人口減少と高齢化による労働力不足が物流業界の大きな課題としてあげられます。
しかし、こうした課題はこれまでのビジネスモデル構造を改革したり、テクノロジーが大きく発展するビックチャンス
でもあります。
このチャンスを活かした大きな変革は2つあると筆者は考えています。
1.シェアリングビジネスによる旧ビジネスモデルからの脱却と変革
2.物流を起点としたロボットやAIを活用したテクノロジーの発展
1つ目のシェアリングビジネスについては、ネットを利用したシェアリング配送がイメージしやすいでしょう。
ドライバーやトラックの空き状況をネットで共有し、荷物を運びます。こちらについては前回のメルマガでウォルマート
がウーバーやリフトなどのネット配車サービスを利用した事例をご紹介していますので、そちらをご参考下さい。
http://www.inter-stock.net/column/no153/
2つ目がロボットやAIなどのテクノロジーの発展です。こちらについてはみなさんも周知のとおりで、今更説明するまで
もありませんが、筆者がお伝えしたいのは、物流の労働力不足の課題が世界のテクノロジーの発展を推し進めるとい
う点とその根拠についてです。
急成長を続けるEコマースを足元から支える物流が、今後抱えていく構造的な課題として、労働力は不足していく一方で、
運ぶ荷物は増えていくということです。
そうした危機感を背景に、大手Eコマース専用事業者を筆頭にロボットやAIの活用が進んでいます。
物流現場というのは、完全なる労働集約型です。その中でも特に人手がかかるのがピッキング作業です。
棚に様々なアイテムが格納されていて、それを個人や店舗のオーダーに対してパートさんが広大な倉庫内を歩き回って
商品をピックアップする作業は時間も手間もかかります。
今では当日配送、翌日配送が当たり前です。注文した商品が一週間かかるとなるとキャンセルされてしまいます。
当日、翌日に出荷する為には倉庫に在庫があり、注文が入ってからすぐにピッキングして箱詰めされる状態にならなけ
ればなりません。
そうしたオペレーションを支えるべく、自動倉庫やコンベアなどで自動化が進んでいます。これまでは人がテープを貼って
手作業で作っていた梱包用のダンボールも最近では自動的に作成されます。どんどん自動化が進む物流倉庫のオペレ
ーションですが、一番時間のかかるピッキング作業の自動化はまだあまり進んでいません。
大手のEコマース事業者でピッキングをロボットの活用で補完しているケースもありますが、まだまだ人がピッキングした方
が早いのが実状です。
しかし、Eコマースの場合、昼の注文よりも、夜の注文の方が多いので、それに答える為には人だと限界があります。
人でやるとなると、夜のうちに溜まった注文を日中に一斉にさばくといったことになりますが、ロボットであれば、注文が入る
たびに24時間365日安定してピッキング作業を行えます。
しかし、ピッキング作業については、時間当たりの生産性は、ロボットはまだ人には適わないのです。
あらゆるものを広大なスペースから見つけて、大小異なる大きさの様々な商品を個別にピックアップしなければならないとい
った業務は実は物流以外にほとんど存在しません。
それを自動化する為に世界中の企業が多額の投資で研究開発しています。
ここで培ったノウハウは他業界でも必ず活用されます。
今後物流が主導となってテクノロジーを発展させていく単純明快な根拠です。
*** 物流ABC(活動基準原価計算) とは? ***
企業のロジスティクスを語る上で、2大コストとされるのが、「物流コスト」と「在庫コスト」です。
この2大コストをロジスティクス・マネジメントの観点で考察します。
物流コストにメスを入れるには、物流コストの把握が重要になりますが、今回はその算定方法で有用な「物流ABC」について
解説します。
物流ABCの「ABC」は”アクティビティ・ベースド・コスティング”の略称です。日本語にすると「活動基準原価計算」となります。
名前からよく「売上分析などで用いるABC分析みたいなもの?」と勘違いされますが、全く違います。
物流の活動(アクティビティ)をベースにして原価を把握する手法です。
物流ABCを自社に導入することで、物流コストを改善できると勘違いされている方もいますが、物流ABCそれ自体にコストを
削減する効果はありません。
得られる効果はあくまで物流活動の”定性化”と”定量化”であり、そうすることで物流コストの可視化(見える化)を可能にする
だけです。ここについては勘違いのないようにご注意ください。
*** STEP1 まずは業務をアクティビティ(活動)ごとに分解しよう ***
物流ABCを導入する最初のステップは物流活動における活動や作業を明らかにすることです。
この活動や作業のことを”アクティビティ”といいます。
アクティビティを明らかにする上で注意が必要なことがあります。
例えば”ピッキング”というアクティビティについて考えてみましょう。
Aという顧客の場合、パレット単位で納品をする為、フォークリフトでピッキングを行います。
Bという顧客の場合、ケース単位で納品をする為、人の手でピッキングを行います。
どんな方法でピッキングを行うかは、顧客によって異なります。つまり顧客によって同じ物量を作業する場合でもコストが違ってき
ます。物流ABCは顧客毎にコストを把握することも狙いの一つなので、こういった場合は同じピッキング作業でもアクティビティを
分けて設定する必要があります。
「パレットピッキング」「ケースピッキング」「ピースピッキング」といった具合で区分けしましょう。
*** STEP2 アクティビティ別に作業コストを算出しよう ***
STEP1でアクティビティを定義したら、次に行う作業はアクティビティ別の作業コスト算出です。
ここでも1点注意が必要です。アクティビティのコストを算出する際に、人件費以外の燃料費やリフトのリース代、消耗品などを加えて
計算しているケースを見かけますが、これはあまりお勧めできません。
というのも、コストで一番インパクトが強いのは人件費です。そこの算出をしっかりと行うことが先決であり、その他の費用については
あまり重要視しません。人件費の把握がしっかりと行えて、これ以上のコスト削減が難しいといった場合などであれば構いませんが、
これから導入を検討される場合であればまずは必要ないでしょう。
アクティビティ別の作業コストの算出方法は、月間の総人件費に各アクティビティの作業時間構成比を掛けます。
例えば月間の総人件費が100万だとして、パレットピッキング作業の時間構成比が40%だとすれば、パレットピッキング作業のコストは
40万円ということになります。
この計算を全てのアクティビティに対して行って下さい。
*** STEP3 アクティビティ単価を算出しよう ***
アクティビティ別に作業コストの算出を行った後は、各アクテビティの単価を計算します。
アクティビティ単価はその作業を1単位行うのにかかるコストになりますので、計算は単純です。
アクティビティ単価=アクティビティ費用 ÷ 作業処理量
物流コストを正しくマネジメントしていく上で、このアクティビティ単価は非常に重要な役割を持ちます。
次回はここで算出されたアクティビティ単価をベースに、顧客別の物流コストを評価する方法について解説します。