東洋証券のマーケット支援部が作成した「当面の株式市場見通し」の資料の中で、
2017年に関心が集まりそうな日本株キーワードをレポートで紹介しています。
「サイバーセキュリティ」、「自動運転」、「ロボット」、「人口知能(AI)」、「シェアリング・
エコノミー」、「フィンテック」、「働き方改革」、「仮想現実(VR)」、「スマートセルインダ
ストリー」の9つのキーワードが紹介されていました。
このうち物流やITに密接に関連する分野としては、自動運転や人工知能、シェアリン
グ、働き方改革などでしょうか。
物流業界は今後、ドライバー不足やトラック不足により売り手市場の傾向が強まって
きますが、そうした流れは業界にとってはもちろんですが、消費者にとっても決して良
いことではありません。
ITによりリソースの共有(シェアリング)を促進し、AIや自動運転により労働力を補い、
働き方の改革により業界の人材を確保していかなければ物流業界だけでなく、日本
の流通そのものが機能しなくなってしまいます。
ヒト、モノ、カネとよく言われますが、今後物流業界が自社のことだけではなく、日本経
済全体の未来を見据え、ヒトにフォーカスした投資を積極的に行っていかなければなら
ないと痛感します。
今はその最大のチャンスではないでしょうか。
***卸売企業の明暗を分ける3つのポイント***
前回に引き続き、廃業していく卸売業と生き残り発展する卸売業とを明確に分岐させて
いる経営戦略とは何なのか?
『物流×IT』の視点で筆者なりに探り、読者の皆様にご理解頂き易いよう3つのポイント
に整理して考察を進めていきたいと思います。
まずは早速その3つのポイント(要諦)ですが、
『1.物流オペレーションの基礎力』
『2.物流オペレーションを支えるITの構築力』
『3.ITによるリテールサポート力』
を掲げたいと思います。
この3つの要諦の有為によって、生き残る卸売企業と廃業に追い込まれる卸売企業に分
かれるのではないかと考えています。
あくまで筆者の経験値による主観ですので、あらかじめご了承ください。
***古びた卸売企業の物流活動***
『1.物流オペレーションの基礎力』についてですが、あえてここで書くまでもなく、卸売経営
にとって最大の顧客提供価値は”物流活動”であることは今も昔も変わりません。
前回ご紹介した問屋の起源から見てみてもそれは明らかです。
鎌倉時代に物資の保管、輸送、取引の仲介などを業にする者を問丸(といまる)と呼び始め
たのが現在の卸売業です。
しかし、その物流活動は今日の卸売企業の経営にとっては大きな負担となりつつあります。
リードタイムの短縮による配送コストの上昇、多品種少量によるオペレーションの複雑化と在
庫コストの上昇、こうした様々な物流に関わるコストの上昇が利益を圧迫し、従来のオペレー
ションでは生き残れなくなっていきます。
受発注管理システム、在庫管理システム、倉庫管理システム、配送管理システムなどITを駆
使し、物流コストを削減する為のオペレーション改革が急務です。
筆者も沢山の業界のIT化を見てきましたが、卸売業はIT化が遅れていると感じます。
その中でも特に食品関連の卸売業はIT投資の積極性に乏しい印象です。
利用しているシステムはAS400などの古くからの基幹システムがメインで動いており、なかなか
そこから脱却できていません。
日々の処理はバッチ処理で、在庫の確定は翌日といった企業も少なくありません。
また製造業に比べ、サプライチェーンシステムの確立の遅れも懸念されます。
自動車業界のように特定のビックプレイヤーがいない為、情報の方向性が多岐に渡ることも要
因と思いますが、こちらも早急に改革を行っていかなければ、卸売業界全体の市場価値の低下
は免れないでしょう。
***物流KPIを駆使した日々の改善活動が重要***
物流オペレーションの基礎力を向上させる方法として、物流KPIを駆使した日々の物流改善
活動は欠かせません。
物流オペレーションの各項目をモニタリングできる仕組みを構築し、PDCAサイクルを確立します。
受発注や在庫管理の物流関連業務も同様です。
こうした地道な日々の改善活動が物流活動の基礎力を向上させる上において最も重要となります。
最近では卸売業が物流をアウトソースする事例も出てきているようです。
これはまさしく本末転倒であると言えるのではないでしょうか。
冒頭でも申し上げた通り、物流活動は卸売業の原点です。
卸売企業の生き残り戦略は物流活動の強化と底上げであり、新しい物流価値を顧客に提案し続け
ることが出来るかどうかが、生き残りをかけた鍵であることは疑いの余地はないでしょう。
次回、『2.物流オペレーションを支えるITの構築力』について考察します。