広島市に本社を置くオタフクホールディングスは大正11年に酒や醤油などの卸小売業の「佐々木商店」として佐々木清一氏によって創業された。
同社の社名やロゴに使われている「お多福」の顔。この「お多福」をブランドマークとしている理由について同社のホームページには下記の様に紹介されている。
日本古来のユニークな顔として“ひょっとこ”と並び称される“お多福”の顔は、決して美人の相ではありません。
しかしいつも笑顔を絶やさない(細い目)、謙虚な姿勢(低い鼻)、 ひかえめで無駄口を言わない(小さな口)、聞く耳を持つ(大きな耳)、心身ともに健康(ふくよかな頬)、聡明で賢い(広い額)は心の美人の象徴を表しています。
味は基本味(甘酸塩苦旨。中国では甘酸鹹辛苦)からなり、社名は人生の甘いも酸いも苦いも知り尽くした女性に広く愛されることを願ったものです。
この願い通り、女性の仕事場である台所で広く愛される商品を開発し続けている同社の売上は堅調で、それに比例して物量も年々増えている。そんな物流の仕組みを同社ではどうITで構築しているのか。
そして、日々要求の高まる物流ニーズを受け、当時と今でどう現場が変化していったのか。
ロジスティクス部物流サービス課の上杉氏と山本氏のお二人に話を聞いた。
お二人の話しを聞いてみると常に目の前の課題を淡々と仕組みで解決していくという印象を受けた。
課題を放置せず、ピンチをチャンスに変える姿勢。
先日、オタフクホールディングスの佐々木 茂喜社長が広島の某経済誌で「ブランディングにこだわるのを止めた。
良い時も悪い時も愛される広島カープの様な会社になりたい。」と語られているのがとても印象に残っている。
こうした現場レベルでの妥協しない姿勢が誰からも愛される商品を生み出し、同社の躍進に繋がっているのだと感じた。
――オタフクさんとはもう10年以上、長いお付き合いを頂いています。
その間、物流システムや運賃計算システム、パレット管理システムなど沢山のシステムの構築をお手伝いさせて頂き、大変感謝しています。
――なぜ今更、導入取材なの?と思われていると思いますが。
実は弊社の他のお客様からよくオタフクさんの導入事例を聞かせて欲しいと頼まれるんです。
上杉そんなことはないでしょう。たいしたことはしていませんよ。(笑)
――いえ。今やオタフクさんの名前は全国区です。十年位前、仕事で東京や大阪に出張した際、オタフクさんの名前を出すと以外に知らない人が多くて寂しい思いをしたのを覚えています。
今では、全国どこに行ってもみなさん知っていますよ。
――少し昔の話で恐縮ですが、まずは物流システムを導入した当時のお話をお聞かせ頂けますか。
今から10年位前のことだったと記憶していますが。
山本もうそんなになるんですね。(笑)でも当時の苦労は今でもよく覚えていますよ。
上杉当時は、生産したものを在庫に入れるのは、次の日の朝、パソコンに手入力していました。
とにかく在庫が正確にわからなかった。
出荷に関しても、商品の在庫が無いものでも出荷指示が出てしまっていました。
”在庫があるだろう”ということで出荷指示がかかっていました。
だから、実際にいざ出そうと思ったら在庫がなかったということも日常茶飯事でしたね。
リアルタイムで在庫が把握できてなくて、作った次の日に事務方が製造伝票をもとに
「昨日これだけ作りました」と報告していましたね。
山本あくまでも次の日の生産出来高を物流側の在庫としていましたから。物流側では何もチェックしていなかったんですね。工場から上がってくる数字が100%で、製造伝票が頼りでした。
今みたいにラベル(製造指図に紐着いたバーコードラベル)が無かったので、入庫漏れとか過剰入庫も頻繁に発生していました。製品が完成して出てくる所に物流の担当者がずっと張り付いてるわけにもいかないので、次の日に製造から上がってくる生産実績と入庫の出納帳でなんとか照合していました。
そこで足りる、足りないっていうことを毎日やっていたので、とても苦労していました。
上杉それを解消する為に出来たものから即入庫するようにしなければいけないということになりました。それをどう実現しようかということで、じゃあハンディーターミナルで出来たものから在庫登録しようということになったんです。
――今は全ての商品に物流用のバーコードラベルが貼られていますね。そのラベルは当時はなかったと思いますが、そのラベルも物流システムの導入と同じタイミングで貼られるようになったんですよね。
上杉はい。外箱に印字されている商品のITFバーコードだけだと賞味期限の管理が出来ません。
ですから、基幹システムの製造指図データ番号が印字されたバーコードラベルを貼る仕組みを構築したんです。当時は賞味期限の管理というよりは製造年月日で管理を行っていました。
今ほどお客様も賞味期限に対して厳しくなかったですからね。
――ハンディターミナルを導入されてどのような効果がありましたか?
上杉ハンディターミナルを使うようになって一番助かっているのは、賞味期限の管理がしっかりと出来るようになったことですね。基幹システムとも連携してそこが管理できるのはとても助かっています。今もしそこができていなかったら大変なことになっていたと思います。
目視で先入れ先出しのチェックなんて出来ないですからね。
山本あとやはり在庫がリアルタイムに管理できるようになったのは大きいですよ。
入庫したら5分後くらいには基幹システムの在庫に計上されていますからね。現在の基幹システムは在庫ありきで動いています。システム在庫で数が足りなければ出荷伝票が打てません。
昔はお客様の言う数量とおりに受注を打って、出来高が多ければ足りるけど、少なければ足りない。そしたら残りのお客様に電話かけて、「ちょっと足りないんですが・・」って数を調整したりしてました。(苦笑)
その負担がなくなったのは嬉しいです。お客様に対しても後手後手にならずに、事前に在庫情報が流せるっているのはお客様にとっても私たちにとってもとてもメリットがあります。
上杉やっぱりお客様に迷惑をかけたくないですから。
山本在庫計上が遅れると事務処理も後手後手、FAX、電話、EDIなど注文全てに影響してきます。
上杉そんなことをしているので在庫が合うはずがありません。
山本あとは、パレット、ケース、バラで分けてハンディターミナルで入庫登録出来る機能がとても便利です。
それに応じて入庫すれば、数字通り在庫が上がってきますので。それまでは、これはバラがいくらで、ケースがいくらでって換算してましたから。
また賞味期限の逆転は今ではほぼゼロになりました。
ピッキングリストが賞味期限で先入れ先出しされて出力されるので、作業者は何も考えずに指示された通りに作業を行えばいいからです。そこも大きなメリットです。
上杉不思議と同じお客様でよく日付が逆転するんですよね。(苦笑)
私も何回も謝りに行ったことがあります。
山本すごく楽ですよね。賞味期限が短い商品なんかは、一度間違って出しちゃって持って帰ると次に買ってもらうところがなくなってしまいます。
何十年も前だったら多少古くても買ってくれるお客様もいたんでしょうけど。
――棚卸は現在どのような運用にされていますか?月に一回されていますか?
上杉今は毎月一括棚卸をする必要はなくなりました。システム在庫と現場の在庫がしっかりと合っているからです。
今やっているのは頻度は非常に少ないですけど、その日その日の出荷で指示された賞味期限の在庫が現場に無いことが稀にあるんです。その場合は、その異常のあった商品についてすぐに全て実棚でチェックしています。早く原因を突き止めてシステム在庫を現場の在庫に合わせるようにしています。
山本一斉棚卸は半期に1度に行っています。ハンディターミナル導入当初は毎月一回棚卸をしていました。
しかしヒューマンエラーがどうしても発生して、動いていない商品の実棚を取って間違ったりしていましたから。だから今では動いた商品のみを半期に一度の棚卸で取っています。
――パレット管理システムについて少しお伺いできますか?
山本はい。工場の生産用にパレットが返却され、外部倉庫用の積み込みもするので、自社パレットが色々な場所で滞留してどこに何枚あるのかわからなくなっていました。
また毎年パレットの紛失による損失もバカにならない金額でした。
パレット管理システムを導入してからは入庫時も出庫時もハンディターミナルでパレット枚数を入力してパレットの受渡し伝票を出しています。
これも管理が大分楽になってほんと助かっています。
上杉このシステムもハンディターミナルでパレットの出し入れを入力するだけの簡単な仕組みだけどとても効果が出ています。それまでは、どこにどのパレットが何枚あるかサッパリ分からなかったんです。
今どこのデポにどれ位あってがすぐに分かる。製品在庫と差し引きして、空パレが何枚あって、何枚足らなくなるからすぐにどこからどこへ返さないといけないとか、そういったことが出来るので大変助かっています。
――他所の会社でもそのようなシステムでパレット管理されているんですか?
実は我々もこのようなシステムを構築したのはオタフクさんが初めてだったので。
山本自社パレを使っているメーカーさんであれば、似たような仕組みがあるんじゃないんですか。
大手メーカーさんの場合はレンタルパレット使っている会社さんが多いのでこういった苦労もないのかもしれませんね。他者のその辺の情報は実は私達もよく知らないんです。
――それでは最後に運賃自動計算システムについて聞かせて頂けますか?
上杉これも便利ですね。とても助かっていますよ。
昔、ある運送会社の運賃の請求金額が大きく違っていたことがありました。これもすぐに手を打つ必要がありました。
現在は日々の出荷実績データを元に運賃計算データを弊社から各運送会社さんにEDIの仕組みで毎日送っています。それを各運送会社さんがチェックして、異常があればすぐに連絡がきます。
システムを導入する以前は、一カ月で締めた請求書が運送会社さんから来て、その請求書をそのままスルーするわけにはいかないので、運送会社ごとに何件か抜き打ちでチェックしていました。
運送会社さんとは長年信頼関係でやっていましたが、やはりどのくらいの運賃かかっているかを知る必要があるということで開発しました。運賃のシミュレーション機能も大変役に立っています。
――今後は物流の方でシステム投資は考えられていますか?
上杉今後は外部倉庫への移動についてもハンディターミナルで登録して、基幹システムに取り込みたいです。
現状はそこはまだ移動伝票で行っています。
あとは、自動入庫を検討していきたいですね。物量も増えて人が入庫登録する作業が追い付かなくなってきています。
――本日貴重なお時間をいただきありがとうございました。
取材・文/東 聖也・小西 良祐 撮影/岡本 博