勝ち続けるための、物流DXロードマップ戦略フレームワーク ~第八回~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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勝ち続けるための、物流DXロードマップ戦略フレームワーク ~第八回~

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<目次>
1.なぜ今、データドリブン設計が必要なのか

2.ユーザー主導のデータドリブン設計

3.データドリブンシナリオによる物流DX実践

4.おわりに

 

データドリブン企業には、経営から現場までデータを活用した事業運営が不可欠です。私たちが掲げている企業ミッション「データドリブン物流」も、物流データを駆使し、物流の効率化、品質向上、サービスレベル向上を目指しています。
しかし、多くの企業が直面する課題は「データを具体的にどう活かすのか?」という点です。物流の現場にはWMSなどに様々なデータが蓄積されています。顧客データ、出荷データ、在庫データなどの構造化されたものから、ネット上のビッグデータのような非構造化データまで多様です。これらのデータを「活かす」とは具体的にどういうことでしょうか。私たちの答えは、「データをアクションに変える」というものです。そして、データからアクションへの移行には、重要なプロセスが介在します。それが「意思決定」です。質の高い意思決定によって、効果的なアクションが実行されるのです。この意思決定プロセスを仕組み化することこそが、真のデータドリブン企業への最初の一歩なのです。

これまで物流DX戦略フレームワークとして、「戦略的基盤」「VCAP分析モデル」「ユーザー中心のDXアプローチ」について解説してきました。今回は、このフレームワークの核となる「実行戦略」のうち、特に重要な「データドリブンの設計」について深堀りします。

2025年3月16日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

1.なぜ今、データドリブン設計が必要なのか

イギリスの歴史家であるアーノルド・トインビーは、挫折した文明の共通項に「自己決定能力の喪失」をあげました。いかに大国であっても、自分で自分のことを決められない国は衰亡あるいは滅亡につながるというのです。

物流は今、ドライバー不足、2024年問題、環境規制強化、eコマースの急成長など、様々な課題が山積みですが、このような環境下では、「勘と経験」だけに頼った意思決定では対応しきれません。誤った意思決定もドインビーの「自己決定能力の喪失」につながります。変化のスピードと複雑性が増す中、データに基づく科学的アプローチが不可欠となっているのです。

これまで事例で取り上げた守山乳業もこの変化のスピードに柔軟に対応するために、長年アウトソースに頼っていた物流を、内製化に踏み切ったのです。それは単に内製化することでコスト削減を目的としたのではなく、「物流の意思決定を自社がコントロール可能にする」ための決断であったと言えるでしょう。

さらに、テクノロジーの進化により、IoT、AI、クラウドなどのツールが普及し、これまで捉えられなかった物流プロセスのデータが取得可能になりました。しかし、多くの企業ではデータは蓄積されるものの、それを活かし切れていないという課題があります。

2.ユーザー主導のデータドリブン設計

物流DXにおいて最も重要なのは、「ユーザー主導」であることです。技術ありきではなく、現場のユーザーが主役となり、自らの課題解決やニーズを中心に据えたデータ活用が大切です。今回はユーザー主導によるデータドリブン設計のフレームワークを2つご紹介します。

まず一つ目は「データドリブンフレームワーク」です。以下の図のように、データ分析 → 意思決定 → アクション → 成果・結果の4つを整理します。
このサイクルをユーザー視点で回すことで、データが実際の業務改善につながります。例えば、配送データの分析から配車の最適化を意思決定し、ルート変更というアクションにつなげ、燃料コスト削減という成果を得るというプロセスです。実際の守山乳業の事例で見てみましょう。


納品地域、商品の重要や物量、各運送会社別の運賃コスト、時間制限などのデータ要素を構造化されたデータベースに格納し、配送手段、配送運送会社、
配送バッチの意思決定を行いました。意思決定の結果はLFA上の「配送管理画面」に表示され、最終的に現場責任者が確定をすることで、アクションに移行します。運送会社に配送指示、WCSに確定された出荷指示を流すことで、運送会社毎に自動倉庫から製品が自動出庫され、送り状を発行して配送を実行します。このデータドリブン設計により、守山乳業では、物量変動や運送会社の荷量バランス調整を誰でも容易に操作して実行することが可能になったのです。


3.データドリブンシナリオによる物流DX実践

データドリブンフレームワークによって、設計が完成したら、さらに詳細な実装シナリオを描きます。問題を定義 → 課題を整理 → 意思決定の促進 → データ分析の4つのシナリオに整理します。このプロセスを加えることにより、「何のためにデータを活用するのか」という目的が明確になり、より実効性のあるデータ活用が可能になります。システム要件を整理する上でも、このシナリオ分析は大変役に立ちます。

守山乳業の事例をより体系的に理解するため、このデータドリブンシナリオのフレームワークで整理してみましょう。このフレームワークを通じて、ユーザー主導による物流DXの実効性をさらに高めることが可能になります。

1. 問題を定義
守山乳業の課題は、外部委託先に依存した硬直的な物流運用でした。それによって、物流量の変動や運送会社間の荷量バランスに柔軟に対応できない状況が続き、現場レベルでの意思決定が困難となり、迅速な対応ができない環境だったのです。物流データを活用した柔軟で効率的な運用体制、現場ユーザーが主体的に意思決定できる仕組み、2024年問題を前にして変化する物流環境に迅速に対応できる体制構築が急務でした。

2. 課題を整理
納品地域、商品の重要や物量、各運送会社別の運賃コスト、時間制限などのデータ要素を特定し、これらのデータを構造化されたデータベースに格納することで、データ間の関連性と優先順位を明確化する必要がありました。LFA上の「配送管理画面」を中心とした意思決定システムの構築、WCS(自動倉庫を制御するシステム)との連携設計、現場責任者が確定できる権限設計の整備が課題となりました。

3. 意思決定の促進
意思決定を促進するために、配送手段、配送運送会社、配送バッチの決定プロセスを明確化し、データに基づく意思決定の基準とルールを設定しました。
また、現場担当者が自律的に判断できる範囲と権限の設定も行っています。システム面では、データの視覚化と直感的に理解できる配送管理画面の設計を行うことで、「誰でも容易に操作して」実行できるユーザーインターフェースを実現しました。

4. データ分析
物量変動に応じた運送会社の荷量バランス分析、コストと納期のバランスを最適化するための分析モデルの構築、アクションの結果を測定・評価するための分析フレームワーク設計などを実施しました。


4.おわりに

データドリブン物流の実効性を高めるための実践ポイントはユーザー中心のデザイン思考です。今回ご紹介した2つのフレームワークはそれをサポートするための有効なツールです。データは意思決定の支援ツールとして位置づけることが重要です。ただし、最終判断は現場責任者の知見と経験を活かす設計も取り入れることを忘れないようにしましょう。人間とシステムの協働による最適化を実現するのです。守山乳業の事例はまさにそれを体現したベストプラクティスと言えるでしょう。

このデータドリブンシナリオのフレームワークを通じて、守山乳業の物流DX事例はより体系的に理解でき、他企業への適用可能性も高まります。ユーザー主導のデータ活用により、変化する物流環境への対応力を獲得し、競争優位性を構築することが可能となります。

次回は、物流DX戦略ロードマップ最後のステップ「モニタリングと継続的改善」について学びます。お楽しみに!