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*** メーカー系企業が物流に求めている機能のTOP3 ***
つい先日、東京でアパレルECに特化した3PL事業を経営する社長の話を伺う機会がありました。
この企業はアパレルメーカーの在庫を自社の倉庫で管理し、ECのフルフィルメント全般を請け負っています。
その社長曰く、荷主であるメーカーが今、物流に求めている機能のTOP3が以下の3点です。
1.クロスボーダー一元管理
2.オムニチャネル対応
3.オートメーション化
今回はメーカー系企業が物流に求めている機能のTOP3についてご紹介しつつ、ITをいかに活用していけばよいかを考察します。
それでは上から順を追って解説します。
*** クロスボーダー一元管理 ***
今後人口減少により国内需要が先細りすることを踏まえて、多くのメーカー企業は世界的な視野でマーケットを考える必要があります。
何故なら、現在ほとんどのマーケットを独占しているのは、グローバルブランドであり、グローバルカンパニーであるからです。
しかし、世界のマーケットは単一的なものではなく、多くの商品分野においてローカルなバリエーションを求められます。
つまり、これは在庫管理を非常に難しく厄介なものにします。
国内需要に対する在庫管理だけでも簡単ではないのに、各国の様々なバリエーションに対応しつつ、その需要に対して過不足なく供給するというのは至難の業です。
各国の需要に対応するために、各国でよく売れている商品をそれぞれの国の倉庫に在庫するというのは余程資本力のある企業でなければ難しいでしょう。
そこで、国内の在庫を海外のオーダーに対して引き当てするという仕組みが注目されています。
それが今回冒頭の社長が教えてくれたクロスボーダー一元管理です。
当然その為のシステムが必要になります。国内の需要も国外の需要も同一の仕組みで分析し、在庫についても国内の在庫と海外の在庫を一つのシステムで集中管理します。
生産においても、マーケティングにおいても、グローバル企業に移行するには、ロジスティクスやサプライチェーンの機能がその成功の鍵を握っていると言っても過言ではありません。
グローバル・ロジスティクス戦略をいかにデザインするかが経営者の腕の見せ所です。
この戦略の組立には数多くの注意深い判断が求められます。
特に注意すべきはマネジメント、生産、供給をどこまで集中化させるかという点です。
どうしたら標準化によって規模の経済を達成しながら、同時にローカルのマーケットが求めるものを提供できるかという点です。
この点についての最適解を今だ筆者も見いだせてはいませんが、経営者はロジスティクス戦略、SCM戦略の構築においてこの「どこまで集中化するのか」について十分に考慮する必要があるでしょう。
グローバリゼーションの到来は、企業の生産拠点を減らし、生産を合理化させたのと同時に、在庫の集中化への風潮を作り出しました。
在庫をより少ない場所に保管することで、在庫コストを削減できるというのが一番の理由です。
企業は次々に倉庫を閉鎖し、より広い地域の在庫をまとめて管理できる地域配送センター(RDC)へと整理統合していきました。
たしかに、在庫の集中管理というロジックはコスト削減の観点から見れば健全なものですが、リードタイムという観点から見ると十分ではありません。
ECの普及により翌日配送、当日配送が重要な差別化要因となる昨今では、物理的に在庫を集中化するのではなく、比較的消費者や生産拠点の近くに在庫を置きながら、在庫のマネジメントは集中化して管理する方法が主流です。(※バーチャルストック方式とも呼ばれます)
多くの企業が在庫を集中化して管理する利点に気付いています。
しかし、この方法を成功させるにはリアルタイムに在庫を見える化できる在庫管理システムが必要になります。
またクロスボーダー一元管理では、国内の倉庫から海外へ輸送を行うため、輸送コストが跳ね上がってしまいます。
ロット単位でまとめて在庫を現地倉庫に送ることで、輸送コストを削減する方法がこれまで取られてきましたが、クロスボーダー一元管理では、オーダー単位で海外に出荷が必要になるためコストに見合いません。
そこで輸送リソースのシェアリングという発想が生まれます。
例えば、3PL事業者であれば、海外の国や地域を限定して、複数の荷主の商品をまとめて輸送することでコストを抑えながら、現地に在庫を持たずに、商品を供給する仕組みを提供することが出来るでしょう。
国内の在庫は国内の消費者の近くに分散して価格やリードタイムで価値を訴求し、海外の消費者については、リードタイムや価格よりも日本の高品質や商品力で勝負することで、在庫管理コストを抑えつつ、グローバルにビジネスを展開できます。
競争力のある高度なロジスティクスは、効率化やコスト削減といった観点だけではなく、サービス向上と価値の提供を主眼において構築されなければなりません。
こうしたロジスティクスデザインを経営者が設計することが重要になります。
*** オムニチャネル対応 ***
オムニチャネルという言葉が日本でよく聞かれるようになったのは今から4~5年前からでしょうか。
大手小売企業が大々的に「オムニチャネル」戦略を打ち出したことで、今では誰もが知るポピュラーな戦略になりました。
最近ではオムニチャネルに関連して、中国のアリババが提唱する新業態「ニューリテール」が注目を浴びています。
中国の小売市場は2017年に小売総額622兆6454億円に達しました。
年平均伸び率は10%を超えています。しかし、実店舗の販売は伸び悩んでいます。
近年の市場規模の拡大はECの爆発的な成長がけん引しています。ECへの参入企業は後を絶たず、今後ますます競争は激化することは確実です。
こうした競争の中で生き残るために、実店舗を保有する企業が、店舗の中に物流センター機能を持たせて、独自の輸送システムによって低コスト・高品質な物流サービスを提供し始めています。それがニューリテールです。
このニューリテールはアリババのジャック・マー会長が2016年に提唱した小売業の新たなコンセプトです。
「オンラインとオフラインのさらなる融合に加え、先端的なロジスティクスシステム、ビックデータ、クラウドコンピューティングといった新技術の協働により生まれた新しい小売モデル」とジャック・マー会長は説明しています。
下の写真をご覧下さい。
店舗の天井に商品をバックヤードに搬送するレーンが設けられています。
オンラインで注文が入ると、店内にいるピッキング係のスタッフが携帯端末のデータを参照しながら陳列棚から商品をピックアップして専用のバックに入れていきます。
注文の商品が揃ったら専用バックをレーンで運んでバックヤードの出荷エリアまで届けるという仕組みです。
筆者も最初にこの光景を見たときはさすがにビックリしました。
こうした新しいモデルも、基本的にはリアル(実店舗)とネットの融合による「オムニチャネル」の発展系と言えるでしょう。
ECの伸び率も世界的に緩やかに鈍化の傾向を見せています。
これまでのオムニチャネルのターゲットは実店舗を保有する企業がECに参入するケースがほとんどでしたが、今後はEC専任事業者が実店舗小売業への資本参加や買収を盛んに行い、小売業のオムニチャネル化はますます加速していくでしょう。
そこでは、新しい顧客体験の向上はもちろんですが、物流体系の再構築、ロジスティクス領域のシステム投資が欠かせません。
単に実店舗とECでビジネスを両立させるだけでは、オムニチャネルの効果が発揮しません。
例えば、在庫管理にポイントを絞って考えてみましょう。
実店舗用の在庫とEC用の在庫は分けて管理する方法が一般的ですが、夜間は実店舗の在庫は全く動きません。
実店舗が閉まっている夜間は、店舗在庫をECに自動的に回してみてはいかがでしょうか?
夜間はECで一番オーダーが入る時間帯です。
朝店舗につくと、店舗に夜間に引き当てられた商品の一覧がリストアップされて、それを配送手配すれば、実店舗の在庫もより有効的に動かすことが可能になります。
オムニチャネルという言葉が聞かれるようになって既に5年以上経過しますが、ロジスティクス領域のIT活用については、まだまだこれからといったところではないでしょうか。
*** オートメーション化 ***
ジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のメディカルカンパニーは、2018年10月下旬に羽田拠点で整形外科領域の製品の物流管理向けにロボット倉庫「AutoStore」を導入しました。
メディカルカンパニーは国内に5つの物流拠点を構えており、今回はヤマトグループの羽田クロノゲート内にある羽田ディストリビューションセンターにこのロボットを導入しました。
■ノルウェー・Jakob Hatteland Computer社製の「AutoStore」
このロボットは倉庫の上面に縦横に並ぶ「グリッド」と呼ばれるアルミ製のレール上ひいて、そこを自走型のロボットが動き回って、指定された商品をしたから吊り上げしてピッキングを行います。
従来からある自動倉庫の上を箱型の自走ロボットが自由に走り回ってピッキングをするというイメージです。
またこのシステムの特徴として、高頻度にピックアップされる商品は自動的に倉庫の上の方へ移動されるため、その分ロボットが
商品を引き上げる時間が短くなり、ピッキングスピードを最適化できる点です。
容積効率は従来の約4倍、ピック効率は約1.5倍に向上します。
倉庫オペレーションの中で最も複雑で、正確さが求められる作業がピッキングです。
この作業をいかに自動化するかが、物流の省人化にかかっています。
こうした設備を、1社単独で導入して管理するのは相当なお金が必要になるため、物流リソースのシェアリングが今後ますます進んでいくでしょう。
1社単独で導入するのか、複数の企業と一緒になって導入するのか、3PL事業者が導入してシェアリングサービスとして提供するのか、いずれにしても物流はこうしたロボットを活用してオートメーション化する必要があります。
日本の物流現場は人手不足に悩まされています。
オートメーション技術によって、人とロボットが共存して働ける環境を整備することで、人材確保もしやすくなるでしょう。
参考文献
「ロボスタ」ロボットスタート株式会社
「ロジスティクス・マネジメント戦略」 マーチン・クリストファー著
「IoT時代のロジスティクス戦略」 秋葉淳一著
月間ロジスティクスビジネス2019年1月号」 ライノス・パブリケーションズ