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● SIPスマート物流サービスとは?
私たちの生活と国の経済成長を支えるには、持続的な「強い物流」が必要になります。
物販系分野のEC化率は2017年度時点で5.8%でした。
今後2020年度にはEC化率は10%まで増えると予測されています。宅配個数は40億個から58億個に増える計算になります。
一方で、国内の労働人口も2017年度6720万人から2025年度には6150万人と500万人以上も減ってしまいます。
EC化率10%時代の物流を支えるには、現状のリソースと仕組みでは明らかに困難になります。
本取り組みは国民生活と経済成長を持続的に支えることの出来る社会インフラとしての物流を効率化と高付加価値化を図ることで実現していくというものです。
そのためには、サプライチェーンをまたいだ情報連携を実現しなければなりません。
その際に、どんなデータが必要で、どんなレイヤー構造になるのか、あくまで一例ですが以下の図にまとめました。
日本経団連は報告書「Society5.0時代の物流における情報アプローチ」の中で「事業者間の情報連携と貨物輸送の可視化」をうたっています。
上図のような物流・商流データプラットフォームの構築を通じて、「Society5.0」の概念であるサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、すべての事業者間の情報伝達をデジタル化し、リアルタイムに情報連携することで経済発展と社会的課題の解決の両立を目指しています。
● スマート物流サービスの研究項目
「スマート物流サービス」の中で、内閣府政策統括官が考案した3つの研究開発項目は以下の通りです。
国が目指すスマート物流サービスにおいて、それぞれの項目の詳細について少し解説します。
1.物流・商流データプラットフォーム
世の中には梱包情報や、検品情報といったさまざなな物流データが存在しています。
WMSや在庫管理システム等の導入が進み、倉庫会社や運送会社には既にかなりの量のデータが蓄積されています。
しかし、そうした物流データは利用するユーザーと1対1でしか紐付いていません。
情報は縦に分断され、サプライチェーンをまたいでデータがつながっていないのです。
この情報を上手くチェーンのようにつないで、利活用するための基礎が必要になります。
物流にかかわるさまざまな情報を標準化し、収集、活用可能な形にすることで、サプライチェーン全体を可視化し、新たな価値を創造していく基盤として構築することを目指します。
このプラットフォームのアーキテクチャーには大きく2つのレイヤーが存在します。
①関連プレイヤーからのデータインプット
②蓄積された情報の可視化と分析
構築されたプラットフォームにおいては、備えるべき要素が大きく3つあります。
一つはこうしたプラットフォームの提供者がユーザーやデータを囲い込んで独占しないようにすることです。
二つ目は情報の秘匿性・信頼性・共有性に優れていることです。
三つ目はそこで採用される技術に将来的な発展の余地があり、有効期間が長いことです。
この3つの要素を備えることで、多くの企業が利用してくれるようになり、想定していなかった業種から新たなプレイヤーが参入したりしながら、新たな技術や利用方法が磨かれていくことでしょう。
一方で、こうした活動を推進するには、廉価版のRFIDの開発、IoTやリーダー機器の開発、荷姿単位のトレーサビリティ情報の提供など様々な取り組みが必要になってきます。
2.「モノの動き」の見える化技術の確立
この研究開発項目では、物流・商流データプラットフォームに「モノの動き」を蓄積するための技術開発を行います。
荷物が今、どこにどれだけの量あるのかを見える化することで、物流を計画的に実行し、効率化につなげることが期待されています。
限られた輸配送資源でより多くの荷物を運び、輸配送時間を短縮することが可能になるでしょう。
モノの動きを適切に捉えることで、無駄な生産や無駄な輸送が削減されるのです。
荷物がどこで積まれ、どこのセンターを経由し、どのトラックに積まれて、いつ最終着地に届くのかといったデータをリアルタイムに共有することで、人やトラック等のリソースを計画的に配置することが可能になります。
すでに世の中にある技術やサービスを利用することで、こうした荷物の位置情報を取得することは可能ですが、より簡単に、より正確に蓄積する技術開発が進まなければ、多くの企業のデータが集まることはないでしょう。
既存技術で言えば、GPS機能により位置情報の取得は可能です。
今後の研究課題は位置情報を取得する手段の多様化と、データの共通規格化です。
またハンディターミナルにより、個別貨物の施設通貨情報の取得は既存技術でも可能です。
今後は荷姿のサイズ種別データの取得や、荷姿内の内容物のデータ化が課題です。
3.「商品情報」の見える化技術の確立
この研究開発項目では、物流・流通の対象となるモノそれ自身の情報を蓄積するための技術開発を行います。
商品情報がサプライチェーンで標準化、共有化されることで生産・保管・出荷・輸送・販売といった各レイヤーで商品個別の情報を可視化することが可能になります。
ここでいう商品情報とは、商品名だけではなく、商品のシリアル番号・賞味期限・製造場所といったデータのことです。
既存技術では、商品情報を識別するための技術として、ハンディーターミナル等を利用したバーコード読み取りが一般的です。
しかしこの場合、商品の種類しか識別ができない、バーコードのフォーマットが各社バラバラで統一されていないといった課題が残っています。
こうした課題を解決する技術として国はRFID(電子タグ)に着目しています。
RFIDは商品を個別に識別することが可能であり、一括で複数の電子タグを読み取りすることも可能です。
RFIDに関してはユーザー側の期待も高く導入を検討する企業が増えている一方で、普及における課題が多く残っています。
ユーザー側の意見としては、普及するには電子タグの単価が1円以下になり、ソースタギングされることが絶対条件とされています。
※ソースタギング・・・製造メーカー側で電子タグが貼り付けされていること
バーコードに代わる商品識別技術としてRFIDをいかに普及させるかが、この研究項目の主題となっています。
● まとめ
「SIPスマート物流サービス」が実現すれば、多くの企業が安価で簡単につながる仕組みが提供されることでしょう。
そして物流が標準化され、持続可能な物流の未来に貢献することが期待されます。
実現する上で注意したい点としては、担い手となるドライバーや作業者の負担を増やさないようにすることです。
データを集めることが目的となり、作業者の負担が増えるようなことになれば本末転倒です。
また、現場から拒絶されてしまっては、せっかくの素晴らしい仕組みや技術も宝の持ち腐れです。
作業者の日常業務の中に、いかに自然な形でデータ蓄積の仕組みを作るかが重要なポイントではないでしょうか。