して安心するために在庫に依存します。これを在庫依存症と言います。
人間の心理は在庫を多く積むことで安心することが出来るのです。「もうあんな思いは嫌だ」という経験からの逃避
が在庫に手を伸ばさせてしまうのです。
しかし、在庫にも役割があります。その役割を明確にし、必要量を導き出し、人の心理を不安から安心に導く仕組み
が企業内に構築されれば、在庫の最適化は実現可能です。