画像素材:gnepphoto / PIXTA
*** 全商品にRFIDを貼付けしたファーストリテイリング ***
ファーストリテイリングは、2018年春夏商品から全商品を対象にRFIDタグの貼付を開始しました。
RFIDタグとは非接触型の自動認識技術に対応したタグのことです。
レーザーや赤外線を利用して一つ一つ読み取る接触型のバーコードに対して、RFIDでは電波の届く範囲であれば非接触で複数のタグを一度に読取が可能です。
※RFID・・・Radio Frequency IDentificationの略。
このRFIDタグには、商品の色・サイズ・単価・製造日・素材などさまざな商品情報を埋め込んでおり、専用のRFID対応のハンディターミナルを商品に近づけるだけで、商品情報をハンディターミナルの画面に表示することができます。
同社では、商品の検品・入荷・在庫管理・棚卸・レジ精算などあらゆる工程で業務の効率化を目指すことを目的としてRFIDを導入しました。
先日家族でユニクロに買い物に行った際に、気に入ったデザインのジーンズを見つけたのですが、ピッタリ合うサイズが見当たりませんでした。
合うサイズの在庫がないか店員さんに確認したところ、バックヤードから専用のハンディーターミナル持ち出してきて、ジーンズの棚の近くで上下左右にかざすと、「こちらのサイズでよろしいですか?」とすぐに見つけてくれました。
*** ファーストリテイリングが抱えるサプライチェーンの課題 ***
2018年10月11日にファーストリテイリングの六本木本部で2018年8月期の決算説明会が開かれました。
その中で同社の神保拓也執行役員が発表されたサプライチェーン改革の内容が大変興味深かったので、今回はその内容について要点を整理してご紹介します。
まずファーストリテイングが目指すサプライチェーンの方向性について改めて紹介されました。
無駄なものをつくらない
無駄なものを運ばない
無駄なものを売らない
これは1年前の2017年10月12日に同じ決算発表の場で柳井社長がファーストリテイリングの経営方針として発表された内容です。
今回の発表では、同社がこの概念をいかにして実現しようとしているのか、その詳細が明らかにされました。
まずは、ファーストリテイリングのサプライチェーンの特徴を3つに整理してご紹介します。
一つは年間13億着もの服を生産しているという点です。
世界の年間の服の製造数が約800億着と言われており、その1.6%を製造していることになるので、世界でも最も服を多く製造している企業の一つと言えます。
二つ目の特徴は、ただ服を大量に製造販売するというのではなく、「Life Wear」という独自の哲学を持って良質な服を手間暇かけて製造販売するというビジネスモデルです。
最後に三つ目の特徴は、作った商品は必ず売り切り廃棄はしないという販売方法です。
さらにお客様で不要になった服も全商品リサイクル活動で回収をしています。
(株式会社ファーストリテイリング社決算説明会資料より抜粋)
年間13億着の服をつくるために企画・計画・生産・物流・販売に至るまで1年以上の時間がかかっている商品も多数あります。
これまでのサプライチェーンは無駄なものを作り、運び、売るという構造になってしまっていました。
こうしたサプライチェーン全体の特徴がある中で、現在同社ではどのような課題にチャレンジしているのでしょうか。
「作る」「運ぶ」「売る」という3つに分類してご紹介します。
<作る -企画・計画&生産->
まず企画・計画の工程においては、情報収集を人に頼っている為、世界中の情報にリーチできていない点が課題としてあります。
人が集めた一部の情報しか企画と需要予測に活かすことが出来ない為に、どうしても予測が外れてしまうといったことが起きています。
生産の工程においては、大量生産の為に生産リードタイムが長くなり販売動向に完全連動した生産が出来ていない点が課題です。
先に紹介した通り、企画から販売に至るまで1年以上かかってしまう商品が多い為、前作りしなければ実売期に商品が間に合わないことになります。
結果的に実売時期から1年以上前に作らなければがいけないといった構造的な課題を抱えています。
<運ぶ -物流->
物流の工程においては、販売に不必要な商品を保管することでキャパが不足しています。
倉庫のオペレーションはどうしても人海戦術に頼らないといけない部分があるので、人手不足で人件費も高騰しているのです。
<売る -販売->
以上の結果として、販売する店舗側で問題が発生しています。
売れない商品を過剰に在庫してしまい、値引きでなんとか売り切っています。
逆に売れ筋商品が店頭で欠品してしまうことで販売機会の損失も発生しています。
また、サプライチェーン全体の横断領域の課題としては、サプライチェーンに関わる重要な情報・数値が可視化されておらず、各領域が連動したSKU管理が不十分で、世界中の生産工場・倉庫・店舗・本部がダイレクトかつフラットに繋がりきれていないという課題があります。
今後はグローバルで事業展開する様々な世界トップ企業とのパートナーシップにより、無駄なものを作らない・運ばない・売らないサプライチェーンを構築していく必要があります。
*** 今後のサプライチェーン改革の詳細 ***
続いて今後のサプライチェーン改革の詳細についてご紹介します。
<作る -企画・計画&生産->
企画・計画の工程においては、業務提携を発表したグーグル社のAIを活用し、世の中の膨大且つ有益な情報にリーチしていきます。
世界中の情報と販売データをベースにアクセンチュア社が開発した独自アルゴリズムを用いて、精度の高い商品企画と販売数量を決定できる仕組みの構築に着手しています。
生産の工程においては、東レとのパートナーシップによる取り組み、各生産工場との取り組みにより生産工程を大幅に短縮しています。
また島精機とのパートナーシップによりお客様の要望に適した商品作りとリードタイムの大幅短縮を実現しています。
<運ぶ -物流->
物流の工程においては、自動倉庫最大手のダイフクとパートナーシップを組み、全世界に自動倉庫を展開する予定です。
販売に必要な商品のみを保管し、生産国側に倉庫を設けることでダム機能をはたし、そこから国内に持ってくることで大きな成果をあげています。
<売る -販売->
これらの結果として、過剰在庫削減、欠品の撲滅を同時に達成し、値引きでの売り切りから脱却することで粗利益率の向上を目指しています。
サプライチェーン全体の横断領域については、RFIDをサプライチェーンの全領域に導入して、その情報数値を見える化し、SKU管理を徹底することで個店経営を実現していきたい考えです。
生産段階からRFIDタグを全商品に付与して、全領域でのSKU管理を徹底します。
SKU管理と言うと店舗でのSKU管理が注目されがちですが、生産工程から管理していくことが重要だと神保執行役員は熱く語ります。
商品が誕生するタイミングからRFIDタグをつけて、1点1点の商品を全て情報化出来てようやく変革につなげていける体制が整うことになります。
*** RFIDの導入効果 ***
RFID導入前はどの商品がどれくらい作り終わっているのか完全に把握出来ていませんでした。いつ、いくつの商品がどの倉庫から店舗に届くのか、店舗の中においても店舗の売り場、バックヤードにどれだけ商品があるのかも把握しきれていませんでした。
しかし、RFIDタグを全ての生産工程の全商品に貼付けることで、どこにどれだけの商品があるのかを瞬時に正しく把握することが出来るようになりました。
在庫情報を各領域を超えて共有することが出来るようになり、サプライチェーンが完全連動してSKU管理を実現可能にしています。
RFID導入により在庫を瞬時にあらゆる工程で確認可能になったため、売上の向上という観点でいうと、今何が欠品しているのか、何が欠品しそうなのかといった情報が独自システムによりアラート表示されます。
結果、販売機会損失が撲滅し、これが売り上げに直接つながっていくと思われます。
レジの精算においても、これまで1点1点バーコードを読み取って精算を行っていたプロセスが大幅に改善されます。
膨大な商品の棚卸作業も瞬時に出来るようになりました。
出庫時の検品、倉庫から店舗の検品作業、全てのプロセスにおいて1点1点バーコードで確認していたのが、大幅に改善されることになります。
(株式会社ファーストリテイリング社決算説明会資料より抜粋)
*** ファーストリテイリングが最も重視するKPIとは ***
お客様が求める物をつくり、お客様が求めるものを運び、お客様がもとめるものを売っていく。
同社ではこれを実現できるサプライチェーンを今後も構築していく予定です。
説明会終盤に今回のサプライチェーン改革でファーストリテイリングが最重要視するKPIは何かといった質問が神保執行役員にされ、下記のように回答されました。
「サプライチェーン全体という観点でいうと全体の在庫量、在庫額です。半減できる商品を特定して半減していくという取組をしています。過剰在庫と欠品が混在しているのが現状です。お客様が欲しがる在庫が適正に持てるようになれば、値引き販売から脱却することで利益率は改善されます。よって、在庫の量、利益率をKPIのターゲットとしています。」
これらのKPIについては、同社が今後積極的にサプライチェーン改革に投資することで、この1年で効果が出るだろうと強気の発言で締めくくられました。
同社の今後の取り組みが楽しみです。
参考文献
流通ニュース
株式会社ファーストリテイリング 『2018年8月期 通期 決算説明会』
原田 啓二著『物流経営戦略の新常識』 流通研究社
多くの企業の物流システムの構築に携わってきた弊社が独自に作成した物流評価シートを下記より無料でダウンロード頂けます。
物流戦略・組織・コスト管理・情報システム構築など各カテゴリ毎にチェックシート形式で回答することで評価が可能です。
是非この機会にご活用下さい。