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*** 食品大手6社によるシェアリング・ロジスティクスが本格化 ***
「某大手運送会社2社に御社まで荷物を取りにいけないと言われた」。
先週伺った取引先の物流部長が、上昇傾向にある自社の物流コスト削減の為、新規の運送会社に声をかけたところ、このように言われたと嘆いていました。
最近の物流、とりわけ輸送を取り巻く環境は日増しに厳しいものとなっています。
このままでは皆さんの会社の荷物も運べなくなってしまうかもしれないのです。
物流業界のトラックドライバー不足にどう対応するかは、流通・小売事業者にとっても喫緊の課題となっています。
各社が知恵を絞る中、一つの答えとして今業界が動き始めているのがシェアリング・ロジスティクスです。
トラックドライバーが足りなくなる一方で、トラックの活用率はその保有能力の半分にも満たないのが実状です。
ドライバーが圧倒的に不足しているにもかかわらず、トラックの積載率が低いという垂直統合型の日本の物流の問題を象徴しています。
人や時間、場所や自動車の空き時間を貸し出すシェアリングの波が物流にも押し寄せるのは必然でしょう。
輸送の仕組みを他社とシェアリングすることで、輸送コスト削減とサプライチェーンにおけるリードタイム短縮に貢献することが可能です。
流通・小売業において、今後サプライチェーンを効率的に運営していくためには、輸送パートナーの協力が不可欠となります。
2018年5月16日(水)国内食品メーカー6社は、2019年1月より九州エリアでの共同配送を順次開始することを下記の通り発表しました。
■国内食品メーカー6社によるプレスリリース
この国内食品メーカー6社(味の素、カゴメ、日清オイリオグループ、日清フーズ、ハウス食品グループ本社、ミツカン)による共同物流プロジェクトは2016年4月に北海道でスタートしました。
このプロジェクトは「F-LINE」と称され、現在では味の素・カゴメ・日清フーズ・ハウス食品グループ本社がそれぞれ出資して合弁会社を立ち上げて2017年に3月より事業としてもスタートしています。
労働力不足が大きな問題となっている食品物流の現場において、安定した物流能力の確保や、物流コストアップの抑制を実現することを目的としています。
北海道にある各社の生産拠点から味の素の物流子会社が管理する拠点に在庫を集約し、そこから納品先に共同配送する仕組みです。
スタートして1ヶ月後の5月~7月の3ヶ月で10トン以上の大型車の利用比率が上がり、中型4トン車の台数を約1000台減らし、配送件数は全体で16%も減りました。
この大企業6社による共同物流は業界でも話題となりましたが、各社バラバラの独自ルールを足並みがそろうように実行していくには大変な苦労があったそうです。
納品書の書式や納品手順、納品時間など一つひとつの細かい作業を現場の反発を抑えながら地道に実行していく必要がありました。
途中、空中分解しかねない危機もありましたが、各社のトップダウンによる指示で実施されていたプロジェクトの為、粘り強く取り組むことで現在の成功に至り、九州エリアにも展開がされることになったのです。
今後は全国への展開も視野に入れており、食品業界の物流再編が一気に動き出しそうな予感がします。
*** 生鮮野菜のラストワンマイルをシェアリング ***
トラックドライバー不足による物流コスト高騰は青果流通にも影響を与えています。
青果流通のラストワンマイルをシェアリングエコノミーで解決をしようとして生まれたサービスが「やさいバス」です。
浜松~静岡間に「バス停」と呼ばれる生鮮野菜の集配拠点を設けて、毎日決まった時間になると2トンの冷蔵トラックが集荷や配送に訪れる定期配送の仕組みです。
飲食店などの野菜を購入する人はネットから欲しい野菜を注文します。
その注文は生産者に届き、生産者は最寄りのバス停まで野菜を届けます。
定期便で回っているやさいバスがバス停の野菜をトラックに積んで購入者の最寄りのバス停で商品を降ろします。
購入者は最寄りのバス停まで取りに行くだけで、安くして新鮮な野菜が届くというシステムです。
午前中にバス停に出荷すれば、当日の夕方までに出荷先のバス停に届けることが出来る点は大きなメリットで、野菜の仕入れコストが削減される為、話題を呼び利用が広まっています。
■やさいバスのサービスサイト https://vegibus.com/
*** 同業ライバルと手を組む ***
ミクロとマクロの両レベルにおいて様々な需給の最適化が求められる流通・小売業界において、シェアリングは本質的な課題解決手段です。
同業のライバル企業と輸送をシェアリングすることによって、ロジスティクス領域におけるムダ・ムラ・ムリを削減することは企業だけではなく、社会的に重要な取り組みです。
今後の企業経営において競争戦略と共創戦略の組み合わせは重要であり、シェアリング・ロジスティクスの観点は、社会における大きな流れになってきているように感じます。
これまでは物流の世界でも他社との競争に勝つことを目的とした投資が行われてきましたが、これからの時代は個社最適から社会最適、協調領域へと進化していくことは間違いありません。
ドライバー不足という課題はその進化の為に必要なチャンスと捉えることも可能です。
新たな時代の到来です。
ニトリでは毎年500億円近い売り上げを伸ばし続けています。
昨今の人手不足の中でそれだけの売上を支える物流を考えなければなりません。
しかもニトリのラストワンマイルは、お客様宅に上がり込んで組立設置をする最もハードなものです。
ニトリではインテリア分野の同業他社にこの配送網を開放して、同業他社と一緒に高い成長を目指しています。
自社が成長しながら、他の会社にもプラットフォームを解放することで、一緒に成長をしているのです。
インテリア関係の商品の生産地は主に中国やベトナムで、これは同業他社いずれも同じです。
よって、コンテナによる輸入から、配送・設置まで、同社が物流全体のプラットフォームを提供しようと考えているのです。
もともと少ないリソースを自前で運ぶ為に各社で奪い合うことは非生産的です。
配送料金を無料化したり、休日も平日と同じように運ぶようにして、同業他社と争うよりは、同業他社と手を組んで平準化する動きの方がはるかに生産的で、業界全体で成長出来るのではないでしょうか。
自社だけという考え方を改め、共有化できるプラットフォームを選ぶべきです。
*** 情報量と徹底した見える化がシェアリングのカギ ***
その為には情報量とその可視化も重要です。
情報を標準化し、見える化することで、物流をシェアし、生産性を上げるのです。
情報を徹底的に見える化することと、情報の標準化を進めることがシェアリング成功のカギを握ります。
情報を徹底的に見える化をすることによって、資産運用率を高めることができるのです。
その為のICTへの積極的な投資を進めていく必要があります。
しかし、多くの企業ではICTに投資をする場合、費用対効果を算出して稟議をあげてといった話になります。
筆者も取引先の企業に輸送コストを見える化する為に、商品サイズ(3辺計と重量)のマスタ化を提唱しているのですが、なかなか進めて頂けません。
“費用対コスト”、”3年以内の投資回収”。そこがはっきりしないと稟議が通らないのが日本企業です。
しかし、情報のデジタル化は大きな戦略の中で構想を描き、長期的にその戦略的価値に対して投資するものです。
そうした考え方を経営のトップがしっかりと持つ必要があるのです。
先日参加した国際物流展でも物流ロボットのブースに沢山の人が集まっていました。
しかし、見に来る人は沢山いますが、実際導入したという話を聞いたことがありません。
日本は中国や米国企業に比べて意思決定が非常に遅いとよく言われます。
逆に日本の強みはビジネスルールやマナーなどのモラルの高さです。
そうした点では海外企業よりもライバル企業同士のシェアリングは成功しやすいのではないでしょうか。
海外ではライバル同士潰しあいですし、すぐに真似をしたり情報を奪ったりします。
シェアリング・ロジスティクスは日本企業の強みが活かせて、効率的に生産性を向上させる最適なモデルだと言えるのでしょう。
シェアリング・ロジスティクスを通して皆さんの会社のサプライチェーンが高度化することを願っています。
参考文献
『月刊マテリアルフロー 2018年10月号』流通研究社
『月刊マテリアルフロー 2018年8月号』流通研究社
F-LINE 公式プレスリリース
やさいバス公式サイト
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