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<目次>
●1.物流完全自動化に向けた過渡期が続く
物流会社や荷主は、昨今の物流課題、またはそれを解決する技術の進化や実用化の状況を見ながら、自社の今後の物流の在り方を模索されていることと思います。
物流関係の記事や専門書を読んでいると「ロジスティクス4.0」「物流クライシス」「物流イノベーション」「次世代ロジスティクス」等のキーワードが散見されます。
「これからは物流で差別化していく時代だ」とは言うけれど、「具体的にはどういったところで差別化するの?」と疑問に感じている経営者やマネジメント層の方も多いのではないでしょうか。
AIやロボット、自動運転などの最先端テクノロジーを活用した物流の圧倒的効率化による差別化も一つの戦略です。
あるレポートによれば、RaaS等の普及によって今後15年以内に欧州にある物流センターのオペレーションの4割はロボットに代替されると予測しています。
これは確かにすごいことですが、しかし見方を変えると15年後も人によるオペレーションは6割も残っているということになります。
RaaS・・・Robotics as a Serviceの略。クラウド上で必要な時にロボティクスをネットワーク上から使用するサービス。
物流センター完全自動化が叫ばれて久しいですが、結局のところ完全自動化に至るまでには今後長きにわたる過渡期が存在するため、現段階で中堅企業でも実用可能なテクノロジーを活用した差別化の模索が多くの企業で続くことになります。
今回は中堅企業でも比較的容易に実現が可能な物流差別化の具体的な方法について考察します。
●2.企業経営とロジスティクス
企業経営の目標は、売上の増加・費用の削減・資産の活用・事業の成長性の4つです。
そしてこの4つは全てロジスティクスと密接に関りがあります。
この4つの企業経営の目標に対するロジスティクスによる具体的な差別化の方法を以下の表に整理しました。
●3.売上の増加に関する差別化の方法
ロジスティクスによる売上の増加については、「サービスによる差別化」の戦略になります。
欠品率を低下させることで、販売機会損失を削減し売上向上に貢献出来ます。
ロットや製造日による先入れ先出しによる付加価値の提供も顧客サービスの一環です。
特に近年のSCMでは、こうした高付加価値によるサービスが極めて重要度を増しています。
納入リードタイムの短縮も重要な顧客サービスです。
最近では在庫拠点(DC)を納入先の近くに置くことでリードタイムを短縮する動きが活発です。
また、まだ倉庫に入荷されていない入荷予定の在庫を注文に引き当てることで、リードタイムを短縮する方法も増えてきました。
これにより、DCでありながらTCのようなオペレーションを求められるケースも増えてきているのです。
WMS等に蓄積された物流データを顧客に提供するサービスも増えてきています。
自社の在庫データを顧客に公開したり、ASNデータ(出荷事前情報)の提供により付加価値を提供する方法です。
●4.費用の削減に関する差別化の方法
ロジスティクスを通じて企業目標の一つである「費用の削減」に大きく貢献することができます。
運賃高騰が続く中、複数の配送キャリアと契約する企業が増えています。
顧客のニーズや納入先の分布に合わせて最適な配送キャリアを組み合わせて物流を構築する方法です。
バーコードやRFIDを活用した物流作業の省人化、効率化も費用削減に貢献する一般的な方法です。
最近ではRPAを活用した物流事務の自動化も進んでいます。
またITを導入することで属人化していた作業を標準化し、これまで正社員が行っていた倉庫内のオペレーションをパートやアルバイトにシフトする方法も有効です。
製造業であれば、ITを活用して取引先とのSCMの構築、VMI(ベンダー管理在庫)の構築も進めたいところです。
VMIについては以下の記事で詳しく解説していますのでそちらをご参考下さい。
⇒自社の物流を変えよう!『業界・業種別』物流改善のヒントとノウハウ ~製造業編④~
●5.資産の活用に関する差別化の方法
在庫の回転率を上げることは資産の有効活用に繋がります。
在庫管理システムや倉庫管理システムを活用して、在庫の分析を行い、不良在庫を減らしていくことで倉庫スペースも有効活用できます。
また固定ロケーションで管理していた在庫をフリーロケーションにすることで倉庫スペースをさらに有効的に利用できます。
フリーロケーションで管理する場合、アナログでの出荷作業は不可能になりますので、出荷作業時にロケーションをガイダンスしてくれる倉庫管理システム等の導入は必須です。
●6.事業の成長性に関する差別化の方法
企業が社会に対して安全安心な商品やサービスを提供することは、企業価値を高め、事業の成長性の源となります。
在庫精度を高めて欠品をなくし、出荷品質を上げて誤配をなくすといった高品質なサービスの提供に取り組まなければなりません。
在庫精度を高めるためには、入出荷のデータをリアルタイム記録する必要があります。
バーコード検品等の専用システムを活用することで、モノとデータの同期を図りましょう。
また最近では欠品許容率を予め設定しておけば、過去の出荷実績データを参考に自動的に発注点や安全在庫を計算してくれる高度な在庫管理システムもあります。
こうしたシステムを活用することで、在庫の精度を高め差別化することができます。
出荷品質を向上させる最も一般的な方法はバーコード検品の導入です。
モノにバーコードを貼り付けておき、出荷指示に対してバーコード照合することで出荷ミスを撤廃します。
ある程度の倉庫スペースがあり、商品の入れ替えも少ない現場であれば、DPS(デジタルピッキングシステム)のようなマテハン機器も有効な手段です。
●7.まとめ
今回は物流による差別化の方法を4つの企業目標に準えて解説いたしました。
物流の高付加価値化は顧客サービスの向上に貢献するものであり、自社の物流機能を高めることに繋がります。
物流機能が高まることで持続可能性も同時に高めることができます。
産業構造、顧客ニーズの変化により、ロジスティクスには「多品種・少量・多頻度・定時」が高いレベルで求められています。
ロジスティクスの明るい未来に向けた一歩を踏み出す時です。革新は続きます。