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<目次>
1.はじめに
近年、ECの普及によりネットで服を買うことが当たり前になりました。「服はサイズや柄があるので試着がないと売れない」という常識も今ではすっかり過去の話ですね。D2Cなど実店舗を持たずに販売チャネルは自社のECサイトのみというEC専業ブランドも存在感を高めています。
今回は、アパレルの流通・小売業が倉庫管理システム(WMS)を導入する際のポイントについて解説をしたいと思います。
2.アパレル物流の特徴
アパレル業界の物流には以下のような特徴があります。
1.アイテムの品種がとても多い
アパレルは同じアイテムでも色やサイズ、柄などの違いでアイテムの品種がとても多くなります。同じタイプのTシャツであっても、 サイズや色の違いで在庫の管理を分ける必要があります。業界ではSKU管理と呼ばれていますが、例えばホワイト・ブラック・レッドの3色、S・M・Lの3サイズあるとすれば、1つのアイテムで「9SKU」の管理が必要になります。
このようにアイテムを細かく分類して販売実績や在庫をつかむことでどの色、どのサイズがよく売れているのかを把握することが出来ます。そうすることで過剰在庫や欠品による販売機会損失を防ぐことが出来るのです。
しかし、下図のように管理項目の組み合わせは複雑で膨大な量になるのでSKU単位で正確にアイテムを管理するのは容易ではありません。
これをWMS側で管理コードを付与する場合は以下のようになります。
単品でMサイズのブルーのカットソーをWMSで管理する場合は、このコード表から「3094857-2-23」という識別コードを生成します。
但し、この識別コードの采番方法は業界統一のルールが定められているわけではないので、各社によって任意につけられています。
量販店などで販売される商品の場合は、単品単にJANコードをつけて管理するケースもあります。
2.アイテムのライフサイクルが短い
トレンドやシーズン性の高いアパレルは、4シーズンごとにアイテムの入れ替えが行われるため、ライフサイクルは1~4ヵ月程度です。トレンドやシーズンが過ぎると商品の価値は限りなくゼロに近くなるため、廃棄ロスのリスクが非常に高いです。
3.需要の変動が激しい
トレンドや気候などの外部環境の影響を受けやすいので、需要予測や販売計画が立てにくいという特徴があり、欠品による販売機会損失や過剰在庫による廃棄ロスのリスクが非常に高いです。
3.SPA(製造小売業)の仕組み
このような小売りの在庫リスクを軽減する方法として、SPA(製造小売業)という業態が生まれました。製造と販売を一貫して手掛けることにより、生産リードタイムを大幅に短縮し、店舗での正確な販売実績にもとづいた生産量調整や、生産量を維持するために店舗側で売り切ることなどで不良在庫や機会損失を削減します。国内ではユニクロ、海外ではZARAやH&MなどがSPA成功モデルとして有名です。
(出典:『アパレル物流の特徴』第六回 ~SPA化が進むアパレル業界~)
SPAを支えるWMSには、生産管理システムと販売管理システム(POS)と連携しSPAのSCM間の情報をリアルタイムに共有する機能を設計、実装しなければなりません。
アパレル業界ではSPAを一つの成功モデルとして、企業間を超えた業務改革が進んでいる業界と言えます。そうした意味においてはその他の業界より先進的であり、曖昧な過去の商習慣を排除した新しいビジネスモデルもどんどん生まれています。
4.アパレル流通・小売業としての在庫管理
アパレル流通・小売業にとって資産としての在庫はどのような意味を持つのでしょうか。単純に考えると、在庫が多ければ多いほど機会損失は減るし、仕入原価も減るし、資産も増えるので、よいことばかりのように思えます。しかし、実際はそうではなく、在庫が多すぎるということは、会計の観点から見ると、よくない状況に陥ります。
一番の理由は先に説明した通りこの業界のアイテムは時間の経過とともに在庫の価値がどんどん目減りしていくことです。会計では「在庫金額」という勘定科目がありますが、この「在庫金額」は時間が経過するとどんどん減っていきます。
当然減った価値は金額で計算され損失として計上されます。そこでアパレルの流通・小売企業としては、機械損失と売上原価の低減のメリットも出しつつ、無駄な在庫は持たないという「在庫の最適化」が非常に重要になってきます。
したがって、WMS導入の目的にも、この在庫最適化を実現することが含まれていなければなりません。「高価なWMSだから在庫を適正に管理する機能は当然ついているだろう」と思っていると大きな落とし穴にはまってしまいます。一口に「在庫最適化」といっても企業によってその目標、改善過程は異なりますので要件定義する際にはしっかりとこのテーマについて検討するようにして下さい。
5.在庫回転率の分析機能に重点を置く
一般的なWMSや在庫管理システムには在庫回転率分析機能は標準で搭載されていますが、この機能を上手く活用出来ている企業は非常に少ないです。そもそも分析結果をどのように現場に反映したらよいか分からないというご相談を良く頂きます。
ここでもう一度在庫回転率の計算式についておさらいしてみましょう。
「在庫回転率」=「売上原価」÷「平均在庫金額」
アパレルのアイテムは非常に多くの種類のSKUの回転率を分析しなければならないので、分析対象を企業業績への影響が大きい商品に絞ることが重要になってきます。その方法としては「商品軸」と「時間軸」の2つの軸で複合的に在庫回転率を分析する方法をお勧めしています。
まず「商品軸」ですが、「アイテムカテゴリ」と「ABCランク」で絞ります。そして「時間軸」では、年、四半期、月単位でデータを比較、分析します。
それでは、もう少し具体的な手順について解説していきましょう。
まずアイテム、またはアイテムカテゴリごとにABCランク付けします。そしてそれぞれ在庫回転率の基準値を設定します。続いてABCランクの上の方から、在庫回転率の基準値を下回っているSKUを探していきます。
そしてここからが重要なポイントです。そのSKUの売上原価、売上高、在庫金額をデータで取得して、何故在庫回転率が基準値より低いかを調査します。
一般的に在庫回転率が悪くなる理由は、売上が見込みより下回ったためです。仕入れの量を減らすのか、基準在庫を減らすのか、販売促進するのか等ひとつづつ対応をとることになります。
アイテムの仕入データや原価については、販売管理システムと連携してデータを取得する仕組みが必要になります。
6.RFIDの検討
アパレル業界ではユニクロやSHIPS(シップス)などRFID(電子タグ)の導入が進んでいます。アパレル業界ではRFIDはコスト障壁による長年の停滞時期をようやく抜け出し、ブレイクの時を迎えています。
SKUがばらばらに混ざったまま入ってくることが多いアパレルでは、入荷検品が非常に煩雑で負荷の高い作業となっています。
しかし、RFIDを利用すれば一括で検品できると同時に、SKU別仕分けも同時に行うことが可能になります。
商品を倉庫のコンベヤに投入する際、通常の自動仕分け機のようにラベルのバーコードを探してスキャンする必要がなくなります。
アイテムを次々に投入するだけでラベルが商品の内側に隠れていようと、自動で読み取り、検品をしながらSKU別にシュートへ仕分けするといったことが可能になります。
また店舗での棚卸やレジの無人化にも利用できるので、倉庫と店舗の両方で効率化が図れる点は他の業界よりもコストメリットを出しやすいと言えるでしょう。
7.おわりに
アパレルの物流は、季節やトレンドで出荷波動が大きく、保管環境にも細心の注意が必要になります。またタグ付けやネームの付け替え、不良品の補修など流通加工も倉庫で行うことが多いのでそうした作業指示もWMSに必要になる場合があります。
WMSを導入する際には、販売管理システムとの連携性を高め、在庫回転率等の在庫分析をリアルタイムに行い、流通加工等の機能を加えることできるカスタマイズ性に重点をおいて、導入することを心がけましょう。