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筆者はこれまで自動認識技術である一次元バーコード(JAN、ITF、Code39等)や二次元コード(QR)、OCR(文字認識)などを利用した
物流のシステムを数多く導入してきました。
近年急速に期待の高まっているRFIDについても10年以上前に商品化の検討をしたこともありました。
しかし、当時はRFIDのメリットよりもデメリットの方が多いと感じた為、倉庫の物流システムを構築する上ではJANやQRコード等のバーコードによるシステム構築を顧客に提案してきました。
そんな筆者が最近はRFIDを顧客に勧める活動をしています。
10年以上前に感じたRFIDのデメリット(一番大きなデメリットはハードウェアやICタグの単価でした)が概ね解決されてきており、RFID普及の為の、一番高い壁であった一般流通業界(コンビニや量販店等)にも普及の波が押し寄せていることが主なきっかけです。
しかし、何でもかんでもRFIDで提案というわけにはいきません。
RFIDに過剰な期待を寄せて、RFIDの弱点を理解せずにシステムを導入し、失敗したという話も良く聞きます。
またRFIDを導入してはいるけれど、システムがやっていることはバーコードによる管理とあまり変わらないといったケースも少なくないようです。
また逆のケースもあります。
新しく物流システムを刷新する際に、RFIDの提案も受けたが、機器やICタグがバーコードよりも高価な為に導入をあきらめてしまったというケースです。
しかし、よくよく分析してみると、高価なRFIDを導入しても、そのコストを上回るだけの作業効率改善が可能だったということです。
RFIDの関連機器(専用アンテナや端末)は導入初期に発生する費用です。
ICタグはランニングコストになります。
そうしたコストをバーコードと比較して、効率化できる工程をもう少し踏み込んで費用対効果を分析していれば、RFIDの導入が中長期的には、はるかにコスト減になったという例は枚挙にいとまがありません。
また自社の物流コスト削減の切り札としてRFIDを検討してはいるが、なかなか導入に踏み切れないといった企業も多いようです。
まだまだバーコードに比べてその可能性が未知数なので、こうした悩みは止むを得ないのかもしれません。
今回はバーコードとRFIDのメリットとデメリットをもう少し詳細に比較して、RFIDが向いている業界と向かない業界について考察をしてみたいと思います。
*** RFIDのインテリジェンスを見落とすな ***
最新のテクノロジーを自社のロジスティクスに組み込む際に、重要なポイントがあります。
それは、従来の物流が単にモノの流れを効率的に管理することに重きが置かれていたのに対して、今後の物流は真のロジスティクスという観点から、調達、生産、流通、そして最終消費者の手元に商品が届くまでのモノの流れおよび、情報の流れを体系的に計画、実行、管理する経営プロセスでなくてはならないということです。
もともと軍事用語から生まれたロジスティクスは、兵器、糧食、被服の運搬等の輜重(しちょう)関連の機能よりも、更に高次の概念として、戦場で後方に位置して前線の部隊のために必要物資の供給、補充や後方連絡線の確保などを全体として効率よく管理することが目的とされていました。
つまり、何が言いたいかといいますと、RFIDを自社のロジスティクスに導入するかどうか検討をする際には、真のロジスティクスという高度な視点からその有用性を示していく必要があるということです。
これを単に、現状のモノの流れを効率的に管理するという観点だけで検討をしてしまうと、先に示したケースの二の舞になってしまいます。
RFIDにはバーコードと違って、沢山の情報を自由に書き込んだり読み込んだりすることが可能です。
つまり、情報の流れがバーコードと比べて飛躍的に多次元化するのです。
モノの流れを効率化することだけで頭を働かせてしまうと、こうした情報の流れのインテリジェンス的要素を見落としてしまいがちなのです。
物流領域の情報が主導権を握っていく時代において、ここを見落として真のロジスティクスは構築出来ないのです。
*** RFIDの導入をお勧めしたい業界 ***
RFIDの利用は様々な場面でその効果を発揮しますが、今回ご紹介するのは、物流領域でのRFID活用に限定しています。
※筆者の専門外の業界のRFID活用については、知識が乏しい為、割愛させて頂きます。
■アパレル業界
小売業における商品管理が物流と密接な関係にあることは言うまでもありません。
中でもアパレル業界は商品1点当たりの単価が高い為、SKU単位での商品管理の重要性が高い業界です。
さらに言えば、アパレルは毎シーズントレンドが変化する為、買い替えの需要を見込みながら安定的な売上を確保していく必要があります。
こうしたことからユニクロやBEAMS(ビームス)などでは早くからRFIDが実用化されています。
ユニクロは「いつ来ても、ほしい商品が置いてある」ことを企業価値としており、徹底して欠品を出さない仕組みを構築している点が強みです。
年間に取り扱うアイテム数は全店舗共通で1,000点程で、それらのアイテム全てにICタグをソースタギングすることでサプライチェーン全体で商品1品単位による情報管理を実現しています。
またアパレル製品には、「下げ札」と呼ばれる「値札」が取り付けられています。
よって、バーコードからICタグに比較的変更し易いのです。
○アパレル品に取り付けられる下げ札
■専門店(バッグ・時計・靴等)
バッグや時計、靴などの専門店もRFID導入をお勧めします。
理由としてはアパレルと同様で、商品1点当たりの単価が高いことです。
また値札も取り付けられていることから値札にICタグを貼り付けるハードルは低いでしょう。
更にはレジ入力もICタグによって効率化される点は、大きなメリットです。
専門店は店舗スペースが狭い場合が多いですが、富士通フロンテックの「FUJITSU RFID・センサーソリューション カウンターセンサースリム」は、小売業の店舗に向けて、スペースの限られた店頭カウンターでも邪魔にならないよう薄型設計されてあり、RFIDリーダーライター装置も小型化されてきています。(下写真)
○FUJITSU RFID・センサーソリューション カウンターセンサースリム
■医薬品業界
医薬品の偽造品流通防止のために薬局開設者、卸売販売業者、店舗販売業者及び配置販売業者はロット番号を含む販売記録が義務付けられています。
また同様に医療現場においても、血液製剤等の特定生物由来製品の製剤名・規格・ロット番号を含む使用記録の保管管理が義務づけられています。
したがって、医薬品のトレースを確実に効率的に行うことは、業界全体の喫緊の課題として存在しています。
こうしたことから医薬品業界では早くからRFIDの活用に注目しており、日本製薬団体連合会が中心となって15年以上前から「医薬品業界における電子タグ実証実験」を行っています。
ICタグが扱えるデータ量の多さを活かして個体識別ができる点や、リーダ・ライタによる簡便な操作により情報の入出力が瞬時に行える点等の特性により、サプライチェーンを管理したり、トレーサビリティを確保する必要がある場面において、活用が期待されています。
医薬品業界での活用を想定すると、医薬品流通におけるトレーサビリティの精度向上や業務の効率化、さらには医療安全といった様々な場面において、ICタグの活用が期待できます。
医薬品も商品1品当りの単価が高いこと、また業界全体の後押しがあること、商品1つ当りの管理情報が多いことなどからRFIDの普及は急速に進む業界と言えるでしょう。
○医薬品業界全体の商品情報の流れ
出典:日本製薬団体連合会作成「医薬品業界における電子タグ実証実験報告書」
■製造業
一般的にはICタグは金属や水分・ノイズの影響を受けやすいため、製造業の現場によっては導入が向かないケースもあります。
しかし、製造業でICタグを繰り返し利用できるという点は大きなメリットです。
製造業では通箱というものが良く用いられます。通箱とは、製造元が取引先や得意先に注文の製品を入れて届けるのに使う箱のことです。(下写真)
○製造業で利用される通箱
この通箱にICタグを取り付けることで、製造した製品の製品名・規格・ロット情報・製造年月日・シリアルNO等をタグに記録して高度で緻密なトレーサビリティが実現出来ます。
ICタグはリライタブル(読み書きの繰り返し)可能なため、通箱が取引先から戻ってきて、別の製品を投入して何度でも繰り返し利用が出来ます。
また製造元がICタグに製品情報、製造情報を書き込んでおけば、取引先もそのICタグを読み取ることでサプライチェーン全体で情報を共有し活用することができます。
製造業の現場は小売業の店舗とは違って、どうしても埃や油で汚れてしまいがちです。
バーコードだと汚れたり剥がれたりしてバーコードが読めなかったりするケースも少なくありませんでした。
ICタグであれば、通箱の素材内部にタグを埋め込むことが出来るので、汚れたり剥がれたりする心配がなくなります。
このような理由から、今後製造業のサプライチェーンにおいてRFIDは急速に導入が進みます。是非今の内から準備をしていきましょう。
■建材・住宅設備
最近では屋外や製造現場等の過酷な環境でも利用可能な耐熱性、耐薬品性に優れたICタグも登場しています。
それがセラミックICタグやテフロンICタグです。
世の中で最も耐薬品性に優れるテフロン樹脂製チューブで、封止保護しているので、建設現場などの劣悪な環境でも利用可能です。
住宅一軒の建設には約6万点の部品が必要とされています。
その部品調達に関わる関連企業は建材屋、設備会社、メーカー、工務店など3,000社に上ると言われています。
その流通は極めて複雑であると言えるでしょう。
また過去には、一般家庭で用いられる住宅設備品による重大な事故も相次ぎ、トレーサビリティの必要性は業界の喫緊の課題とされていました。
しかし、古くから存在するバーコード等の自動認識技術が業界の流通で活用されることはありませんでした。
建材はバーコードを貼り付けるのが難しいこともありますが、関連企業が多岐にわたり、書き込める情報が少ないバーコードでは、事業単位での流通過程でしかそれが活用できないことが要因でした。
しかし、ICタグであれば使用者情報・契約ID・住宅ID・シリアル番号などを書き込むことが可能になります。
こうしておけば、住宅建築時の部品の流通工程に限らず、住宅建築後の部品のメンテナンスやリフォーム時にその情報を有効活用することが可能になります。
こうした情報を関連業者が共有できる仕組みが整えば、業界全体のトレーサビリティ性が飛躍的に向上し、住まいの安全に大きく貢献することが出来るでしょう。
■稀少品、高額商品
近年、メルカリなどのフリマアプリの台頭によって、稀少品やブランド品や高級時計などの中古品を扱うリユース市場が拡大しています。
しかし市場が拡大していく中で、問題となっているのがニセモノです。
プロの業者が店舗で販売する際には、鑑定士が入念に検品する為、ニセモノの流通は防げますが、消費者間同士のフリーマーケットではそうはいきません。
そこで期待されるのがRFIDです。
こうした商品は1品当りの単価が高額なので、ICタグ1枚当たりの単価は全く気になりません。
ICタグに鑑定情報やシリアルNO等を記録しておくことで、商品単品のトレーサビリティ性が向上します。
*** RFIDの導入はもう少し先かなと思う業界 ***
続いてRFIDの導入はもう少し検討が必要かなと思う業界をご紹介します。
■スーパー&コンビニ
2025年までに、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズは、全ての取扱商品(推計1000億個/年)にICタグを貼付けて、商品の個品管理を実現することを目標に掲げています。
しかし、近所のスーパーやコンビニでICタグが付いているのを見たことはありません。
またお弁当や食品が多い為、特殊な条件に対応出来るICタグが必要になります。
レンジ温め、金属容器、冷凍・チルド等、こうした条件に貼付けを考えると通常のICタグでは不可能です。
特殊な加工が必要になる為、ICタグの単価は高額になってしまいます。
しかし、商品単価が低い為、高価なICタグを貼り付けることは難しいです。
こうした技術的課題がまだまだ高いハードルとして残っている為、普及にはもう少し時間がかかりそうですね。
■卸売業
卸売業は多岐に渡る仕入先から様々な商品を仕入れる為、RFIDのソースタギングが難しい業界と言えます。
そうなると、自社でRFIDタグを貼り付けることになりますが、中間流通という立場上、メーカー側にも小売り側にもRFIDの仕組みがないと、自社の物流のみで活用となってしまい、費用対効果は見込めません。
メーカーではない為、製造情報をICタグに書き込むこともできませんし、小売業でもない為レジでの活用も出来ません。
よって、スーパーやコンビニなどで普及が進み、ICタグが全ての一般流通商品にソースマーキングされるようになるまでは待ちになるでしょう。
とはいっても、特殊な機器を取り扱ったていたり、特定の商品のみを取り扱っているような業態の場合は話は別です。
取り扱うアイテム数や仕入先数、商品特性にもよりますが、日用雑貨等の一般流通商材を取り扱う卸売業では普及はまだまだ先と言えるでしょう。
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