物流デジタル化における3つの戦略的アプローチと目指すべきシナリオ|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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物流デジタル化における3つの戦略的アプローチと目指すべきシナリオ

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企業のロジスティクスはより細やかに消費者のニーズに近づいています。JITやカンバン方式が普及し、リードタイムやラストワンマイルも当たり前になっています。しかし、一方では物流デジタル化への取り組みはまだまだ不十分と言えますし、その背景には、いまだにロジスティクスに対する認識不足や軽視があるように思います。我が国が直面している物流デジタル可の課題は3つあります。まず第一は経営層の意識改革と人材育成です。多くの企業では、物流を単なるコスト部門として捉え、戦略的投資の対象としていません。デジタル技術の進展により、物流は企業の競争力を左右する重要な経営資源へと変容しています。経営者は物流をビジネス戦略の中核として再定義し、データドリブンアプローチを積極的に採用する必要があります。

第二の課題は、基幹システムと倉庫管理システム(WMS)の効果的な連携です。多くの企業では、基幹システムの物流機能だけでは生産性の向上に限界があり、柔軟性と最適化が不十分となっています。

第三の課題は、サプライチェーンの複雑化と柔軟性の欠如です。グローバル化と市場変動の加速により、従来の静的な物流モデルでは対応しきれない状況が生まれてい
ます。地政学的リスク、気候変動、パンデミックなどの予期せぬDisruption(破壊的事象)に対して、リアルタイムで対応できる動的な物流システムの構築が不可欠となっています。そこで重要となるのが、自発的モデル、目的別モデル、変革的モデルの3つの戦略的アプローチです。本稿では、この3つの戦略的アプローチを解説しつつ、ベンダー主導からユーザー主導へのパラダイムシフトを実現し、データドリブンアプローチによって、企業の競争力を抜本的に強化する方法を提示します。

2024年12月1日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

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<目次>

1.テクノロジーの歴史に学ぶ、イノベーションの真の力

2.物流デジタル化における3つの戦略的アプローチ

3.目指すべきシナリオと必要なアクション

4.小さな一歩が物流の未来を創る

1.テクノロジーの歴史に学ぶ、イノベーションの真の力

イノベーションの本質は、常に劇的な飛躍にあるわけではありません。むしろ、最も力強いイノベーションは、小さな改善の積み重ねによって生み出されることが多いのです。
下の絵は、1878年の雑誌『パンチ』に掲載された、ジョージ・デュ・モーリアの風刺画です。エジソンのテレフォノスコープという未来型通信デバイスの原型を応用した未来のテレビ電話の様子が描かれています。

■エジソンのテレフォノスコープを応用したビジョンを描いたジョージ・デュ・モーリアの画

説明文にはこう書いてあります。
– 毎晩寝る前に、ペーター・メーター一家は電気暗箱を寝室のマントルピースの上に設置し、地球の反対側に住んでいる子供たちの様子を見て楽しみながら、ワイヤーでつながった彼らと楽しく会話する –

当時から、人々は遠く離れた相手と視覚的にコミュニケーションをとる夢を描いていたことがわかります。モーリアが夢見たテレビ電話の概念は、まさに小さな改善の連鎖によって、今や誰もが日常的に使用できる技術へと進化したのです。しかし、その実現は一朝一夕にはいかないものです。テレビ電話の概念は、小さな技術的進歩の連鎖によって、徐々に現実のものとなっていったのです。

1960年代:最初の実験的なテレビ電話は高額で大型の専用端末でした。AT&Tがベルシステムパビリオンで展示し、一般市民に未来の通信技術を示しました。
1980年代:アナログ回線を使用したビデオ通話システムが登場。しかし、画質は粗く、通信コストも高額でした。
1990年代:デジタル技術の発展により、PCベースのビデオ通話が可能に。CUSeeMeなどのソフトウェアが先駆的役割を果たしました。
2000年代:2003年にSkypeが登場し、インターネット経由の無料ビデオ通話が一般化しました。帯域幅の拡大や、圧縮技術の向上の技術的進歩もありました。
2010年代:スマートフォンが普及し、LTEから5Gへの通信技術の進化を遂げました。FaceTime、WhatsApp、LINE、Zoomなどのオンライン通話用のアプリケーションが登場しました。

物流デジタル化もこれと同じ進化のプロセスを辿っています。劇的な変革を期待する声がある一方で、実際の進歩は漸進的で、時に不可視な改善の連続です。未来の予測は常に困難ですが、テクノロジーの歴史が教えてくれるのは、イノベーションの真の力は革命的な断絶ではなく、継続的で粘り強い改善にあるということです。企業の物流デジタル化もまた、大きな飛躍ではなく、日々の小さな最適化の積み重ねによって、その姿を徐々に変えつつあります。重要なのは、変化を恐れず、常に前進する姿勢なのです。

2.物流デジタル化における3つの戦略的アプローチ

私は、物流デジタル化を進める上で、ベンダー主導からユーザー主導へのシフトが必要と考えています。これは、企業が自らの物流戦略をデータに基づいて構築し、最適化することを意味します。データドリブン物流の重要性は、企業の経営者にとって無視できない要素となっています。しかし、多くの企業が基幹システム(ERP)の物流機能を利用しており、これが生産性の停滞を招くことがあります。基幹システムは全体の業務プロセスを統合する一方で、物流に特化した機能が不足している場合が多いためです。その結果、庫内オペレーションや在庫管理が非効率になることがあります。基幹システムと倉庫管理システム(WMS)を効果的に組み合わせることで、物流の生産性を向上させることができます。

以下に、3つの戦略モデルを紹介します。

1.自発的モデル
自発的モデルでは、既存のシステム環境を最大限に活用しながら、各部門が自発的にIncremental(漸進的)な改善を目指します。このモデルでは、基幹システムのデータを活用し、WMSを補完的に使用することで、庫内オペレーションの効率化を図ります。例えば、物流部門で必要な機能を基幹システムとWMSのデータ連携を強化し、リアルタイムでの在庫管理や入出荷業務の可視化を実現するといった導入ケースです。このモデルでは、在庫管理の主管は基幹システムが握ります。

2.目的別モデル
目的別モデルでは、特定の物流課題に対して最適化されたソリューションを導入します。例えば、倉庫内オペレーションの効率化や、在庫予測精度の向上に焦点を当てたツールの活用が全社的に検討され、導入を進めるモデルです。このモデルは、在庫の全体最適化を目指す企業にも適しています。基幹システムのデータを基に、WMSが在庫の動きをリアルタイムで管理し、最適な在庫配置を実現します。このモデルでは、在庫管理の主管はWMSが握ります。

3.変革的モデル
変革的モデルでは、サプライチェーン全体の変革を目指します。このモデルでは、基幹システムとWMSを統合し、データドリブンな意思決定を行います。そのためWMSにLFA機能を追加します。これにより、サプライチェーン全体の効率化と柔軟性を高めることができます。デジタルテクノロジーを駆使して、従来の物流概念を根本的に変革するアプローチです。単なるシステム導入ではなく、組織文化と業務プロセスの変革が不可欠となります。


3.目指すべきシナリオと必要なアクション

組織が達成したい目標に照らして、どのようなシステム、ワークフローをWMSで構築し、基幹システムと連携させるべきかを考えましょう。そして、そこでどのような管理タスクが必要になるかを把握します。

シナリオ1:庫内オペレーションの個別最適化
庫内オペレーションの個別最適化を目指す企業は、まず基幹システムのデータを活用し、WMSを導入することで、庫内の作業効率を向上させる必要があります。具体的なアクションとしては、ピッキング作業の自動化やリアルタイム在庫管理の導入が挙げられます。

シナリオ2:在庫の全体最適化
在庫の全体最適化を目指す企業は、基幹システムとWMSの連携を強化し、在庫データの一元管理を実現する必要があります。これにより、在庫の過不足を防ぎ、適正在庫を維持することが可能となります。具体的なアクションとしては、需要予測の精度向上や在庫回転率の改善が挙げられます。

シナリオ3:サプライチェーン変革
サプライチェーン変革を目指す企業は、基幹システムとWMSを統合し、サプライチェーン全体のデータを活用することで、効率的な物流ネットワークを構築する必要があります。具体的なアクションとしては、サプライチェーン全体の可視化や協力企業とのデータ共有が挙げられます。


4.小さな一歩が物流の未来を創る

技術の進化は、常に想像力豊かな先見者によって推進されてきました。1879年、エジソンのテレフォノスコープの構想を発展させ、未来の通信ビジョンを描いたジョージ・デュ・モーリアは、当時としては常識はずれと思われた技術的可能性を追求した先駆者の一人でした。彼の描いた未来、遠く離れた人々が瞬時にコミュニケーションを取る世界は、今や日常となっています。
物流デジタル化もまた、同様の革新的な道筋をたどっています。目の前の小さな改善が、やがて産業全体を変革する原動力となっています。

デジタル変革は壮大な一つの変化で起こるのではなく、日々の継続的な改善の積み重ねです。テレフォノスコープから現代のスマートフォンに至る進化の歴史が示すように、イノベーションは突然訪れるものではありません。それは、小さな変化を恐れず、常に前を向き、可能性を追求する姿勢から生まれるのではないでしょうか。物流デジタル化の旅は、まさにこの瞬間、皆さんの手の中にあります。一歩ずつ、着実に、未来を切り拓いていくことこそが、真のリーダーシップなのです。

 

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