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3.具体的なロジスティクスの未来が描かれているのかと思いきや??
1.10年後のロジスティクスのユートピアとは!?
日々刻々と世界が変化しているのが感じられます。テクロノジーや環境、社会状況の変化など無数の要素
が物流に影響を与えています。
未来への準備を整え、正しい決断をするためには、想像力の翼を広げ、将来に目を向けることが大切です。
日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が、2030年に向けてロジスティクスが目指すビジョンを示す
「ロジスティクスコンセプト2030~デジタルコネクトで目指す次の産業と社会~」を発表しました。
そこにはオープンなプラットフォームを基盤として、全体最適化されたロジスティクスの姿を”ユートピア”
に例えて、その実現に向けた7つの提言が打ち出されています。
最初に何故、未来設定が2030年なのかを説明しておきます。それは、2015年に国連サミットで採択された世界
共通の目標である、SDGs(持続可能な開発目標)に大きく関係します。皆さんはSDGsをご存知でしょうか?
一言でいうと、「世界が一丸となって、2030年までに良い地球を作ろうね」という目標です。
以下はSDGsが目指す17の目標を示したイラストです。
日本でもピコ太郎やタレントを利用して積極的に浸透させようと努力していますが、いまいち浸透しているのか
どうか、よく分かりません。書店に行くとSDGs関連の専用コーナーが設置されていたりもしますが・・・。
そもそも目標が17個もありますので、英単語を10個を覚えるのが限界な筆者の記憶力では処理しきれません。
とはいえこのSDGs、実は日本が世界と渡り合う為にとても大事になってきます。世界は、持続可能な社会に向けた
転換点を迎えています。企業がこの先の10年の長期的な戦略を構築する上で、「世界はどこを目指しているのか」
を知りつつ、「日本がどのような立ち位置にいるのか」を俯瞰するにはSDGsが重要な意味を持つようになるから
です。
2.どうやって10年後の未来を予測するのか?
2030年のロジスティクスはどう変わっているのでしょうか。来年どうなっているか予測するのも難しいですよね。
どうやって2030年を予測するのでしょうか。
実は、テクノロジーと人口の変化はかなり高い確率で予測できることが明らかになっています。
全く予測がつかない不確実性の高い要素は除いて、大筋でこうなるのは間違いないだろうというところだけ
を並べるだけでも、かなり未来を予測することができます。その大きな指標となるのが”テクノロジー”と”人口”です。
まず、テクノロジーでいうと、5つのテクノロジーが挙げられます。もうこのメルマガでも何度も紹介していますが、
AI(人口知能)、5G、自動運転、量子コンピューティング、プロックチェーンです。
AIと5Gの先には自動運転があり、それが人の輸送、モノの輸送を変えてしまうことは間違いありません。
5Gによる高速通信でタイムラグの無い自動運転指示をAIで正確に制御することが可能になります。
量子コンピューティングは、グーグルの量子プロセッサー「Sycamore(シカモア)」を搭載したマシンが、スーパーコンピュター
でも1万年かかる計算を数分で処理したことが話題になりました。量子コンピューティングが得意とするのは、複雑な最適化
問題です。たとえば、最小限のエネルギー消費、最短の時間で荷物を配送する方法などを瞬間的に計算できるようになります。
最適化問題は、世界中のあらゆる企業、あらゆる場所で起きているので、そうした問題に対処すれば、コストを削減でき、環境
の保護にもつながります。
ブロックチェーンは仮想通貨だと勘違いしている人も少なくないようですが、仮想通貨ではありません。
仮想通貨に応用されている技術がブロックチェーンです。こちらも一言でいうと「全員でチェックし合うことで、
勝手に書き換えることが出来ないデータを作る技術」です。
この5つのテクノロジーがロジスティクスを変えて行くことは間違いないでしょう。
人口についていうと、今後世界的にはアメリカ、中国、インドの超大国3強の時代に突入します。単純に人口が多い
だけでは意味はなく、人口分布が非常に重要になってきますが、そうした点においてインドは今後GDPにおいても世界
のトップ3に入ることは間違いないでしょう。
国内に目を向けると人口は減るばかりで、重要な指標となる人口分布も高齢化社会で、国の労働力となる生産人口は
更に縮小していくことになります。
このように高い精度で予測可能なテクロノジーと人口の2つを軸に未来を予測することで、世界がこれからどうなって
いくのかを大筋で読めるようになるのです。
3.具体的なロジスティクスの未来が描かれているのかと思いきや??
以上のようなことを踏まえて、2030年の未来を期待しつつ「ロジスティクスコンセプト2030」を読んで見ると・・・
そこまで具体的な内容については書かれていませんでした。5つのテクノロジーの応用がどのようにロジスティクスを
変えていくのか、人口減少による労働力不足を5つのテクノロジーがどのように補って、働き方はどのように変わって
いくのか。
この資料で例えられているロジスティクスのユートピアの実現性や具体性があまり書かれていなかったのは少々
残念ではありました。
それはさておいて、本コンセプトの内容を要点をかいつまんで簡単に解説していきたいと思います。
1.ロジスティクスの再定義
一つ目の提言はロジスティクスそのものの定義を変えてしまおうという大胆なものです。ロジスティクスという概念が
日本になかなか普及していないので、「いっそのこと再定義してしまおう」ということでしょうか。
しかし、ロジスティクスというのはマネジメント手法の一つであるため、定義を変えて普及させるものではないし、
提言の解説に「ボトムアップ思考からトップダウン思考へ」という記述もあり、少し理解に苦しむところがありました。
ひとまず、「ロジスティクスの普及が進まないので、トップダウンでもっと進めていこう」という提言として
理解し、先を読み進めることにしました。
2.サプライチェーンの再構築
2030年には、ロジティクスによりサプライチェーンの在り方を大きく変容させることが出来ると記述されています。
こちらは、1つ目のロジティクスの再定義により、サプライチェーンの在り方を変容させるとも読み取れますが、
その辺りの具体的な解説がなかったので、今後別の形で発表されるのかもしれません。
(出典:JILS作成「ロジスティクスコンセプト2030」より抜粋)
3.標準・投資・高度人材
ロジスティクス総合調査からユートピア実現のためには「標準」「投資」「高度人材」の三つの要素が必要だと
述べられています。標準化領域を拡張するために、適切な投資を行い、それを実行できる高度な人材の育成が必要だという
ことですね。
4.ユートピアのロジスティクスモデルとビジネスモデル
「ユートピアのロジスティクスモデルは、標準化されたコンテナを輸送区間と結節点にダイナミックに流し込むモデルへと変貌
していく」と述べられています。ITを駆使したデジタルプラットフォームと実輸送のリアルとの融合が進むという理解をしました。
5.データ共有型プラットフォームの社会実装
ここではSDGsを取り上げ、ロジスティクス分野においても中長期的に企業の継続性(サスティナビリティ)を高め、企業価値
を向上させることが大切だと述べられています。
データ共有型プラットフォームの実装とSDGsの関連性については、触れられていなかったのでこちらも今後の資料等で捕捉
されるのかもしれませんね。
6.ユートピアを実現させる高度人材
ロジスティクスの高度人材の育成が急務であることが述べられています。日本ではロジスティクスやSCM分野の講義が極めて
少なく、高度な数理を身に付けた人材が圧倒的に不足していることに警鐘を鳴らしています。
4.まとめ
今回発表されたコンセプトは表面的な内容で終始されていたので、恐らく今後このコンセプトに沿った形で何かしらの研究や
課題に対しての資料が捕捉されるものと予想します。
データや荷姿の標準化、データで企業間がコミュニケーションする物流デジタル化の重要性を改めて示しつつ、世界の動き
としてSDGsを取り上げ、それに合わせた事業経営の必要性を啓蒙する内容であったと思います。
ということで、タイトルに掲げた『これから10年の未来の物流を探る』には至らなかった事を深くお詫びしつつ、
今後発表されるであろう本コンセプトの詳細版を期待したいと思います。