危機に瀕するイノベーション!持続可能な未来に向けた企業の役割とは?|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

倉庫

危機に瀕するイノベーション!持続可能な未来に向けた企業の役割とは?

L

エデルマン・トラストバロメーターは、世界的なコミュニケーション会社であるエデルマンが毎年実施する信頼度調査です。この調査は、政府、企業、メディア、NGOなどに対する人々の信頼度を測定し、社会の信頼の動向を分析します。最新の調査は、世界28カ国を対象に、2023年11月3日から11月23日にかけて実施され、急速なイノベーションが企業や政府への信頼にどのような影響を与えているかが明らかにされました。この調査は、社会の安定性や政治的二極化に関する洞察も提供しています。

イノベーションは、人類の進歩を加速させる原動力であり、新たな価値を創造し、社会の課題解決に貢献する可能性を秘めています。しかし、その一方で、イノベーションは既存の秩序を揺るがし、新たな社会問題を引き起こす可能性も孕んでいます。企業は、イノベーションを推進する上で、そのメリットとデメリットを深く理解し、社会全体の持続可能な発展に貢献できるような取り組みを進めることが求められています。本稿では、イノベーションが企業や社会に与える信頼の変容について紹介しつつ、経営者やリーダーがそれにどう関与すべきかを考察したいと思います。

2024年12月15日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)


<目次>

1.24年の調査から見えてくる信頼の変容

2.社会におけるイノベーションに対する分断

3.失いつつある信頼

4.経営者やリーダーが社会における変化を管理する

1.24年の調査から見えてくる信頼の変容

この調査は今年で24年目を迎え、企業、政府、NGO、メディアの4つの主体に対する信頼を継続的に調査しています。過去24年間の調査結果から、人々の信頼が大きく変動し、社会の分断が深まっている様子が浮かび上がってきました。まず、2005年頃からは、権力者から自分と同等の人々への信頼の移行が見られました。これは、SNSの普及などにより、情報へのアクセスが容易になり、人々がより多様な意見に触れるようになったことが主な要因と考えられます。しかし、2016年になると、所得格差の拡大に伴い、人々の間の信頼の格差が大きく広がりました。経済的な不安定さが増す中、人々は自分と異なる立場の人々に対して不信感を抱きやすくなったのです。さらに、2018年頃からは、AIによるフェイクニュースの拡散などにより、「誰を信じていいのか」という不安が広がり始めました。この不安は、今後も根深く人々の心に残り続けるでしょう。興味深いことに、2021年には、最も信頼できる主体として企業が挙げられるという結果が出ました。
これは、コロナ禍において、企業が人々の生活を支えるために様々な取り組みを行ったことが評価されたためと考えられます。そして、最新の2024年の調査では、危機に瀕するイノベーションがテーマとして取り上げられました。これは、急速に変化する社会の中で、生成AIなどの爆発的な普及によって、イノベーションがもたらす影響に対する人々の不安が増大しているためです。

2.社会におけるイノベーションに対する分断

「2024 エデルマン・トラストバロメーター」の調査対象とサンプル数は以下の通りです。

対象国:世界28カ国(アメリカ、イギリス、中国、日本など)
サンプル数:32,000人以上
各国サンプル数:1,150人以上
調査方法:
オンライン調査:インターネットを通じて実施された調査です。
代表性:各国の年齢、性別、地域、民族・国籍などを考慮し、一般の人口構成を反映するようにサンプルが選ばれています。

下の図は、近年世界中で急速に進んでいるイノベーションが、人々の間で賛否両論を引き起こし、社会が大きく分断されている状況を表しています。

(出典:2024 エデルマン・トラストバロメーター)

2021年、コロナワクチンの開発により、短期間で14億人もの人々がワクチン接種を受けました。これは人類にとって大きな進歩でしたが、同時にワクチンに対する安全性や有効性に関する懸念も広がりました。2022年には米国インフレ抑制法が成立し、クリーンエネルギーへの投資が加速しました。しかし、この法案は、既存の産業構造を大きく変える可能性があるため、反対意見も根強いです。2023年、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場は、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めています。一方で、AIの倫理的な問題や、雇用への影響など、新たな課題も浮上しています。またCOP28において、各国が化石燃料から徐々に離れることに合意しました。これは気候変動対策における大きな一歩ですが、経済への影響や、エネルギーセキュリティの問題など、解決すべき課題は山積みです。


3.失いつつある信頼

新しい技術やサービスの開発は、経済成長や社会問題の解決に貢献する可能性を秘めている一方で、既存の価値観や生活様式を大きく変え、社会不安や格差を拡大させる可能性も指摘されています。また、インターネットの普及により、情報が氾濫し、真偽不明な情報が拡散されやすくなっており、この状況は人々の判断を誤らせ、社会の分断を深める要因となっていることも見逃せません。

人々は、政府や企業、メディアなど、様々な主体に対する信頼を失いつつあり、信頼回復のためには、透明性のある情報公開や、市民参加型の意思決定プロセスが求められます。
イノベーションは、新たな富を生み出す一方で、既存の格差を拡大させる可能性もあり、格差がこれ以上拡がらないようにするには、教育の機会を均等にすることや、再分配政策の強化が必要しょう。また、AIや遺伝子編集などの技術は、人類の未来を大きく変える可能性を秘めていながらも、常に倫理的ジレンマが付きまといます。調査結果においても、AIと遺伝子ベース医療については、拒否する意見の方が多い結果となりました(下図)。

(出典:2024 エデルマン・トラストバロメーター)
これらの技術の開発と利用にあたっては、倫理的な議論を深め、適切な規制を設ける必要があります。気候変動やパンデミックなど、グローバルな課題は、単一の国家だけでは解決できません。国際協力の強化が不可欠です。社会におけるイノベーションは、人類の進歩に不可欠な要素ですが、同時に大きな課題も孕んでいます。人々は、イノベーションのメリットとデメリットを冷静に評価し、持続可能な社会の実現に向けて、共に議論し、行動していく必要があります。


4.経営者やリーダーが社会における変化を管理する

読者のみなさんは、イノベーションに対してどのような考えを持っているでしょうか?イノベーションがもたらす課題を解決するために、私たちは何をすべきでしょうか?
イノベーションを活用して、社会を変革する経営者やリーダーは、その影響力の大小に関係なく、これらの問いについて深く考えてみることが大事です。これらの質問をきっかけに、多様な意見を聞き、議論を深めていくことが重要だと考えます。本調査結果においても、経営者やリーダーが単に自らの事業における変化だけではなく、社会における変化について公に語り、管理することを期待する意見は過半数を超えていました。

今回の調査結果は、イノベーションを万能の解決策と捉えることの危険性を指摘しています。テクノロジーの熱狂と盲目的な追従は、常に危険な誘惑をはらんでいます。世界を席巻するイノベーションの波は、まるで万能の特効薬であるかのように企業の意識を捉え、競争の最前線で生き残るための死活的な選択肢として認識されることがあります。各企業は、この技術的な潮流に乗り遅れまいと、熟考を欠いたまま導入を急ぐのです。しかし、イノベーションとは本質的に単純な「課題解決のモデル化」にすぎません。モデル化の本質は、複雑な現実世界から特定の側面を切り取り、他の要素を意図的に排除することにあります。そして、この無視された部分が実は極めて重要な環境においては、そのイノベーションは期待された効果を発揮するどころか、新たな問題を生み出す危険性をはらんでいるのです。

したがって、万能のイノベーションなど存在しないのです。技術革新は常に文脈依存的であり、環境や社会の固有の特性を深く理解することなしには、真の価値を発揮し得ないのです。
企業の活動はしばしば、経営的視点からその有用性や効率性のみが議論されます。しかし、企業は何もない空っぽの中に単一に存在するのではなく、複雑に絡み合う社会システムの中で生かされ、影響を与え、また影響を受けています。そのため、イノベーションの導入に際しては、単なる経営上の合理性だけでなく、社会システム全体に及ぼす影響を慎重に、そして徹底的に検討することが求められるのです。モデル化されたイノベーションは、現実世界の複雑さを捉えきれないため、意図せぬ結果を生み出す可能性があるのです。新たなテクノロジーの導入が、雇用を奪い、社会不安を煽るケースも考えられます。


資料ダウンロード 資料ダウンロード
お問い合わせ お問い合わせ