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*** 一隻の船が歴史を変えた ***
東京から南南東に向けて1000Kmの太平洋上に小さな島が30程散在しています。
小笠原諸島と呼ばれるその一帯にはそこでしか見ることの出来ない固有の生き物や、太平洋の大海原に浮かぶ大自然に恵まれています。
2011年には世界遺産にも登録されました。
そんな日本の財産である夢の島が、明治時代に領有問題に揺れ、一隻の船によって日本の領土になったという事実は意外と知られていません。
明治8年(1875年)、小笠原諸島の領有権を巡って英国と日本で問題が生じました。
その際、日本政府の調査団を乗せた明治丸が英国のカーリュー号より一足早く父島に入港しました。
明治丸が入港したのは10月24日、カーリュー号が入港したのは26日でした。
この2日の差が日本にこの島を領有するきっかけを与えたのです。
明治丸は、明治6年に伊藤博文が燈台巡廻として英国に発注し建造した船で、非常に高級で高品質に建造されました。
そのため、明治天皇をはじめ多くの高官が乗船したことでも有名です。
そもそもの役目は海上物流の安全を守る燈台の巡視船ですから、とても地味で目立たない役目の船でした。
決して豊かではなかった明治政府がこうした海上物流の裏方役に費用を惜しまなかったというのは、明治という時代の意気込みと思慮深さを感じます。
※明治丸は現在、東京都江東区越中島にある東京海洋大学構内に保存されています。
*** 国土交通省の「生産性革命プロジェクト」 ***
平成28年、国土交通省はこの年を「物流分野の生産性革命元年」と位置づけて、生産性向上につながる先進的な取り組みを20選定し、「生産性革命プロジェクト」として立ち上げました。
そこで本稿では、新しいテクノロジーを活用した「物流の生産性」に焦点を当て、皆様と一緒に物流分野の生産性革命の実現について考察を進めたいと思います。
経済を再生して、デフレから脱却し、2020年に600兆円の経済を実現していくことは、日本経済の最重要命題のひとつです。
こうした持続的な経済成長を遂げていくためには、経済の大動脈である物流の生産性が重要なカギを握ります。
*** 物流の生産性とは? ***
では、「物流の生産性」とはいったいどういったものでしょうか。
物流に関するオペレーションは「労働集約型」と言われています。
ということは、『物流の生産性=労働生産性』という図式になるのでしょうか。
物流の業界においては、今後益々モノを運ぶ為のリソースが不足していきます。
少子高齢化はその最たる要因であり、また今後は時間の制約も厳しくなってきます。
これまでは残業でなんとか運んでいた荷物も今後は政府の「働き方改革」などの浸透によって厳しく制限されてきます。
その辺りを考えると物流の生産性を単に労働生産性として捉えてしまうと、すぐに行き詰ってしまうことが分かります。
今後実用化が検討される新たなテクノロジーを積極的に試験活用し、リソースの制約を受けないこれまでとは違った革命にチャレンジする必要があります。
*** 生産性革命は「未来型」の投資を優先させる ***
これからの生産性向上は、急速に進化しているAI、IoT、ロボット、ビックデータなどの技術を活用する「未来型」の投資が欠かせません。
各企業が第4次産業革命(Society5.0)を視野に入れ、こうしたテクノロジーをフル活用し、生産性向上に努めることが重要です。
また人材育成においては、こうした技術をエンジニアリングできる人材が不足してくるため、ロジスティクス分野に特化して最新テクノロジーをアジャスト出来る人材やベンチャー企業の育成が重要になってきます。
しかし、こうした企業単独での取り組みには限界があります。例えば渋滞などの問題は物流の生産性に大きく影響を及ぼします。
国全体がインフラを整備するなどしなければ根本解決が難しい問題です。
日本では車での移動時間のおよそ4割が渋滞により無駄になっています。
こうした課題を踏まえて、「生産性革命プロジェクト」の一つに「ピンポイント渋滞対策」という政策が進められています。
ビッグデータとIoTを活用して、高速道路などのどこで速度が低下しているかを収集・分析し、構造的な渋滞の要因を特定することで、ピンポイントで効率的な対策を実施しています。
既に東名高速の海老名JCTではこの方法が試され、渋滞が大幅に緩和されています。
*** おわりに ***
明治時代、文明開化の掛け声のもと、西洋に追いつくために様々な物流改革が行われました。
情報伝達のための郵便制度、物資輸送の為の鉄道整備、海上の物流を支える燈台の建造などです。
そうした中、地味で目立たない裏方役の明治丸の船出は文明開化に湧く日本の経済を支えました。
現代の日本政府が明治時代の意気込みを受け継いで、経済の基盤を支える物流に積極的に「未来型投資」することを強く望みます。