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<目次>
1.レノボの常識にとらわれないSCM
常識にとらわれないサプライチェーンマネジメントで世界有数のパソコンメーカーに成長したレノボ。
ノートパソコンやデスクトップパソコンで同社が世界中に知られるようになったのは、ここ15年ほどのことです。
同社が2005年にIBMのパーソナルコンピューティング部門を買収した際の大胆なサプライチェーンマネジメントは
ベストプラクティスとして世界中で語られることになりました。
レノボがIBMのパソコン事業を買収した時点では、129もの管理指標(KPI)がありました。
多いでしょうか?それとも少ないでしょうか?
実際にはそれらの指標は有効に管理されていませんでした。各自がそれぞれのやり方で測定をして、ごく小さな分野にまで
KPIが設定されており、各担当者は自分のKPIを測定して、「私の目標は達成しています。なぜ改善する必要があるのか?」
と胸を張って応えるだけでした。同社ではこの129あったKPIを2年後には5つに絞り込みました。大規模なプロセスの再評価を
実施して、重要なKPIだけを残したのです。
その5つとは「納入パフォーマンス」「キャッシュサイクルタイム」「品質」「原材料コスト」「サプライチェーン総コスト」です。
こららの重要なKPIに大胆に絞り込むことで、サプライチェーン全体のパフォーマンスを測定しやすくなりました。同社はこの5つ
のKPIを測定しながら、需給管理プロセスを徹底的に見直し、実行責任と説明責任を一貫性のあるものにしたのです。
2.第五原則:パフォーマンスの測定
かつてピーター・ドラッカーはこう言いました。「測定できないものに責任を負うべきではない」。測定できないもの
は管理不能です。しかし、多くの企業ではサプライチェーンのパフォーマンスを正しく測定する手順を知りません。
KPIを設定している企業がそもそも少ないのですが、KPIを設定してもそこに明確な意図がなかったり、レノボの事例の
ように無作為に設定された沢山のKPIを記録することで満足していたり、以前は設定していたけれども続かないのですっ
かり過去のものになってしまっていたり。
KPIで示されるパフォーマンスの問題の根本的な原因を突き止め、改善機会の発見を促す仕組みを実行出来ている企業は
本当に少ないのです。何故でしょうか?答えは単純明快です。そのような測定手順を作り上げること自体が極めて困難
だからです。しかし、経営者としてサプライチェーンを的確にマネジメントしたいのであれば、測定出来るようにする
しかないのです。
正しく測定できる手順が出来上がれば、サプライチェーンのパフォーマンスが改善しているか、悪化しているか、ある
いは将来悪化する可能性があるかといったことを理解することができるのです。それによってマネジメントが可能にな
ります。目標を設定したり持続的な改善を促したりすることが容易になります。
パフォーマンスの測定手順を確立するときに皆さんがよく迷うのは「最適なKPIの選択」と「適切な目標値の設定」
です。この2つの難題の解を知らないために、多くの企業では的確な測定が行われないまま、誤ったマネジメント
が実行されているのです。今回はこの2つの難題の解決策について考えてみましょう。
3.自社に最適なKPIの選択方法
どのようにして自社に最適なKPIを選択すれば良いのでしょうか?誰しもが抱える問題だと思います。その指標として、
以下を参考下さい。
1.業界の標準のKPIについて理解する
業界や自社に特有のKPIを定義することを推奨するコンサルタントの方もいますが、まずは業界や企業を問わずに適用
できる標準的なKPIを使用することに大きな意味があります。例えばサプライチェーン総コスト、運転資本利益率、
キャッシュサイクルタイム等です。レノボの事例を思い出してみてください。設定された5つの指標はいずれも、
レノボ特有のものではありませんでした。
SCORモデルはパフォーマンス評価に使用できる標準的な指標を用意してくれていますのでそちらを参考にしてみて
下さい。
(出典:Supply Chain Operation Reference Model,Revision 11.0,Supply Chain Council, October1012.)
2.KPIをビジネス戦略と連携させる
サプライチェーンのKPIは自社のビジネス戦略と一貫性がなければなりません。サプライチェーンそのものが自社の
目的ではなく、自社のビジネス戦略を支えるものとしてサプライチェーンが存在することを考えればその必要性が
理解いただけると思います。
レノボでもIBMのパソコン事業部を買収した当初は複数のKPIをばらばらに測定していました。こういった測定方法は
非生産的です。まず自社の戦略目標を起点とし、そこから逆算して戦略を支えるKPIを決めていくアプローチが理想です。
オーダー遂行のスピードで勝負している企業が物流コストを重要なKPIに設定して、その物流コストを目標値にする
ために、船便で輸送するようにしたらどうなるでしょうか?すこし極端な例だと思われるかもしれませんが、実際に
これに似たような運用が行われているのです。
3.バランスの取れた包括的なKPIを設定する
KPIを選択する上で、バランスを考慮することは重要です。すべての領域で優れた数値を上げるということではなく、
バランスのとれたKPIを揃えることが重要だということです。
KPIには顧客基準、社内基準、財務基準、財務以外など様々な基準があるので、その点を踏まえて考慮します。
またKPIをバランスよく選択するための条件として、因果関係を理解することがあります。
例えば、部品の在庫日数が目標値をはるかに上回っている場合は、社内、サプライヤー、顧客のどこで部品在庫が
過剰になる要因があるのかを把握できれば、その背後にあるプロセスを調べ改善することが容易になります。
その結果に基づいて必要なKPIを選択することが可能になります。
4.適切な目標値の設定方法
自社に最適なKPIを選択したら、次は各KPIの目標値を設定します。では何を目指して目標値を設定すればよい
のでしょうか?これには正直なところ、ある程度経験と勘に頼る必要があると考えます。しかし、それだけだと
「これまでと変わらないじゃないか!」と怒られそうなので、少しだけヒントをお教えします。
ポイントは3つです。「1.社内のベンチマークを実施する」「2.社外のベンチマークを実施する」「3.達成可
能な目標値を設定する」
社内のベンチマークは社外よりも実施しやすいと思います。自社と他社のパフォーマンスを比較することは、大変に
有効なので社外のベンチマークも実施することを強く推奨します。同じ業界でも良いし、異なる業界でも構いません。
また高い目標を掲げ果敢にチャレンジすることを社内文化としている企業では、現場からすると到底達成不可能な目標
が設定される場合があります。しかし、すべてのKPIに対して高い目標を設定するのは禁物です。どうしても高い目標を
設定したいのであれば、特定のKPIに絞るほうが効果的です。
5.パフォーマンスの測定は自社だけのためではない
サプライチェーンのパフォーマンス測定は、自社のためだけにつくるものではなく、全ての人のために価値を生み出す
道具であるべきだと私は考えます。適切な方法で正確な測定が行えるようになれば、関わる人すべてが利益を得られる
ようになると私は確信しています。関わる人すべてに向けてKPIを可視化し、定期的に監視することを実践しましょう。
<参考文献>
・ショシャナ・コーエン著「戦略的サプライチェーンマネジメント」英治出版
・マーチン・クリストファー著「ロジスティクス・マネジメント戦略」ピアソン・エデュケーション