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<目次>
1.西友が独自調達モデルを導入”
スーパーマーケットチェーン大手の西友は9月3日、”より良いものをより安く”を実現するため、西友独自の
「統合型調達モデル」を導入する方針を表明しました。
原料調達から製造・物流までサプライチェーン全体が統合された新たな調達スキームを構築し、PBを強化するとともに、
消費者の支持を獲得できる品質、安定供給、低コストの諸条件を兼ね備えた商品を開発するのが狙いです。
この独自の「統合型調達モデル」による初めての開発商品となる「ツナフレーク」を9月28日に発売する予定です。
新型コロナウイルス感染症の影響による生活スタイルの変化や節約志向の高まりに伴い、サプライチェーンには「より良
いものをより安く」かつ「安心・安全」が求められるようになってきています。
西友はサプライチェーン戦略の重要性を認識し、計画、調達、生産、納入という主要プロセスを網羅するサプライチェーン
組織を設計したのです。そのために必要な方針や手順、情報システム等の整備も進めています。
今回の西友のような取り組みは、必ずしも既存オペレーションの全面的な見直しや、部門の新設が必要になるとは限りません。
重要なのはむしろ、各プロセスの実行と継続的な改善を担当する要員を、確実にサプライチェーン組織に組み込むことです。
今回はこれらのことを念頭においた上で、サプライチェーン組織設計のためのガイドラインを提示し、組織設計に不可欠な
活動や特徴について考察したいと思います。
2.第三原則:サプライチェーン組織の構築
企業が効果性の高いサプライチェーン組織を構築するには、優れた設計が必要であり、次に挙げる3つを行わなけ
ればなりません。
1.役割と責任を定義する
組織で仕事をする際に、全ての作業や仕事について役割と責任を定義することは不可能です。しかし、重要な役割に
ついてはすべて明確に定義する必要があります。
例えば、ツナフレークの生産に必要な原材料を調達する際、西友の品質規格を満たしていることを確認するプロセスを
考えてみるとしましょう。
受入検査について質問すると、恐らく西友は次のように説明するでしょう。「まず、原材料を入荷エリアで受け取り、
その原材料の品質を自社のサンプリングに基づいて検証します。」
極めて簡略化して書きましたが、恐らく多くの企業のプロセスやオペレーションの手順もおおよそこのように表現
されていると思います。
しかし、これだけでは作業の実行に誰が責任を持つのかという重要な情報が抜け落ちています。サプライチェーン戦略
を支えるための活動には必ず、責任を負う個人または部門や部署が明確にされていなければなりません。
経営者は、こうした主要プロセスの各ステップを誰が責任を持って実行をするのか細かく確認し、定義する必要がある
のです。例えば、ツナフレークに取引先の卸売業者から大量の注文が入った際に、配送予定日が遅れてしまった場合、
新しい配送日を顧客に連絡する作業に誰が責任を負うのか決まっていなかったらどうなるでしょうか?
どの活動にも、必ず説明責任を負うグループまたは個人が存在しなければならないのです。
2.適切な組織構造を選択する
組織は、目的達成のための機能を持った人材の集合体です。各主要プロセスを構成するすべてのプロセスや活動が目的
達成のために行われなければなりません。しかし、サプライチェーン組織はこうあるべきだという唯一の正解があるわ
けではなさそうです。自社にとっての正解はどういった組織構造でしょうか?
この正解を得るには、サプライチェーン組織構造の3つの型を押さえておくとよいでしょう。
中央集権型は、コアプロセスを企業レベルで管理し、それを複数の部門や地域に展開します。企業が中央集権型を選ぶ
理由としては、スケールメリットが得られること、冗長性が排除できること、方針や手順を組織で共通化できることが
挙げられます。
分散型は、各部門、地域毎に計画、調達、生産、納入などの各プロセスの責任を負います。契約交渉やサプライヤーの
選定、在庫管理などは自由に行うことが出来ます。サプライチェーン組織構造で分散型を選択する企業の特徴として、
多種類の製品を販売する大規模な組織であることが挙げられます。
地域ごとの商習慣に対応出来る点、サプライチェーンを製品や部門毎に最適化できる点などがメリットです。
ハイブリッド型は、サプライチェーンプロセスの一部を中央集権化し、それ以外のプロセスを分散化します。ハイブリッド
型の例として、調達プロセスの責任を中央集権化して、計画、製造、納入は各部門に任せるという方法です。その他の組み
合わせも当然可能です。一部のビジネス要素については、全社的な標準を導入し、その標準を満たす方法は各ビジネス部門
が柔軟に決定できる点がハイブリッド型の特徴です。
サプライチェーンの組織構造を選択するには、自社のビジネス戦略を適切にサポートできる型を選択すべきです。またその
組織構造は企業文化を反映したものであるべきでしょう。チャレンジを推進し、起業家精神の育成を目指している企業が、
中央集権型を選択するのは有効だとは言えません。ここでも一貫性のある選択が全社的なパフォーマンスに大きく影響する
のです。
3.適切なスキルと才能を持つ人材を配置する
組織の主な役割と構造が定義されたら、それぞれの役割に適切なスキル、才能、意欲を備えた人材を配置します。サプライ
チェーンの責任者には、実に幅広い能力が求められます。生産管理、在庫管理、物流最適化など各分野におけるハンドリング、
分析能力、そしてさらにはコミュニケーションおよびリレーション管理の高いスキルが必要になります。果たして、そのよう
な人材を見つけることは出来るのでしょうか?外部からそのような人材を引っ張ってくるしかないのでしょうか。
経営者の約60%が、自社の成功にはサプライチェーン責任者の獲得と育成が不可欠だと答えています。経営者自らも学び、
社内の育成プログラムを強化し、優秀なサプライチェーン責任者には多額の報酬を用意する必要があるでしょう。
私の意見としては、外部の人材を採用するより、自社の人材のサプライチェーンスキルを伸ばす方が良いと考えます。
なぜなら、最初は上手く行かなくても、自社独自の育成コースを設けたり、経営者自身が一緒に学び成長することで、
中長期的な視点で自社のコアスキルとして保有することを目指せるからです。
次回は4つ目の原則、「コラボレーションモデルの構築」について考察します。お楽しみに!
<参考文献>
・ショシャナ・コーエン著「戦略的サプライチェーンマネジメント」英治出版
・マーチン・クリストファー著「ロジスティクス・マネジメント戦略」ピアソン・エデュケーション
・「物流ニッポン 9月11日号」物流ニッポン新聞社