私達のような業務システム系のIT企業は、顧客企業の事業戦略の進展に対して
非常に密接な対応を求められます。
従来のように仕様通り動くシステムを納品しただけでは真の顧客満足を得ることは難しく、
常に新しい提案や、業務改革と絡めたIT活用を求められるようになっていると感じます。
こうした傾向は物流業や3PL事業でも同様に強まっていると思います。
倉庫に商品を保管して在庫を管理したり、商品を指定の場所に運ぶだけでは、
荷主企業は満足しなくなっています。
このような顧客企業の事業戦略に密接に関連する商品やサービスを展開する企業
においては、変貌する顧客企業の事業戦略展開や、市場動向に敏感に対応する現場
対応力が求められます。
近年では、物流からロジスティクスに、そしてサプライチェーンといった具合に
物流企業に求められる事業戦略範囲は拡大されています。
ロジスティクスの本場である米国では、1963年に設立された「物的流通管理協会」が1985年に
「ロジスティクス管理協会」となり、2005年にはSCM専門家協会と名を変えています。
(※苦瀬 博仁 『江戸から平成まで ロジスティクスの歴史物語』参考)
サプライチェーンとは、原材料の調達から生産と流通を得て消費に至るプロセスを鎖に
見立てたものです。原材料の調達、製品の生産、製品の販売、消費に至る全てにおいて
物流が密接に関連することを考えると、物流企業に求められる事業戦略の範囲が拡大する
ことは必然と言えるでしょう。
広範な知識と幅広い教養を基礎に、ロジスティクスマネジメントやサプライチェーンマネジメント
の専門知識を持った人材が必要になっていきます。
サービス範囲を物流からロジスティクスに、そしてサプライチェーンへと拡大させていく
現場力の強化と人材育成が急務となります。
***物流コストの把握の重要性***
企業のロジスティクスを語る上で、2大コストとされるのが、「物流コスト」と「在庫コスト」です。
この2大コストをロジスティクス・マネジメントの観点で考察しており、今回から物流コストマネジメント
にテーマを移します。
冒頭にまずみなさんにお伝えしたいことは、企業経営にとって物流コストを正確に把握する
ことの重要性です。
1962年にピーター・ドラッガーはある雑誌の記事で「物流は最後の暗黒大陸だ」と言っています。
彼は、このたった一言で物流がいかにブラックボックスであり、企業経営において重要であるかを
世界に示したのです。
これまで物流は利益は生まないと考えられてきました。こうした考え方は今や昔話です。
企業の利益の源を考えるとき、第一に販売、第二に製造が挙げられます。
そして第三の利益の源が物流であり、物流コストを削減することで商品の原価率は下がり、
一度削減された物流コストはサラサラな血液のごとく企業を循環し、収益構造を最適化する効果が
あるのです。
***明確な定義のない物流コスト***
ここまでの説明で物流コストの把握が企業経営においていかに重要であるか認識頂けたかと思います。
しかし、現在でも多くの企業が物流に関わる費用を正確に把握出来ていません。
これは1部上場企業であっても例外ではありません。
そもそも決算書の貸借対照表や損益計算書に「物流コスト」という科目は記載がありません。
また会計士の様な経営数値のプロフェッショナルでさえ、この物流コストについては、明確な説明が
出来ません。
つまり、法的にも社会的にも「物流コスト」について明確な定義が無い為、その重要性は理解できても、
正確に把握し管理する術を持たないのです。
当然企業によってその扱い方は異なり、物流コストについてよくある議論が、
「物流コストは販売管理費? or 製造原価?」というものです。
みなさまの会社ではどちらで扱っていますか?
***多くの企業が把握している物流コストは氷山の一角***
昨今の燃料費高騰やドライバー不足による運賃値上げで「物流コスト」に対する意識は
一気に高まりましたが、それが企業の物流コスト管理の向上に繋がったかといえば答えはNOです。
物流パートナー企業に対して運賃の値下げ交渉をすることや、より運賃の安い物流パートナー
を探すことだけが物流コスト削減ではありません。
本来の物流コスト削減は物流発生源の活動を変えることにあります。
多くの企業が”運賃”や”倉庫賃貸料”だけを物流コストとして捉えていますが、そうした費用は
物流コスト全体で見るとごく一部でしかありません。
物流コストに関心の薄い企業では、多くの無駄なコストがブラックボックス化し、本来得られる
べき利益をドブに捨てています。
このテーマを進めるにあたって、まずは物流コストの見える化を図り、その後に物流コストの削減、
そして最後に物流コストマネジメントの要諦や手法についてみなさまと一緒に学びたいと考えています。
みなさまの会社が”本来得るべき利益”を少しでも取り戻すヒントになれば幸いです。
次回は自社の『物流コストを見える化する為の方法』について説明します。