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<目次>
1.グローバル化が求められる物流業界
しかし、一言でグローバル化といってもその形態は時代とともに変化しています。国内市場の縮小と飽和から、新たなマーケット
を求めた80年代は、企画、設計、生産を国内で行い、製品を海外に輸出するモデルが主流でした。
90年代にはいると、コスト削減を目的として、人件費の安い海外で生産を行うようになりました。そして、近年では新興国の
現地ニーズにスピーディに対応するため、企画、設計、生産、販売の全てを現地にて行う形態に変貌しています。
物流においても国内で完結していたものが、国境を越えた国際物流の機能を荷主から求められることになります。今回は
世界に少し目を向けて、海外の最新の物流事情を「マーケット」「技術」「人材」の3つの視点から探ってみたいと思います。
2.アジア新興諸国の貨物輸送量が急増
下のグラフは「GLOBAL NOTE」のデータで作成された、世界各国のGDP成長率のグラフです。
一般的に、物流業界のマーケット規模は「貨物輸送量」で測れますが、貨物輸送量はその国の経済成長に大きく反映されます。
(出典:国際統計データ専門サイト「GLOBAL NOTE」より筆者作成)
また下の表は、今年2月の国際航空貨物の輸送実績データです。韓国やその他アジア、オセアニア地域の貨物が対前年同月比
で大きく増えていることが分かります。
(出典:「航空輸送統計速報(令和2年2月分)」国土交通省)
先進諸国の実質GDP成長率が1980年代以降低下傾向にある一方で、アジア新興諸国の実質GDP成長率は1980年代に0.3%、
1190年代に7.2%、2000年代に10.5%と大幅に上昇しています。会場コンテナの輸送量を比較してみても、アジアを発着
する貨物の増加率が、他の地域を発着する貨物の増加率よりはるかに高く、経済成長の傾向が物流に顕著に表れている
と言えます。
3.中国の物流事情
中国は、社会主義市場経済へ移行後、急速な経済発展を遂げ、1990年代以降、物流の需要も急増しました。しかし、
鉄道や道路等の物流インフラが追いつかず、中国政府は巨額投資により物流インフラを急ピッチで整えたのです。
リーマンショックが起きた2008年には10大重点産業を指定し、物流産業もその1つに選ばれました。中国が物流産業
を国を支える産業として明確に位置付けたのがこの時です。
2013年には習近平国家主席が、アジアとヨーロッパを陸路と海上航路でつなぐ「一帯一路」構想を打ち出し、貿易を
活発化させ、更なる経済成長につなげようしています。
とはいっても、実際に中国の物流業者から見た国内の物流事情は、インフラが整っていない地域、需給のアンバランス、
組織管理手法の未整備などまだまだ課題が山積みなのです。またGDPに占める物流コストは日本や米国に比べても非常に
高いことなどから、物流は非効率だと言えます。
輸送モード別に見ると、鉄道の輸送力は需要に追いついておらず、スピードアップや新線建設を急ピッチで進めています。
道路輸送の方は、10年前と比べると10倍以上に増えており、高速道路を中心に急速にインフラ整備が進んでいます。高速
道路の長さは米国に次いで世界第二位まで伸びています。
海上輸送では、2010年に上海港が世界一のコンテナ港になり、上海港に近い寧波舟山港でも急速に湾岸整備がすすめられ、
世界第3位の貨物量を取り扱っています。
アリババグループを代表するようにECが盛んな中国では、EC化率が日本の2.5倍であり、EC物流が増えていますが、
納期遵守率は日本が98.6%であるのに対して、84.5%と物流品質ではまだまだ改善が必要です。
人材面では日本同様、需給のアンバランスにより慢性的な過酷労働をトラックドライバーが強いられており、低賃金で
若いドライバーが育たず今後も更に不足することが予測されます。
各地では、「低すぎる運送費!公平な市場を」をスローガンにトラックドライバーによるストも発生し、待遇改善を
訴えているような状態で、日本よりも状況は悪いです。
中国ではいま、インフラの更なる整備、ドライバー待遇の改善と物流効率化の為のIoT技術のトラック網適用を進めています。
4.米国の物流事情
米国の物流の特徴は、1970年代後半からの規制緩和により自由競争を通して物流の効率化が進み、革新的な物流サービス
がいくつも登場していることです。
海上輸送では、1984年の海運法の策定により、コンテナ船社間の競争が激化し、国境を越えた買収や合併が急増しました。
アメリカでも中国同様、コンテナ港湾の集中化が進んでいます。
航空輸送では、フェデックス社が世界中にネットワークを広げ国際急送サービスを展開しています。またアメリカ政府は、
オープンスカイ政策によって、諸外国と自由化を目的とする2国間航空協定を締結することにより国際航空輸送の規制緩和
を世界に広めました。
陸上輸送については、広大な国土の隅々まで効率的に運ぶために、原則無料の高速道路が99,000kmも整備されています。
日本のチャーター(貸し切り)輸送に相当するTL輸送(TrailerLoad)が主流です。荷主の施設にトレーラーを置いて
おいて、トレーラーを随時交換していくので、日本のようなトラックドライバーの待ち時間問題が発生しません。
また日本のようにドライバーが無料でサービス荷役をするようなこともありません。その辺りは荷主と物流企業側でしっかり
と契約がされており、原則で厳格に守られています。
人材については、米国も深刻な不足に陥っています。ウォール街では、「近年の好景気の足を引っ張る最大の脅威の一つ」
としてこの問題を取り上げているほどです。
ドライバーの離職率は103%と非常に高く、小口配送分野よりも貸し切り配送分野の方で人が枯渇しており、毎年40万人の新規
採用を行わないと空席になったトラックを稼働させることは出来ないという危機的状況が続いています。
5.ヨーロッパの物流事情
ヨーロッパでは、EUによって市場統合が進められたため、国境での複雑な通関手続きが不要となり、物流コストが大幅に
低減されました。物流も国別の市場から欧州市場へと拡大されましたが、最近のイギリスのEU離脱により物流も大きな影響
が出ています。
欧州全域で広域型の物流センターへ集約化が進んでおり、連合国間全体での効率化を図る傾向が強まっています。
EUは共同体の視点から共通交通政策をとっており、物流事業の規制もEU指令に基づいて新規参入や運賃の自由化が進んでいます。
インフラの整備については、従来は国別に整備されていましたが、現在ではEU全体で各国の予算制約を加味しながら進める
ため、思うように進まないルートも数多く存在しています。
ヨーロッパの物流で特徴的なのは、37,000km以上の内陸水路が各都市と工業地域をつないでいる点です。EUで内陸水路で輸送され
ている主な商品は金属鉱石、コークス、農業製品などです。
技術面においては、2016年にドイツの物流最大手のDHLが物流プロセスを見える化することで効率的にする「saloodo(サルード)」
を立ち上げ、ヨーロッパの1万8千社以上の荷主企業と7千社を超える物流企業がこのプラットフォームで連携しています。
ドライバー不足については、こちらも他国に漏れず大きな課題となっています。トラックドライバーは輸送貨物の需要に対して、
79%しか満たしていないということなので、実に30%近い貨物がドライバー不足によって運べていないということになり、日本よ
りも深刻です。
ドイツでは、運転手不足の解決策として、ドイツトラック輸送協会が、難民申請者を運転手に養成するプロジェクト
「The drive into your new future」を立ち上げました。
ドライバー不足は世界の先進国共通の課題のようですね。
6.まとめ
国土交通省が作成した「総合物流施策大綱」では、国際物流拠点の形成、国際競争力のある物流システムの構築、グローバルSCM
を支える効率的な物流実現などが取り上げられてきました。
日本の物流が国際競争力を強化する際の主な課題は、インフラの再整備と人材の育成、そして物流システムの国際展開の3点です。
輸出の7割、輸入の6割を占めるアジア諸国を中心とした物流の国際競争力の強化が求められています。