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*** 宅配は上流の流れに下流がついてこれていない氾濫状態 ***
宅配の再配達問題が利用者側のモラルの問題が根本要因ではないことは以前の章で書いた通りです。
40年間変わらない宅配のビジネスモデルが、近年の社会構造の変化に対応し切れなくなったことに要因があります。
詳細は本稿第200回の『宅配60億個時代の到来!運べない時代に企業が取るべき宅配利用戦略とは!?(1)』をご参照下さい。
この問題の解決には、宅配というビジネスモデルの設計の見直しを含めた大改革が必要になります。
また、宅配のサプライチェーンを河川に例えると、上流の流れに下流の流れがついていけず河川が氾濫している状態だと言えます。
真空管でコンピュータの演算装置が開発されたのが1940年代です。
その後に、真空管より小型で消費電力の少ないトランジスタが開発されました。
トランジスタの開発によりコンピュータは小型化・高速化へと突き進みます。
1960年代にはIC(集積回路)が開発され、さらにLSI(大規模集積回路)、VLSI(超LSI)へと進化しました。
小型化・高性能化を追求した結果、モバイル端末が誕生し、一人最低一台はマイクロコンピュータ(マイコン)が組み込まれた端末をポケットに入れて持ち運びするようになりました。
コンピュータ端末の進化と合わせる形で通信技術も急速に発展してきました。
1969年に米国防総省による「ARPAnet」の実験が開始されたのをきっかけに、コンピュータどうしを繋ぐインターネットが生まれ、情報革命をもたらしました。
情報革命により人類は距離的な制約は関係なく、世界中の情報に瞬時にアクセスする手段を手にし、膨大な情報の伝達が経済や生活を支えています。
こうしたインターネットや通信環境、ICTやモバイル端末の急速な技術の進展により、膨大な量のオーダーを発生させ、それを高速に処理できてしまう仕組みが上流の流れを激流に変えてしまいました。
しかしその反面、下流はというと、昔ながらのアナログによる配達手段しかなく、大きな技術革新はありません。
最新技術への投資がサプライチェーン上流に集中してしまっている為、河川が氾濫するのは当然です。
*** 自らの首を絞める宅配業者 ***
宅配業界では、再配達の問題や多岐に渡る顧客ニーズの対応によりサプライチェーン全体のネットワークに負荷がかかり、崩壊状態になっているという見方が強いのですが、宅配業者自らが苦しい状況に追いやっているという例もあるようです。
以下は横田増生著『仁義なき宅配』からの内容をご紹介します。
著書自身がヤマトや佐川の過酷な現場に労働者として潜入し、その体験談をルポした内容です。
羽田クロノゲートで労働者として働いた横田氏は、通販の荷物の箱によく印刷されている「ドライバーの皆様へ」という文章を見て違和感を覚えたそうです。
食材通販大手の箱にこんな文章が貼られていました。
「運送会社ドライバーの皆様へ」(必ずお読みください。)
いつもありがとうございます。この箱の中にはお客様にお届けする大事な食材が入っています。
取扱いには十分注意し、また指定時間には必ずお届けするようにお願いいたします。
このような文章もあれば、別の食品会社の場合には定番の「天地無用」や「ワレモノ注意」などの他に、「山梨のぶどう・横積・横かかえ厳禁」、「ワレモノにつき、下積厳禁」など、様々なバリエーションのシールが貼られています。
そして、横田氏が驚いたのがこうしたシールの多くは荷主企業が勝手に作ったものではなく、ヤマト運輸が作って荷主に貼ってもらっていたという点です。
発送店の営業者のサービス精神からこうしたシールを作って貼ってもらっているようなのですが、横田氏が実際に働いた仕分け現場では、こうした文章やシールは非常に不愉快であったと言います。
1つのラインで日に600個から1000個の荷物を仕分ける為、時間的、精神的余裕は殆どない中で、横積みもダメ、横かかえもダメなどと細かく作業を指示されると、非常に作業が煩雑になり手間暇がかかってしまいます。
ヤマト運輸が作業現場に重視している「生産性」という指標もあり、一つでも多く仕分しようと必死に作業しているときに、先の「ドライバーの皆様へ」というような文章を目にすると、神経を逆撫でされたような気になったそうです。
シールについても同様で、現場の作業者は「私の出荷したこの荷物だけは特別なので、大切に運んでください」という無言のメッセージを受け取り、決して良い気持ちで作業は出来なかったようです。
クロノゲート全体での日の取扱い個数は50万個を超える為、荷物一つ一つの個性は消えていき、荷物の背後にある物語は消失してしまいます。
一つ一つの荷物に送る側・受け取る側の気持ちがあるのは理解できても、それを十分にくみ取って作業していたのでは、とても作業が終わりません。
そうした現場では、箱に貼られた文章やシールを見ると「大切に扱おう」という意識よりも「この忙しいのに何を言っているんだ!」といった殺伐とした気持ちがこみ上げてくるそうです。
横田氏が実際に現場で労働者として働いてみたからこそ分かる真実が、ここに書かれてあると感じました。
*** 時間を守らない荷主企業 ***
以前も述べたように宅配便の利用の大半は企業発です。
企業は契約している宅配キャリアと荷物の集荷時間を予め決めています。
その決められた時間に、宅配ドライバーが集荷に来てくれるのですが、当日の出荷分が既に準備されて、スムーズに出発できることは少ないようです。
ドライバーは分単位(下手すると秒単位)で各企業に集荷に回ったり、配達したりしますが、そうした中で1つの荷主が集荷時間を守らず、15分以上ドライバーを待たせることが多いのが実状です。
ドライバーからすると、次の集荷時間もあるし営業所に戻れば積卸や仕分け作業など次の作業も控えているしで、気が気ではないのです。
「早くしてもらえませんか」という要求に対して、荷主から返ってくるのは「10分位待ってくれてもいいじゃない。不親切だな。」と言った心無いセリフです。
筆者の知人が広島市内のセブンイレブンでパートで働いているのでが、こんな話を聞きました。
毎日そのセブンイレブンに、昼と夕方のほぼ決まった時間に来店する佐川急便のドライバーがいるそうです。
そのドライバーさんはいつもお昼に来店した際はおにぎりを3個、夕方に来店した際はからあげ棒を2本、買って帰るそうです。
いつも同じ商品しか買われないので、たまには他の商品もと思って知人が進めたところ、そのドライバーさんは「時間が無いので、私はこれでいいんです。」と言って丁重に断られたそうです。
みなさんの元に集荷に来てくれるドライバーさんは、自分の食事の時間も削って分単位で働いてくれています。
「10分位待ってくれても・・・」と言ったセリフはとても言えないですよね。
*** 最後に ***
運べない時代に企業が取るべき宅配利用の重要な戦略の一つは「宅配業者の良き理解者となり、協力者になる」ということです。
冒頭で述べたように、上流はICTや技術の革新により高度化され、より大量の荷物を流してきます。
しかし下流では、まだまだアナログドライバーがおにぎりを頬張りながら、汗水垂らして運んでくれています。
ドライバーは全て人間です。
こうしたドライバーの立場になって、良き理解者となれば、様々な問題が解決されると信じています。
ドライバーが一番困っている課題の一つが荷主が集荷の時間を守ってくれないということです。
物流の下流は、こうしたアナログ部分での荷主と宅配業者のコミュニケーションの不和により様々な不効率が発生しているのです。
下流に必要なのは技術の革新よりも、個人や中小企業などのフラットで分散化した参加者によるWIN-WINの宅配ネットワークの構築に外なりません。
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