1990年の湾岸戦争でロジスティクスが一躍脚光を浴びました。
開戦から終戦までの一年間で米軍は1億2200万食を配給し、50億リットルにもおよぶ燃料を
供給し、3万トンを超える郵便物を配達しました。
この戦争で700万トンもの物資を必要なタイミングで正確に無駄なく前線に送り込み、
戦争におけるロジスティクスの重要性を世界が改めて認識することになりました。
こうしたミリタリー・ロジスティクスがビジネスでも応用できるということで、「物流からロジステ
ィクスへ」と高らかに掲げられてから28年が経過しました。
我が国においても、物流の産業構造を変える必要性を認識し、現状を問題視をする良いきっ
かけにはなりましたが、企業の物流がロジスティクスへと大きく変容することはありませんでした。
日本ロジスティクスシステム協会が2016年に作成した「「IoT、ビッグデータ、人口知能の進展に
よる2030年の物流ビジョン」の報告書によれば、第4次産業革命とも言われるIoTやビックデータ、
AIという強力な最先端技術が物流の産業構造の変化の起爆剤になるだろうと書かれています。
中でもIoTによるスマート物流は工場間のB2B(注1)、工場と顧客を結ぶB2C(注2)など広範囲に渡
るバリューチェーンに大きな影響を及ぼすでしょう。
また当報告書では、IoTの役割を示す重要なキーワードとして、「1.繋がる」、「2.代替する」、
「3.創造する」の3つを挙げています。
まず“繋がる”は、バリューチェーンに関わる様々なデータや情報が繋がることによって、バリュー
チェーン全体の“見える化”が実現され、在庫削減やリードタイム短縮が可能となります。
2番目の“代替する”では、労働集約的なピッキング作業がロボットに置き換わり、一方で運転支援
システム技術により負荷なく女性や高齢者の運転手が活躍出来るようになります。
また過疎地物流へのドローンの活用や、ウェアラブル端末や3次元計測・可視化技術、AI の進展に
より、物流改善もバーチャルに置き換えることも可能となり、PDCAサイクルのスピード化が実現できます。
3番目の“創造する”では、繋がることによるビッグデータから、CPS(注3)上での様々な最適化や潜在化し
ている顧客ニーズを発掘することにより価値創造が可能になります。この価値創造を活用して、物流業を
コスト競争から価値創造の業態へ変革することが期待されます。
※注1 B2B・・・企業間での取引。
※注2 B2C・・・企業と一般消費者での取引。
※注3 CPS・・・多様なデータをセンサーネットワーク等で収集し、分析&知識化を行い、そこで創出した情報
と価値によって、産業の活性化や社会問題の解決を図っていくもの。
***発注タイミングと発注数量の組み合わせでコントロールする***
企業のロジスティクスを語る上で、2大コストとされるのが、「物流コスト」と「在庫コスト」です。
この2大コストをロジスティクス・マネジメントの観点で考察する5回目です。
在庫コントロールを行う上で、発注タイミングと発注数量を商品や製品毎に決める必要があります。
発注タイミングには定期的に行う場合と不定期に行う場合の2通りあります。
発注数量についても、毎回同じ数量を発注する定量発注と、発注時点の在庫量により数量を決定
する不定量発注とがあります。
(※ちなみに前回ご紹介した『発注量』 = 「サイクル在庫」+「オプション在庫」は不定量方式になります。)
***4つの発注方式の特徴***
この発注タイミング(定期 or 不定期)と発注数量(定量 or 不定量)の組み合わせにより、発注方式
は下記の4つに分類されます。
1.「定期定量方式」
一定期間に一定量を発注する最も簡単な方式です。
納期や出荷量が安定している場合に向きますが、実際にはあまり使われることはありません。
製造業などの備品管理や消耗品管理などに向いています。
2.「不定期定量方式」
在庫が一定水準を割ったら、一定量を発注する方式です。
出荷量の変動(季節波動や週波動など・・)が少ない場合に向きます。
”一定水準”とは”発注点”のことです。発注点と発注数量を明確に決定する必要があります。
発注点と発注数量の決定方法については前回の記事を参考下さい。
https://www.inter-stock.net/column/no145/
小売りや卸売業による定番品の発注に向いています。
3.「定期不定量方式」
毎回決められたタイミングで発注をしますが、発注量を都度計算する方式です。
売れ行きが右肩上がりを続けているような商品に向きます。
需要の予測が決め手になる為、他部門との連携が重要になります。
新商品や新市場への既存商品投入などの場合に向いています。
4.「不定期不定量方式」
在庫が一定水準を割ったら、その都度発注量を計算する方式です。
4つの発注方式の中で最も難しい発注方式ですが、ITの活用により自動化することで最も効果を
発揮する方式です。
不安定で変動が大きい商品に向きます。昨今のような不確実性が高い需要にはこの方式が必須
となりつつあります。
ITによる自動化が実現出来れば、ほぼどんな業態、商品でも向いています。
***良くある「発注量」決定の失敗例***
以上、発注方式をご紹介しましたが、いずれの発注方式においても成否のカギを握るのは
「発注量」です。市場の需要に同期化させる発注量の決定が全てといっても過言ではありません。
よくある失敗例としては、販売計画をもとに発注量を決定する場合です。
販売計画は基本的に営業部門の売上目標がベースですので、市場の需要とは別次元です。
これでは市場の需要に合わせて過不足なく在庫をコントロールすることは到底叶いません。
発注量は販売計画ではなく、実際の需要に基づいて決定される必要があります。
次回は在庫コントロールを商品毎に分ける方法をご紹介します。