先週22日の日経新聞に、日本郵政グループである日本郵便がはがきの料金を引き上げるこ
とを発表した記事が掲載されていました。
料金の引き上げは2017年の6月からで、値上げ後は現在52円のはがきが、62円になります。
ちなみに年賀はがきは52円のままです。
消費税増税時を除いての値上げは1994年以来、23年ぶりとなります。
人件費の上昇などで郵便事業の収益が悪化し、事業の立て直しを図るためです。
はがきの配達数は約63億通です。(2015年度実績値)
単純計算すると、63億通×52円で3,224億円の売り上げです。
これに対して、1通あたり10円値上げするということは、こちらも単純計算で、約630億円の利益
が計上されることになります。
これはとてもインパクトのある数字ですし、これだけみてもいかに日本郵便の郵便事業が苦しい
状況かがわかります。
利益の出ない事業について、主力商品の値上げで立て直しを図るということはよくあることです。
しかし、今回の場合少し事情が違うのは、はがきや請求書などは、法律上で「信書」と呼ばれ、
こうした書類等の郵送は、日本郵便の独占事業であるということです。
以前、ヤマト運輸がメール便というサービスを行っていたとき、こうした信書をメール便で送るユー
ザーが増えた為、法律に違反する危険性があるということで、サービスを中止しました。
筆者もこのヤマトのメール便はよく利用していましたし、大変良いサービスだと思っていましたの
で、非常に残念に思いました。
こうしたはがきや信書が独占事業であり、競争が発生しないにも関わらず、値上げにより事業の
立て直しを図ることが最善策であるかについては正直疑問を感じます。
米国からの強い要求などがあっとは言え、もともと国が行っていた郵政事業を民営化した目的は、
サービスを向上して、業務効率化により料金を下げることにあったはずです。
これがやはり建前であっということでは国民も納得しません。
日本郵政公社に付与されていた優遇面の全面的な撤廃を通して、歪みのない競争を確保し、真
に市場原理に基づいたアプローチを行うことが必要だと思います。
総務省はこうした信書を送るサービスを規制緩和することで競争者を生み出し、新たな市場を作り、
利用者にとっても利益が生まれるような取り組みを実施して欲しいと思います。
***第四次産業革命に向けた最大の鍵は、流通・物流業の情報活用***
前回は経済産業省が今年5月に作成した「流通・物流分野における情報の利活用等に関する研究
会調査報告書」を参考に2030年における物流システム、在庫管理システムについて考察しました。
前回記事中の「ビッグデータを活用したレコメンド在庫管理システム」についても、早速いくつかの企
業から反応を頂いたことは、筆者としても喜ばしく思います。
物流ITの業界に限らず、IoT、ビッグデータ、AIなどの活用による「第四次産業革命」の到来が騒がれ
ています。
今回は、来る「第四次産業革命」に向けて、流通・物流業の”システム活用の課題”について考察します。
これまでに、直接的な消費者との接点を有する流通業や物流業は、他産業に比べ大量にリアルタイムの
売上データや顧客データを保有することができ、その活用が進んでいると述べました。
この事実については、今回の経済産業省の本報告書にも研究の前提として上げられています。
筆者が物流ITに携わっていることにより、偏った視点で書いていることを大目にみていただいたとしても、
第四次産業革命に向けた最大の鍵は、流通・物流業の情報活用であることは間違いなさそうですし、経済
の情報活用の主導権を握るのが流通・物流業になることも間違いなさそうです。
***深刻化するトラックドライバーの不足***
近年、流通・物流業においては人手不足が深刻化しています。
本報告書によると、将来の就業者数の見通しを見ても、日本全体の就業者数は、2015年の6,376万人か
ら5,449~6,103万人まで減少すると推計されています。
卸・小売業においては 2030年の就業者数は806万人~941万人に減少することが予想されており、将来的
な労働力不足は大きな課題となっています。
つい先日も宅配大手の佐川急便で、年末の荷物量増加に伴い、東京や埼玉、愛知、大阪など7都府県で配
達に遅れが出ているとニュースになりました。
その理由について、同社広報部は、想定以上の荷物集中や人員不足が原因とし、過去にこうした遅れはなか
ったと発表しています。
1993年から2010年にかけて、トラックドライバーは、29歳以下の比率が急激に低下しています。今後、長期的
な総人口の減少と高齢化が進んでいくことを考えるとトラックドライバーの減少は物流業界だけではなく、社会
的な問題へと発展していくことは間違いありません。
***技術革新の受け皿となるプラットフォームの課題***
こうしたことを踏まえると、単に技術の革新によりその恩恵を授かるのを待つだけではなく、国や企業が一緒に
なって、以下のようなプラットフォームを構築する必要があると思います
1.意思決定を支援するITの構築とデータ活用が出来る人材の育成
⇒AIなどが普及してもそれをもとに意思決定をするのは人であり、その活用を行うのも人である。
2.部分的な過剰サービスから脱却し、全体最適化されたサービスへの移行
⇒部分的な過剰サービスが労働力を分散させている。全体最適によるサービス向上によりお客様
満足度を向上しつつ、限られた労働力を最大集約することが可能になる。
3.外国人労働者を活用する為のグローバルなIT構築
⇒外国人労働者を積極的に受け入れる仕組みを構築し、多言語に対応したシンプルでグローバルな
ITにより言語や文化による弊害を最小化する。
***企業や消費者の間で進むデータクローズ化の課題***
さらにもう少し下流の課題として下記の2点が懸念されます。
1.競争企業同士での情報共有の弊害
第四次産業革命ではビックデータの活用が欠かせません。
自社のデータを自社の発展の為だけではなく、広い視点で、市場や業界活性化の為に提供するという
取り組みが必要になってきます。しかし、これまで資本主義の中で市場競争を勝ち抜くことで生き延びて
きた考え方を根底から覆すようなこの発想に切り替えるには、もう少し時間を要するでしょう。
また企業のデータ利用について個人情報保護法などの関係で、消費者の十分な理解が得られていな
いケースが多いのも実情です。
全てのデータを閉鎖的に扱うのではなく、クローズにしなければならない情報と、オープンにすることで企
業も消費者もメリットを享受できる情報を上手に切り分けしていくことも必要になります。
2.データフォーマットの不統一性
流通BMSやEDI、EOSなど企業間の情報交換はこれまでもあらゆる方法で統一化を図ってきました。
しかし、いずれも志半ばで終わっており、シームレスな交換は未だ実現できていません。
第四次産業革命の情報活用において、企業間のシームレスな情報交換はもちろんのこと、消費者
と企業との情報もシームレス化を図っていく必要があります。
情報とは本来、より多くの人に共有されてその存在価値を最大化出来ると筆者は考えています。
企業と企業、企業と消費者の間でデータのオープン化が進み、有効活用されていくことを望みます。