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*** 在庫管理システム担当者はイノベーター ***
マネジメントの父と呼ばれ、世界で最も有名な経営思想家であるピーター・ドラッガーは、イノベーションについて次のように説明しています。
「既存の資源から得られる富の創出能力を増大させるものは、すべてイノベーションである」
またイノベーションの機会としては、産業構造の変化が起こるときであると語っています。
物流領域は、労働者不足・競争環境の変化・ニーズの多様化等により、今まさに大きな構造変化が起きています。
これによって、これまでの仕事の仕方は確実に陳腐化し始め、誰もそれを変えようとしなければ、企業の成長は鈍化します。
在庫管理システムはかなり古くから存在します。決して目新しいシステムではありません。
しかし、今最も企業で見直しが検討されているシステム領域の一つであることは間違いありません。
アマゾンや楽天のように物流を武器にビジネスを拡大している企業が急成長しており、物流が競争の源泉になっている中で、在庫管理はその中枢を担う重要なシステムだからです。
在庫管理はイノベーションの機会を与えられており、そこから得られる富の創出能力は計り知れません。
つまり、ドラッガーの教えを借りて例えるならば、今現在、もしくはこれから在庫管理システムの担当者になられる方はイノベーターとしての役割を与えられているといっても過言ではないのです。
筆者はそうした担当者を心から応援していますし、1人でも多くのイノベーターが生まれることを期待して本稿を先に進めます。
*** 在庫管理と保管管理は違う ***
在庫管理は単純にモノの出し入れの管理であるにも関わらず大変奥深いです。
その証拠に在庫管理に関する情報に接すると、必ずと言っていいほど「在庫管理は麻薬」「在庫管理に正解はない」「企業の永遠の課題」「影の支配者」など、深遠な表現を目にします。
数字の足し算、引き算だけ求められる在庫の管理がこれほどまでに多くの企業を悩ませるのは何故なのでしょうか?
それは、在庫を管理するということは単純に在庫の数字合わせではないからです。
在庫管理システムの在庫数と現場の在庫数を合せること、その記録に重点が置かれているのは保管管理であり、本当の在庫管理ではありません。
在庫管理の定義は、「市場の需要に合わせて製品(商品)を過不足なく供給する為の管理」と言えます。
つまり、在庫管理では在庫数量のコントロールに重点が置かれており、市場の需要と在庫量との同期をとることを目的とした活動です。
よって、企業戦略とも密接に関係してきます。
在庫管理システムで在庫を効果的にマネジメントする為には、多くの関係者、また複数のシステムと連携が必要になります。
今回は、在庫管理システムの機能と役割について詳しく説明します。
また、多くのクライアント企業から在庫管理システムとその他関連システムとの関係性について聞かれますので、その辺りについても解説を加えます。
*** 縦割り構造が在庫管理のボトルネック ***
在庫管理は、決して物流部門の中だけで閉じて行われているわけではなく、複数の企業、部門間で密接に連携して行われるものです。
しかし、在庫管理はそうした一連の業務の流れの中に上手く融合することができずに孤立してしまい、結果として各部門ではエクセル等を利用して個別に在庫を管理するといったケースが多いようです。
よくあるケースとしては、基幹システムで管理されている在庫数が現場とは合わず利用できないため、生産部門・物流部門・営業部門がそれぞれ個別にエクセルで管理しているというものです。
このようなことから、多くの在庫管理システムの導入が各部門単独での導入・管理に陥り、周りの業務との連携や情報の整合性が取られていないのです。
その結果、同じような機能、同じような入力が企業内に重複して存在し、効果性の低い在庫管理システムが企業の物流競争力の向上を阻んでしまっているのです。
なぜこのような状況に陥るかと言うと、自部門のこと以外はあまり良く知らない、縦割り構造によるものです。
自部門の都合ばかりが優先されて、他部門や関連企業との連携を後回しにした結果と言えます。
ですから大企業よりも中小企業の方がレベルの高い在庫管理システムを導入しているケースが多いです。
多くの部門、企業が関連する大企業では、この縦割り構造による複数の在庫管理システムが上手く連携せずに、不必要なアナログ作業や重複作業が沢山現場にはびこっているのです。
*** 在庫管理システムの機能 ***
在庫管理システムに求められる主な機能とポイントについて以下を参考下さい。
品目マスタについては、複数の品目コードで管理できるように設計しましょう。
在庫管理システムは、複数の関係部門・会社・システムと連携が必要ですので、単一のコードのみだと、あらゆる連携場面で煩雑な作業が発生します。
例えば、現場で管理するのはJANコードで、会計システムでは自社コードで管理するような場合などです。
最低でも3つ以上のコードで管理できるのが理想です。
また、複数の倉庫の在庫を管理する場合と単一の倉庫の在庫を管理する場合とで、在庫管理システムの設計は大きく異なります。
パッケージシステムを検討する際は、複数倉庫管理機能の有無をよく確認しましょう。
自社でシステム設計をする際には複数倉庫の在庫を管理する場合に、在庫の引当方法、倉庫間の在庫移動による補充方法について、設計ミスによるトラブルが多いので注意ください。
*** 在庫管理システムと周辺システムとの関係 ***
在庫管理システムは、それ単独で利用されるケースもありますが、多くの場合周辺システムと連携して利用されます。
最も多く連携されるのは、仕入や販売を管理する販売管理システムです。
また製造業であれば、生産管理システムとの連携がほぼ必須になってきます。
企業によっては、会計システム、原価管理システムとの連携を必要とする場合もあります。
EC(ネット通販)業で最近増えてきているのは、受注管理システムとの連携です。
EC業では通常のBtoBビジネスとは違って、受注管理に非常に細かい機能が必要とされる為、受注管理機能に特化したシステムが導入されています。
以下に在庫管理システムと周辺システムとの関係を簡単に図にしましたので参考にして下さい。
販売管理システムとの連携では、製品や商品の入荷指示、出荷指示が必要になります。
また在庫管理システムの入荷実績、出荷実績を販売管理システム側に返送します。
製品や商品の在庫は、在庫管理システム側が主管理役となり、必要なタイミングで販売管理システムに渡す方法が最近の主流です。
生産管理システムとの連携では、部品の出荷指示を受け取ることになります。
生産管理システム側の生産指示データを受け取って、在庫管理システムの方で必要な部品を構成マスタから抽出する方法と、生産管理システムからダイレクトに必要な部品の出荷指示を受け取る方法とがあります。
生産管理側で部品の出荷指示を作成し、ダイレクトに受け取る方がシステム設計的にはシンプルですが、生産管理側の機能に部品の出荷指示の連携機能が無い場合は、在庫管理システムでも部品の構成情報を保持する必要があります。
会計システムとは、在庫データ、棚卸データの連携が行われます。
在庫管理システムで管理している在庫数を月末に締めて会計システムに渡したり、棚卸の確定データを渡すことで、会計システム側で資産計上を行います。
会計システムとの連携においては、時間枠の考え方が重要になります。
詳細については、在庫管理システムの担当者が知らなきゃいけない業務知識 ~会計と在庫管理の関係~を参考下さい。
この場合、在庫数量のみを在庫管理システム側から連携し、在庫金額は会計システム側で管理する方法もあります。
原価管理システムが導入されている場合は、製品原価・仕掛品原価を原価管理システムから受け取ることで、在庫管理システムで管理している在庫数・棚卸数にかけて金額を管理します。
参考文献
P.F.ドラッガー著『イノベーションと企業家精神』 ダイヤモンド社
前田賢二著『日本型ロジスティクス4.0』 日刊工業
谷光太郎著『戦史に学ぶ物流戦略』同文書院インターナショナル
ITC総合研究所著『SEがはじめて学ぶ在庫管理』 日本実業出版社
石川和幸著『エンジニアが学ぶ物流システムの知識と技術』 株式会社翔泳社